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27.使命を受けし勇者②

 アシュレイがニルス達の部屋へ訪れた時、ニルスと同様にユーリも目を覚ましていた。暗闇の中、彼らの様子を目を細めて見る。

 ニルスはひとまずここから逃げ出すために反対側へ転がろうとしているようだった。しかしそこを手足で抱きつくように掴まれてしまう。


「リナぁ……」


 アシュレイが寝言を呟く。

 どうやら本当に部屋を間違っていただけのようだ。


『わぁ、ニルスさんはあの状態でどうするんでしょう』


 ユーリの頭の中でイーリスが恥ずかしげに告げた。彼らの行動に興味があるようだった。


『うーん、でもまだ何もしそうにないかなあ』


 何を考えているのかニルスは固まっている。あまりの出来事に眠れなくなったか。

 ユーリは面白くなりそうだとしばらく目をやっていると、アシュレイが目を開ける。


「……起きたか?」


「…………えっと……ごめんなさい!」


 すると彼女は自身の状況に気づいたのか耳まで顔を赤く染め上げる。ニルスに対しての発言は一々大胆にも関わらず、なんと初々しいことか。

 しかし彼女は音を立てるほどに勢い良く起き上がり、脱兎の如く部屋から飛び出していってしまった。


「ちょっ、アシュレイ?」


 ニルスが戸惑いの声を上げるものの、彼女の姿はそれきり見えることはなかった。


『アシュレイさん、逃げちゃいましたね』


『ま、今後に期待ってとこかな』


 未だに眠れなくなっているニルスを置いて、彼も就寝した。




「おはよう兄ちゃん! 昨晩はおたのしみだった?」


 翌朝、早くから朝食などを準備していたリナとともに寛いでいるとニルスが起きてきた。そこへリナが屈託のない笑みを向ける。


「おはよう。お前の仕業だったのか……」


「違うよ! アシュレイ姉ちゃんは本当に部屋を間違えたんだって! 私は姉ちゃんがトイレから戻ってこないなーと思って覗いただけなの」


 それを聞いたニルスは向かいに座るアシュレイの顔を見る。彼女は少しだけ俯いた。


「あー、そうだ。アシュレイ、今日の依頼の件なんだけどな」


「うん」


「グリフォン討伐の依頼があったからどうだろうと思って」


「うん」


「……話聞いてるか?」


「うん」


「いつからにしようか」


「うん」


 これは駄目だと、ニルスが肩を竦める。アシュレイが上の空になっている。試しにニルスは彼女を揺さぶってみると、数秒後に意識を取り戻した。

 ところがアシュレイが彼の顔を見ると途端に顔全体が赤く染まっていく。その光景は傍観者のユーリにとって面白いほかなかったが。


「もう少し時間を置いた方が良さそうだね」


 ニルスに視線で助けを求められてしまったので、少しばかり助言をしておく。

 そう言いつつ、自身にはあまり時間を無駄にしている余裕はないことを確認していた。

 使命が自身にはあるのだと、気を引き締めて。



――――――――



 昼、ユーリの助言を受け取って今日は休むことにしたニルス達を尻目に、彼は聖剣を腰に魔法を唱えた。


「『トランジション』」


 そして彼はその場から風のように消えた。



 辿り着いたのは以前旅を中断した場所より、少し王都へ引き返した位置にある魔族の村だった。


『あの、お仲間は?』


 今回は仲間を連れていない。彼らなどいても役に立たないどころか足を引っ張るばかりだ。


『イーリスだって彼らが実力不足だって分かってるでしょ。必要ないよ』


『でも、一人で魔王を討つんですか……?』


 イーリスは不安そうに尋ねる。そこに、声がかかる。


「あ、あれ? お兄さん今突然現れて……?」


 声が聞こえたので目をやると、エミールと同じ身長の小柄な少女がいた。頭には羊の角を生やしている。


「今のってもしかして転移魔法ですか? ひょっとしてお兄さんは勇者で、魔王を倒しにいくとかじゃ……。あ、あの! どうか引き返してくれませんか? 魔王が倒されたら私達の村まで……」


 少女の言おうとしていることはユーリにも理解していた。だが正直魔族に特別な思い入れはない。どうでもよかった。


「ごめんね、僕は使命に従うよ。君も命が惜しかったら逃げたほうがいい」


 心傷を負うことなくそう告げた。使命とは国王から受けた勅命のことではない。

 頭の中で誰かが魔王を打倒せよと叫んでいるのだ。

 それが勇者の本能によるものなのか、聖剣なのか、どこかにいる女神のものなのか分からなかったが、それを聞くたびに衝動は大きくなっていく。

 もはや、彼を止められるものはいなかった。


「これは……一大事です」


 魔族の少女は顔面蒼白に、そう呟いた。


「おーい、そろそろ休憩終わりだぞ。……どうした? プエンテ」


「いえ、きっとまだ大丈夫なはずです。それまでに、どうにか対策を……」


 かけられる声に気づかないほどに姿の遠くなるユーリを細めた目で追いつつ、プエンテと呼ばれた少女は駆け出したのだった。



――――――――



 ユーリが北へ進むと、魔族が彼らを見て武器を構えながら警戒することが多くなった。ここ、大陸の最北端に存在する魔王城周辺では、人族と敵対している者も多いのだ。

 だがユーリは彼らに手応えを感じてはいなかった。そして難なく魔王のいるとされる玉座の間へと辿り着く。


『本当に、ここまで一人で……でもユーリさんなら大丈夫そうみたいです』


 これまでの戦いぶりを評価すると、確かに魔王さえも打倒してしまいそうではあった。


「よく来た勇者よ。私がこの魔王城の最後の砦、私を倒せば――ぐばッ! 卑怯な……勇者よ」


 そんな彼らを待ち受けていたのは龍の角を生やした、くすんだ水色の長髪の男性。

 足首まで覆えるほどの長く黒い外套を羽織ったその人物はユーリの元に立ちはだかったが、話に興味のない彼はいきなり斬ってみせた。


「話が長そうだったからね」


「ふっ。しかしこの程度で私が倒れると思ったら残念だったな。『コンプリーション』!」


 魔法が発動すると地属性の魔力により傷が補完されて癒えていった。しかしユーリの表情は変わらない。


「次はこちらからいくぞ。『リプレイスメント』!」

「つっ……」


 何かが腕を掠めたのか、痛みが走る。しかしその魔法とやらが飛んできたようには見えなかった。

 何しろ問題なのは傷は見当たらないのに腕が動かなくなっていることだ。


 動きをいつまでも止めているわけにもいかない。ユーリはすぐに魔族の後ろへ回り込むように足を走らせた。


「速い……!」


 驚くべきことに、ユーリの速度には追いついていないようだった。彼がまた先程と同じ魔法を唱えたため、ユーリが躱すと再び何かを唱え、体を地魔法で覆う。


 まるでユーリの動きを予想していたかの行動。彼が攻撃を加えると聖剣がその壁にぶち当たり、砕けるものの、彼は動きを一瞬止めてしまう。

 その隙を狙って、魔族が動く。


「食らえ! 『ミサイル』ッ!」


 砕けた壁の破片が今度は凄まじい速度でユーリに向かっていく。さらに追い打ちをかけるように彼も槍でユーリの胸に突き刺そうとする。


「遅いよ」


 しかし、ユーリは飛び上がって破片を避けるとそのまま聖剣を振り下ろして肩から斬る。


「ぐあッ! ……これが、勇者か。最後まで太刀筋が見えなかった。しかし残念だったな、私は魔王ではない。いずれ魔王様がお前を……ああっ、魔王様今どこにいるんですかッ! どこ行っちゃったんですかあぁッ! うわあああああああッ!」


 そして何の演出か、その身を破裂させて息絶えていった。衣服が汚れてしまい迷惑がるユーリは、一先ず帰宅することにした。

 魔王がどこへ行ったのか調べる必要もありそうだ。


『あの人、きっと魔王の部下でもなんでもないですよ。じゃなきゃ連絡をしないなんてことしないですもんね』


『そうとも限らないと思うけど、まあそうだね』


 この魔族が極度の嫌われ者で、同族からすらも煙たがられている可能性もあったが、どちらでも大して自身に影響はないだろうと考えを打ち切った。



 その夕食、少し調子を取り戻したらしいアシュレイはニルスに食事をよそっていた。

 本日の夕食はよく炒められた野菜と豚肉が、ほんのり酢の効いたとろみのある汁と絡まり合っていい香りをだしている。


「じゃ、天と地と水の恵みに感謝し、女神より生を賜ります!」


 本日の食事担当のリナの音頭に合わせてユーリも食事の挨拶を済ませる。


「それ、リナの精霊?」


「うん!」


 見ると、リナの周りを赤い光が飛んでいる。宿主と同じように活発そうな精霊だ。

 話を聞けば、ニルスとともに精霊の森へと赴いて契約をしてきたとのことだった。

 時間がかかると思われたが、なんと四半刻ほどで精霊に好かれてしまったらしい。


 そう考えるとニルスは余程異彩を放っていたために二刻以上もかかったのだろう。

 いや、ヴィオレッタが特殊であったことを考えるとこのまま永久に契約ができなかった線もあった。


「ユーリ兄ちゃんと一緒で、なんかこう、ぐぐぐっと力が湧いてくる感じだよ!」


 彼女の精霊は攻撃による威力を高めてくれるとともに、その成長も促進してくれるという。

 こうしてみると精霊を宿すという行為は呪いと似たような効果を示しているとユーリはふと思った。

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