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36.この人生の登場人物濃くない!?

「……あの衝撃が、きっと何千年もの経験にも代えがたいものだったのよ。だからこの姿になったのね……」


「何だか浮かない様子だな」


 ニルスは現在自身の用事に付き合ってほしいとユーリに外へ連れ出され、街道を歩いている。用はギルドにあるのだと言う。

 そんな中、ヴィオレッタが重い口調で突然起こった現象について話した。意外なことに活力のない表情で彼の横を飛ぶ彼女だった。


 昼真っ只中、建ち並んだ家屋から覗く太陽はそんな彼女を褒め称えるように輝かしく照っていた。


「……実はね、精霊はこの姿になったら女神様の所でお仕えすることになっているの」


 ニルスとヴィオレッタの間に沈黙が生まれ、幾らか時間が経った後に精霊は口を開いた。


「女神様……?」


「ええ。伝承の、ね」


 伝承は詳しく知らないが、確か女神と勇者が登場人物の中にいたことはニルスの淡く記憶に残っていた。つまり彼らは実在したのだ。

 それを言葉にする前にヴィオレッタが話を続ける。


「ここから面白くなってきそうなのに、あんまりよね。成長したってのにニルスから離れないといけないなんて、なんだか複雑だわ」


「え……仕えるって、ずっとなのか?」


「ええ。ずっと」


「常に、か?」


「そうよ」


 淡々と答える彼女との間に再び沈黙が訪れる。出会いは突然だったが別れも突然だった。人の巡り合いとはそういうものなのだ。


「まあ、今すぐにってわけじゃないんだけど、要請があった時に急いで行かないといけないし」


「……そうか」


 ニルスとしても心境は穏やかではなかった。彼女には振り回されてきたが、呪いの面では多少世話になった。半分の遺恨には目を瞑るとして、だ。


「それにしても驚いたでしょ、女神様とか」


 雰囲気が暗くなるのを避けてか、ヴィオレッタは話題を変えておどけた口調で話す。


「そう言われても、突然の事でまだ理解が追いついてないな……ユーリはどう思う?」


「僕?」


 黙々と前を歩き続けるユーリは、一度振り返って聞き返してくる。この話に本当に興味がないのだろうか、先程から割り入ってくる様子がなかった。


「僕は別に何とも思わないけど……なにせ、僕は勇者だし」


「……え?」


「あ、言ってなかったね。僕、勇者なんだってさ」


 あっけらかんとした表情でさらっと言ってのけるユーリは、まるで他人事のようだった。それほどまでにユーリにとっては現実離れした事柄だったのか単に彼の受け入れが良いだけなのか。


「勇者だって?」


「うん。この精霊、女神の遣いらしくて、僕が勇者だってことを伝えてくれたんだ」


 ユーリの頭からは淡く白い光が浮かんで出る。弱々しい輝きながらも透き通るように真っ直ぐ視界に映り込む光は、やはり女神の使いだからか。


『げっ、勇者かよ。関わらないでおこう』


 ふと、頭の中に居座る悪魔が呟いた。魔族にとっては天敵とも言える存在には、やはり近寄りたくないようだ。

 とは言っても、彼がニルスから抜け出してユーリと接触する術は今の所ないのだが。


「ふーん、ユーリちゃんが勇者ねえ……確かにそれっぽい感じはするけど、少し線が細すぎる気もするわね」


「余計なお世話だよ」


 ヴィオレーヌが指摘すると、気にしているのかユーリは少しだけ不機嫌になりながらギルドへの道を進んだ。



 そして見えてきたギルドの建物。荘厳な面持ちで佇んだ邸宅のようなその建造物には、ユーリが面会する予定の人物が待っているのだとか。


「到着か。まさか道中で驚かされるとは思わなかったな。どちらかというと、ユーリが勇者だって話の方が驚きだったけど」


「な……何てこと言うのよ! ああ、私はこうやって、どうでもよかった出来事として記憶から消えていくのね……」


 軽はずみに言ってしまったばかりにヴィオレーヌを落ち込ませる羽目になった。ニルスはユーリの後をついていきながらも彼女をなだめつつ、歩を進めた。


「あ、『|インプリズンド・ヴェセル《囚われの器》』の皆さんですか?」


 ユーリがギルドへと入り、ロビーで寛いでいる団体に話しかける。椅子から少し勢いをつけて降り、それに応じたのは杖を片手に持った幼女だった。


「そうですが。もしかしてどこぞのユーリというのはお前のことですか?」


「お、お前……?」


「ごめんなさいねぇ。この子、口悪くてー」


 同じく座椅子から立ち上がり、槍を持った女性が幼女の頭を撫でる。それを受け、杖の少女は噛みつきそうな勢いで反撃した。


「保護者面するんじゃないです! このケツデカ女!」


「……ちょっと向こうでお話しましょうかー?」


「ふん、望むところです! 私を子供扱いしたこと、後悔させてあげます」


 目線の高さがちぐはぐな二人の間には、激しく火花が散っているような幻想が浮かんだ。


「やめんか。客人の前だ」


 座りながら渋い口調で諌めるのは、大柄で立派に携えた斧と髭が特徴的な男。背丈は先程の女性より低いようだが、ドワーフという種族だろうか。


「それで? 入団希望だっけね」


「ええ。よろしくお願いします」


 弓を肩に下げる耳の長い女性がユーリに尋ねる。今度はエルフ、このパーティは種族がバラバラなようだ。

 そしてユーリは入団希望ときた。そのような話をニルスは聞いたことがなかった。


「実力は申し分ないようだな。……では、単刀直入に聞く。お前は何を持っている?」


 ドワーフの男はユーリの身に付けた徽章を一度だけ目線を合わせ、ユーリへと戻す。そのバッジは赤く光っていた。ニルスの知らぬ間に、赤等級へと上がっていたのだ。


「何を……持っているか、ですか?」


「……ん? 入団条件を知ってて来たんじゃねえのか?」


 傍らにいた盾持ちの男性が聞いてくる。盾というだけだが、カーラの取り巻きと微妙に被る。


「条件?」


「はあ……あのなあ」


「私達がどういう集団か知っていて?」


 呆れたように彼らは応対し始める。ユーリはまさか入団の資格を知らずして訪れたのだろうか、ニルスはそんな彼の非常識な態度に耳を疑った。そもそもなぜ入りたいのだろうか。


「魔石教団を討伐するための集団……ですよね」


 その答えにニルスは咄嗟にユーリの顔を見た。他の者もなぜかハッと息を呑んで彼の顔を見つめる。


「それは、確かにそうですが……というか、なぜお前が知っているんですか!」


「あれ、公にしていないんですか?」


「名目上は呪いの名声向上のために集まってるんだが……やれやれ知られているとは」


「呪い……?」


 ドワーフの彼は今、呪いと言ったのだろうか。それはどういう意図で発せられたものだったのか、ニルスはつい呟いてしまった。


「知名度はまだ低いか……いいだろ、改めてここで自己紹介と行こうぜ!」


「うむ」


 頷くドワーフと、少々呆れ顔の女性陣。一体これから何が始まるというのか。


「跳躍を禁じられた紅蓮の盾、レオンスだ!」


「え、次私? えっとぉ……息吹を奪われ倦怠をその身に宿す蒼穹の槍士、キアラよー」


「愚鈍の名を冠し誇り高き雄黄の戦斧を掲げる、我が名はオーバン」


「ち、知性は苦痛、たた高鳴る鼓動は射抜く心、緑翠の弓士、フェリシーよ」


「閉ざした瞳で真実を見る、純白の魔道士マリナです。私ほど清い者はいませんからね、当然です」


 一瞬、何が始まったのか分からなかった。実際、今も理解できていない。ただ、何らかの危ない雰囲気を醸し出していることだけは明らかだった。


「ユーリ、帰ろう」


「えっ、でもまだ話が……」


「お前も見てただろ。あれは絶対に関わっちゃいけない人達だって」


 早々に立ち去ろうとニルスは弟の腕を掴むが、ユーリは立ち止まったまま動かない。まずい、感化されてしまったか、と彼の顔を覗く。年頃の男子には刺激が強かったかもしれない。


「ほ、ほら! やっぱりああいう反応されるんじゃない!」


「心なしか気温が下がったようなー?」


「品性に欠けますね。その貧相な脳みそではこの程度しか考えられないのでしょうけど」


 顔を赤くして不満気なエルフ、辺りを見渡して首を傾げる槍の人、そして溜め息を付きながらの毒舌少女だ。

 彼女らはこの奇妙な自己紹介に賛成ではなかったようだが、妙に乗り気だったことには触れないほうがいいだろうか。ニルスは目を細めて彼らを見ていた。


 そんな中、盾と斧は二人、成し遂げたような顔をしていた。


「それで、あんたの呪いは何なんだ?」


「呪いはありません」


「ない? それで入団を希望したのか」


「勇者を引き合いに出せば入れて頂けると思いまして」


 質問を繰り返す二人へ顔を向けながら答えていくユーリ。入団のための選考のようなものが、既に始まっているのか。


「勇者? その紹介があるとでも言うのかしら」


「いえ、勇者は僕自身です」


「ほう……君がか」


「疑わしいですね。ここは嘘つき小僧の鼻を明かしてみましょうか」


「小僧、ね。まさか年下にそこまで言われると思わなかったな」


 ユーリがそう言うと、幼女は反対に怒りを表情に浮かべて喚いた。


「この見た目は種族的なものです! 年は青っ鼻なお前よりも上ですから!」


 その言葉を聞いて、一同が一斉にその方向を向く。外見に騙されてはいけなかったのか。


「何見てるんですか。っていうか、お前らは知ってるじゃないですか!」


「いやあ、マリナは反応が面白いからさ」


「ついからかいたくなっちゃうよねー」


 失笑するメンバーに杖の少女は不満そうだった。

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