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26.なんかこの人生濃くない?

 ドラゴンを討伐して帰宅したニルス達の元へ突如として現れたユーリとその後ろの二人に、ニルスは驚かされる。何もない場所から瞬間的に出現したように見えたのだ。


「あ、兄さん」


「お帰り、でいいのか?」


 彼は転移魔法で他二人を引き連れてきた。聖剣を得たことにより、自身の勇者としての力が自然と認知できるようになっており、その魔法も脳裏にあった。


 魔法の効力を理解した上で一度帰還したユーリは本日のパーティー解散を告げる。戦士は何も言わずに踵を返し、魔術師が頭を下げてからその後を追う。


「同じパーティーの人達か」


「うん。兄さんは今日どうだった?」


「ドラゴンを討伐した」


 横からアシュレイが出て告げる。それに驚愕するのはユーリだった。


「ドラゴンを?」


 兄は先日までほんの僅かしか武器を動かすことができなかったはずだ。それをドラゴン討伐とは、中々に大きい獲物だと思った。それならばあの王国随一などという戦士よりも何倍も頼りになる。

 もっとも、アシュレイが全て片付けた可能性も捨てていないが。


「ドラゴン程度じゃニルスを止められない」


 なぜか胸を張るアシュレイだが、その言葉にユーリは自身の見解の誤りに気づく。やはりドラゴンはニルスが倒したのだ。


「兄さんだって力が無いわけじゃないからね」


「むしろ力が有り余ってる」


「違いないね。でも、どういう手法をとったの? もしかして意識を捨てれば攻撃ができるとか」


「まさにそう」


「そっか。やっぱりヴィオの言うとおり、呪いっていうのは意識に大きく関わってくるんだね」


 ヴィオレッタから聞いた話を元に、推測で事実を言い当てるユーリ。そんな彼にアシュレイは内心驚いていた。


「まあ、それより僕は母さんに話があるんだよね」


「ん? どしたの?」


 座っていたリゼットが軽く声を上げる。机に肘をつき、頬に拳を当てて体を弛緩させている姿は親の威厳など微塵もなかった。

 しかしそれは以前から変わっていないこと、ユーリ達が気にするような問題ではない。


「今日、国王に会ってきたんだ」


「っ……!」


 その瞬間、表情が緊迫したものに変わる。そしてリゼットは僅かの沈黙の後、ユーリの顔を窺った。


「……その様子だと、色々聞いてきたんでしょ」


「うん、まあね」


「その国王と母さんに何の関係があるんだ?」


 ニルスの問いにユーリはリゼットと視線を交わして了承を得る。彼ならば話しても構わないということだろう。


「国王は、母さんの弟なんだ」


「……それはつまり」


「母さんは王族だってこと。正確には元王族だけどね」


 その言葉にリゼットはため息をつく。一体どこまで詳細な情報を手に入れているというのだろうか。


「色んなことを話してくれちゃったみたいだねえ、あの子は」


 そんな嘆きにも近いような呟きが彼女から漏れる。


「元って、どういうことなんだ?」


「あたしは、逃げ出してきちゃったんだよ。王族としての気品だの立ち居振る舞いはどうも続けられなくって、息が詰まったんだ」


「そこに現れたのが父さんってわけだね」


「うん。スティードはあたしに外の世界を教えてくれた。そこから逃げ出したい気持ちが強くなっていったよね」


 そしてリゼットは神妙な面持ちへと表情を変える。姉弟らしく、その様は国王と似ているとユーリは思った。


「でも、それは浅はかな選択だった。あたしが城を飛び出してすぐ、父さんが亡くなったんだ」


「そっか。そういえば、今の国王の即位って20年くらい前だっけ。でも母さんは関係ないでしょ?」


「ううん。その時さ、父さんは体調を酷く崩してた。それで、あたしがいなくなったと聞いてさらに容態が悪化したらしくてね。……結局持ち直すこともなくて……あたしが殺したも同然だよ」


 俯くリゼットに、ユーリもつられてその暗い気に当てられる。しかしそれは、反省の念があってこその表情だろう。

 だからこそ、彼女は自身の思いを押し通すようなことをするべきではないと、リナに教えたのだ。


「……ごめんね、こんな暗い話になっちゃって。まあ、近々あの子には会いに行こうかな」


「うん。国王様も会いたがってたよ」


 それを聞いたリゼットは、どこか遠い目をしていた。



――――――――



『うーん、どうしようかしらね』


『どうしたんだ?』


 ニルスの自室にて、脳内でヴィオレッタが唸り、それを気にかけたニルスが動機を問う。すると、彼女は頭から飛び出て姿を見せる。


「リナちゃんのことなんだけど、あの子、内包する魔力がかなりあるのよね」


「そうなのか」


 確か彼女は魔法よりも身体を使うことの方を好んでいたはずだが、何とも皮肉な話だ。


「このままその才能を腐らせるのも何だから魔法を教えようと思うんだけど、ギルドに入るってのもそれだけじゃ無益な気がするし」


 魔法を覚えるからには何かに繋げたい。ヴィオレッタの考えにはそういった思考があるが、ギルドは所詮依頼と魔石の高額売買を請け負うだけ、リナ個人にとってはあまり有用ではない。


「ああ、いっそのことニルスのパーティーに入れたらいいのよ。パーティーを組むのが冒険者同士のみという決まりはないし。ええ、それがいいわ。そうとなれば早速魔法を覚えてもらいましょう!」


 彼女は思い立って「リナちゃーん!」と言いながら部屋を飛び出していった。

 勢いがあるのはいいと思うが、どうも振り回されるのは自分ばかりだと、損な役回りにニルスはため息をつき、後を追う。



「とりあえずぱぱっと練習始めましょうか」


「うん!」


 ニルスが辿り着くと、話は早いようで既に了承済みのリナの姿がそこにあった。魔法を使うどうこうには、拘りはなかったのだろうか。


「まずは魔力ね。リナちゃんは体の中を大きな力が流れているのを感じたことはある?」


「たぶん、あるかな」


「それが、恐らく魔力ね。その溢れるエネルギーを用いて、魔法という現象を引き起こすの」


 魔力は現象を引き出すための手段だと、ヴィオレッタは説明する。


「あと大事なのはイメージね。体内で現象を呼び出すための魔法式を構築して言の葉に乗せる。そこへ魔力を循環させれば自ずと魔法が放たれるはずよ」


「う、うん……」


「あらあら、そんなに難しく考えるのも駄目だわ。……ひとまずそうね、光を放つイメージでもしてもらおうかしら」


「うん、分かった」


 しかしリナは目を瞑って難しそうに表情を変化させてしまう。瞼や口には力が入っている。


「もっとリラックスして楽に考えるのよ」


 その言葉に表情が少しだけ和らぐ。


「そう。そしたら唱えてみて、『光れ』と」


 ヴィオレッタはそう指示を出す。それに従ってリナは言葉を発する。


「……『シャイン(光れ)』」


 戸惑いつつ声を発したにもかかわらず、突き出された手あたりに眩いほどの閃光が生じる。


「うわ、まぶしっ! ……凄い、凄いわ! 蓄積量だけじゃなく、放出量も眼を見張るものがあるわよ!」


「そ、そうかな? えへへ」


 何のことか分からずにいたが、リナは褒められて嬉しそうな表情を作る。その周りをヴィオッタは少々興奮気味に飛び回っている。


「そしたら次は治癒魔法、発動させてみましょう!」


「うん!」


 そして、ヴィオレッタ指導の下治癒魔法と睡眠魔法までも凄まじい効力を発揮して彼らを驚愕させた。


「思ったんだが、随分と簡単そうにやるんだな」


「そうでもないわよ。リナちゃんの潜在的な魔力量が半端なかったからで、本来初めは魔力放出量の一割も出せないものなのよ」


「魔力放出量?」


「ええ。生物は皆、潜在的に魔力を蓄えられる量と一度に放出できる量が決まっているの」


 幾ら体内に魔力が蓄積されていようとも、それを放出する口が狭ければ魔力量に頼った魔法は放てない。

 魔力を見通せる彼女はリナに蓄積されている夥しい量の魔力が隠されていることに気づいてはいたが、まさか魔力放出量さえも非常に多いとは思っていなかった。


「ニルスも実は放出量が結構あるのよ。残念ながらほとんどと言っていいほど蓄積量がないのだけど」


「放出量、あるのか?」


「魔力をユーリちゃんから渡された時にそれと同等の魔力がニルスの体から一度に抜けていったわ。あれなら、リナちゃんにも匹敵するんじゃないかしら」


 しかし魔力を蓄積できなければ放つ魔力もない。やはり傷を負ってでも魔力の譲渡を行うしか、方法は無さそうだった。



――――――――



 その夜。ニルスが扉の開く音に目を覚ますとアシュレイが部屋に入ってきた。そして驚いたことに、そのまま彼のベッドに入り込むのだった。

 まさか、寝ぼけてでもいるというのだろうか。


 そしてアシュレイは瞬く間に寝息を立ててしまうのだが、ニルスの心境は穏やかでない。


 この状況、どうするべきか。

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