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37.困難は人を成長させるって言うけどもういりません

 盾を持つ男――レオンスはユーリを品定めするように見ながら告げた。


「だが残念だけどよ、あんたが勇者であってもそうでなくても、うちに入れることはできねえな」


「どうしてです?」


「我々は呪いの地位向上のために活動している。そうでない者が活躍してしまえば示しがつかないのでな」


「名目上、だけどねー」


 団員達は門前払いとばかりにユーリを入団させる気のないことを告げているようだ。

 しかしそれはユーリも承知の上だ。


「でも、なぜ魔石教の討伐を公表しないんですか」


「奴らも中々手回しが効くからな、俺達の事は知られていない方がやりやすい」


 レオンスは自身の武器にもたれかかりながら非常に寛いだ様子で語る。普段から軽く他人と接していそうな印象だ。それとも今は相手がユーリを年が下だと捉えているからか。

 簡単には許可されそうにない様子にユーリは息を吐き、すっかり諦念を露わにした。


「はあ……分かりました。僕もそこまでして入りたいわけではありませんでしたから」


「はっ。中々傷つくこと言ってくれるじゃねえか」


「それでも気味悪がって近寄らないのが普通よ。興味を持ってくれただけでも感謝すべきね」


「なるほど、彼は既に勇者の器を持ち合わせているというわけか」


 エルフの女性がそう言うと皆賛同して頷いている。まさに鶴の一声、彼女はこのパーティーの中でも発言力がある方なのか。見ると胸には赤いバッジを付けている。

 徽章をつけていない者もいることから全員が冒険者ではないようだが、実力に関しては恐らく互いの態度から察しても拮抗しているのではないだろうか。


 ニルスが何気なしにその集団を眺めていると、今度は矛先が彼に向いた。


「ところで、そこの。呪いと聞いて真っ先に反応しましたよね。何か言いたいことでもあるならその汚い口を開いて言っておいた方が良いですよ」


「おい、待てよ。またそうやって治療院送りにするつもりか?」


 少女は売った喧嘩は買わんとばかりに杖を構え、どうやら一触即発の事態に至ってしまったようだ。

 そこへ盾持ちの彼が静止に入る。使われた文句から、如何にこの幼女が厄介なのか窺い知れた。


 そもそも見ていただけのはずが、突っかかってくるとはどこの暴力集団だろうか。

 そして彼女がレオンスに向ける言葉も辛辣だ。


「あなたは戦闘要員ではないのですから、指を咥えて待っていればいいのです」


 ニルスは盾の彼を哀れんだ。パーティー内での序列が窺い知れたのだ、恐らくレオンスは他の面々からもまともな扱いをされていない。


 そしてニルスも謂れのない疑いを払拭するために反論する。


「俺はただ、自分も呪われた剣を持ってるから――

「私は機嫌が悪いのです。だから大人しくぶちのめされてくださいっ!」


 問答無用だった。端からニルスの弁解など聞く余地もなく、憂さ晴らしのためにでもニルスを使うつもりなのだろう。


「『クロス(魔布)』!」


 瞬間、布のような魔力が体に巻き付いてくる。絡みつくように、ニルスの体を締め付けて苦痛を与えようとしているようだ。

 ニルスは咄嗟に右手でその一部を掴む。


「無駄です。お前のような底辺冒険者に破ける布ではありません」


「マリナ、やめなさい! マナまで使ったら彼が危ないわ!」


 エルフの女性、フェリシーが叫んでマリナを止めに入る。ニルスが危ないと見越しての行動だろう。そうとなると、この少女は中々に危険な魔法でも使うつもりなのかもしれない。


 ならばここは下手に刺激せずに、穏便に済ませなければ。ニルスはそう思い、多少力を込めただけでは破れそうになかった布を手放し、努めて優しく話しかけてみた。


「そちらの言い分は分かった。俺も、いい精神負荷の解消法を知ってるから――」


「うるさいですよ!」


「むぐッ!」


 彼女はニルスの言葉を最後まで聞かずに、布を猿ぐつわのようにしてニルスに咥えさせてきた。これでは会話が続行できない。


「私のために苦しむがいいです」


「いい加減にしろ! 『コンバッション(炎上)』ッ!」


 盾の男が止めに入ったところでニルスもいい加減に布を引きちぎった。魔法の効果か、布自体はすぐに霧散してしまったが黒色の何かだけが手の中に残る。


「何だこれ」


『それがマナよ』


 頭の中でヴィオレッタが答える。見覚えのあるこの光はマナというものなのか。そして最近はやけにニルスもその名を聞くようになった。何か特別な使い方があるのだろうか。


『マナは大気中の魔力を集めて固めたものだ。本人の魔力に関係なく扱えるって話だから万人向けの攻撃法だな』


 するとラーシトがさらに解説を加える。どういった風の吹き回しか理解できないが、助言にも似た言葉をニルスに与えるのだった。

 そのニルスの心情が伝わってか、彼は「オマエが強い方がオレにも都合がいいんだよ」と言い訳じみた言葉を吐く。


『万人向けとは言うけど、その扱いは生半可じゃマスターできないものよ。まあ、試しにやってみたらいいんじゃない?』


 ヴィオレッタに勧められるものの、ニルスにはマナの感覚そのものが未だに掴めていないので実行に移せなかった。


「え……」


「どうした、マリナ?」


 ニルスの向こうでは、少女が目を見開いて自身の手を見つめていた。


「私の魔布が破られました。素手で」


「それは本当なのか? 俺が燃やしたからではなくか?」


「ええ。確かに破られたと感じました。あなたも私の感覚ほど優れているものはないと知っているでしょう?」


 幼女が慌ただしくレオンスに問いかける。それはニルスが布を破ってしまったことに原因があった。そして災難はまだ続くのであった。


「へえ、紫だから期待してなかったけど、もしかして実力を隠してるだけなのかしら?」


「フェリシーからも一発ぶち込んでやってください。あの顔を見てたら腹が立ってきました」


 今度はフェリシーが携えた弓を構え弦を引く。矢は継がれていなかったはずだが、黄の光が徐々に集約していくと、矢を象って彼女が手を離すとともに打ち出された。


 速い。放たれたかと思った直後には既に眼前へと迫っていた。

 そしてその矢を、ニルスは空中にて難なく掴みとってしまった。


「マナを素手で……なんて無謀な、いや、この男、マナが使えないだけなの……?」


「それも無傷で……でたらめだな、こいつぁ」


 彼らは何かを言っているがニルスも無傷ではいられなかった。油断してたため肩に突き刺さり、僅かに遅れて掴むことに成功していたのだが、傷は浅いようで助かったと一先ず安堵する。


 そしてそのマナに触れた瞬間、少し力が抜けるような感覚に陥った。脳内で語るヴィオレッタによると、マナに生命力が吸い取られているらしい。


 しばらくニルスがそれを眺めていると途端に矢は形を失い大気中へと散り始める。


『感覚は分かったろ。次はそいつをもう一度呼び寄せるイメージで、いいか、集中が必要だぞ』


 事細かく説明してくれる悪魔に少々の感謝を寄せながら言うとおりに集中してみる。

 それでもこのマナを扱う技術、中々に難しいように思えた。


「こ、今度はマナを練り始めたわ……!」


「この短時間でか⁉」


 短い時間、ということは本来は時間がかかるものなのか、とニルスは耳を傾けながら考える。


『オマエの場合、マナを直接受けたりしてるから、体に少し馴染んだんだろうな。まともな奴ならその時点で致命傷だがよ』


 ラーシトにまともでないと言われてしまうあたり、ニルスはやはり異常なようだった。彼にとっては心外なほかない。しかし、彼自身呪いを受けている点では自覚はしていたのだが。


「しかし、上手くいかないもんだな……」


「ど、どうやら初めて練ったみたいだな。これで嘘だったら、とんだ演技派だぜ」


「それでもぉ、あんなに扱えるなんてよっぽどじゃない?」


 ニルスの行動が彼らの驚愕を誘う。しかしニルスにはレオンス達が幾ら驚こうとも関係がなかった。


「帰るか……」


 呟いて踵を返す。彼らといると少し苛立ちが襲ってくる。なぜあれほどまでに個性の強い人員が集まっているのか、世界の神秘である。


「待ちやがるのです!」


 真っ先に引き止めてくるのはマリナ。だが言葉を選ばないあたり、ニルスは彼女に少しも好感が持てなかった。


「あ、人に物を頼むときの態度というものがあるのでしたね。……えっと、待ってください」


 どうやら多少の礼儀はあるようだ。ほんの少し、米粒みたいなものだがと、ニルスはその様子を褒めるでもなく続きを促した。


「あなた、私に散々痛めつけられておいて何も返さないつもりですか。あ……いや、謝罪なら、するという意味で」


 この少女、口ほど心は腐っていないのかもしれない。自身の過ちを反省できることはかなり大切なことだ。

 ニルスはそれに応えるように自身の事を明かす。


「……ただ、俺も同じだからな。仕返しは魔石教団の分に取っておくよ」


「え……同じって、どういう……?」


 戸惑うマリナを、ニルスは気にせず立ち去ろうとする。ところが地面を滑るように駆けてきた盾の男、レオンスに道を遮られる。


「ほう……まさか、あんたの方がそうだったとはな。だから呪いにも反応したと」


「俺も正直、同族がいて嬉しくは思ったんだけどな」


 だが、こんなにもあまり関わりたくない人種だったとは知らなかった。

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