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23.いなくてもきっと話が進みますね

「あれが、ニルスの両親なのね」


「うん。それとリゼットさんは私の師匠でもある」


 リナとともに席につく男女の姿を確認しながらヴィオレッタが呟くと、呼応してアシュレイが紹介を挟む。

 しかしそれは、ヴィオレッタにとってはあまり関心のない話題である。


「姿が見えないから、やっぱりそういうことだと思っていたけど……良かったわね」


 実際にはヴィオレッタの予期していた通りで、つい先程まで家族全員がそう思っていたことでもある。


「あ、ああ……」


「なによ。折角の再会なのに、もっと喜んだらどう?」


 突然の事にニルスにも戸惑いが表れたのだろう。そんな彼の希薄な反応に憤慨したヴィオレッタを制して、リナはまず彼らを座らせる。


「まあまあ、積もる話もあると思うけど、まずは座って話そうよ!」


 座らせつつ、「私達は帰りに色々話しちゃったんだけどね」と笑う。彼らは既にエミールとの会話を済ませている。


「それでね、まずは兄ちゃんに謝らないといけないことがあるの」


「……カンポ村に行ったんだろ」


「え、なんで分かったの?」


「そりゃあ、母さん達がいる場所っていったら村しかないでしょ」


 戸惑うリナにユーリが答える。実際には「行こうとした」といった状況が正しく、ニルスも偶然リナの机にカンポ村を示した地図を見つけただけだったが。


「そっかあ、お見通しだったみたいだね」


「ああ……まあ、行ってみたいと思うのは当然だし、その前に俺がついていく、いや、連れて行くべきだった。むしろ謝るのは俺の方だったかな」


 ニルスが詫びる思いで言えば、今度は両親が励ますように告げた。


「ニルスは悪くないさ、ここまで兄弟を引き連れるのは大変だったろう。それだけで、立派に兄の役割は果たしてる」


「うん。あんたが気に病む必要なんかないっての」


「そうだよ! 私が勝手に行ったのに兄ちゃんが謝るのは違うよ!」


 リナの言葉にニルスは間を開けてから頷く。彼自身、納得はしていなかったがどう言葉にしても妹は食い下がってくる気がしたのだ。


「それよりさ、報告があるでしょ。指を見せてあげてよ!」


 リナはニルスの手首を掴んで上げ、リゼット達に見せる。それにつれてアシュレイも自身の指を見せた。


「はーん、お揃いの指輪ってことはつまり?」


「私達、婚姻を結びました」


「本当か! そいつはめでたい! ニルスお前こんなに可愛い子、よくやったな!」


 両親はその報告に祝宴気分だった。自分達の知らないところで婚姻していた事実に、できればその場に居合わせたかったとさえ思うまでに陶酔していた。

 しかし問いたいことはまだ残っている。


「お祝いムードのところ悪いけど、母さん達はどうして助かったの? 魔石教の一人が殺した、って確かに言ったんだ」


 ユーリは訊かずにはいられなかった。あの時助けに行けば間に合ったのかもしれない、そんな思いも今まで引きずっていたのだ。

 しかしその答えは、ユーリの求めているものとは異なっていた。


「実はな、俺達にも分からないんだ」


「確かにあの犬達に食い殺される感覚はあった。けど、目を覚ましたらあたしたちはその場に立ってたんだよねえ」


 あれは不思議な感覚だったと二人は口を揃える。

 気がつけば、焼け跡の村に立っていた、と彼らは語る


「でもそのあと、村にいた人達と協力して村を建て直してたんだって」


「村にいた……? 生き残った人がいたのか?」


 リナの説明にニルスが口を挟む。あれは遠くからでもよく見えるほど大きな炎で村は燃やされたはずだ。村に残っていれば生存は難しいだろう。


「ああ。予め俺達は森へと逃げる地下通路だけじゃなく、所々に地下へ避難できる空間を作っておいたんだ」


「もっとも、そこへ逃げ込めたのは少数だったけどねえ」


 その残った少数のみで村を再興させるのは中々に骨が折れた。力仕事をこなせる者が圧倒的に少なかったのだ。


「あれ、じゃあ母さん達はその地下に逃げ込んだんだ」


「いや、俺達は最後まで戦ったよ」


「村が壊されるなんて黙って見てられるわけないでしょ」


「そうなんだ……」


 彼らはどこまでも危険を顧みない冒険者なのだ。それをユーリは誇り高いとはとても思えなかったが。


「母さん達がここに来たってことは村が復興したってことだよね」


「いや、まだ終わっていない。だがほぼ復興したといってもいいだろう。ここへはリナが村からそう遠くない場所にいたもんでな。迎えに行くついでに送りにきてしまったんだ」


「じゃあ、また村を興しに帰るんだね」


「んー、その必要はないかなあ。あたし達がいなくても大丈夫でしょ」


 どうやらそれが二人の考えらしかった。

 しかしユーリは疑問に思った。息子達を逃しても守りたかった村を手放してここへ来たりするだろうか。


 だがそれは彼らの、どちらを優先するかの心を読み取る思慮にかけているだけとも言えた。

 村に残ったのは、ユーリ達に被害が及ばないようにしたためなのだから。


 すると突然、ニルスの頭の中に声が響く。


『変ね。あの二人、魔力がずっと垂れ流しだわ』


 精霊と宿主の精神を介して会話を繋いでいるようだ。ニルスもそれに合わせて思念を送る。


『それってよくないことなのか?』


『良くないっていうか、故意でない限りそんなことをする必要がないわ。魔法を放つ時にしか放出させない魔力を流しっぱなしにするなんてね』


『そういうもんか』


『ええ。意図的だとして、何が目的なのかしらね』


 それが不明な部分であった。悪く考えようとすればいくらでも憶測はつく。だがリナの本当に楽しそうな顔を見れば今はこのままでもいいような気がした。


 ニルス自身も、始めはリナが妙なことを言い出したと思っていたが、彼らの団欒を黙って見守ることにしたのだった。



――――――――



「一番大きい依頼?」


「うん。とびきり大きい奴」


 翌日、再び依頼を受けるべくニルスとアシュレイはギルドを訪れていた。アシュレイは昨日のカーラの件で気が荒れているのだろう。

 どんなに危険な依頼でもニルスならばこなしてしまう。そう思って、先程のような頼み方をしたのだ。


 受付で応対するのはいつもの女性ではなく、髭を生やした男だった。恐らく昼では担当が違うのだろう。

 そう、今は太陽も高く位置し、街往く人を見下ろしている。彼らは昼になるまで家でスティード達との会話を楽しんでいた。というよりも祝宴を開きたい二人の一方的な語りだったが。


 しかし出かける前、冷静になった両親は謝罪を入れる。

 元は冒険者だった彼らだが、村の壊滅からは力を失ってしまったらしく、稼ぎ手となれないことを侘びていたのだ。


「そんなの自分で探したらいいだろ。……ああ、だがちょうどいいな。ドラゴン討伐ってのが、ついさっき入ったな」


「ドラゴン? それならカーラ達が行っているはず」


「あいや、それが、実は竜の二頭目が出現していたらしくてな。おまけに最初の依頼は未だ達成していないときた。俺ぁ行かないことを勧めるが」


「おじさん。この依頼、引き受ける」


 アシュレイが勢い良く返答する。余程カーラ達の事が気にかかるのか、あるいはリゼット達に稼ぎの面で心配がないことを伝えたいのか。

 とにかく彼女は必死だった。


「お、おう。だが橙等級のあんたはいいが、そっちは紫じゃねえか。ドラゴンを二人、いや一人で討伐なんか――」


「構わない。もう行く」


「お、おい……!」


 アシュレイは男性の声を遮ってギルドを去っていく。後ろから「死ぬなよ!」と聞こえてきた声を受けながら。



――――――――



「暑いな……」


 アシュレイの隣でニルスが汗を拭う。現在火竜の住処を目指して火山を登っているのだったが、時折所々に空いた穴から火と熱が勢いよく吹き出ている。


「大丈夫?」


 彼女はニルスに水を渡しながら顔色を伺う。どうやら体調には問題なさそうだ。


「いや、心配ない。アシュレイは平気なのか?」


「慣れてるから」


「ああ……そうか」


 彼女を気遣って声をかけるが、その返答でニルスは思い当たる。鍛冶において火を扱う彼女らは、当然その熱に耐えられるほどの忍耐や体質を持ち合わせているはずなのだ。


 それにしても、ニルスにも思わぬ弱点があったことにアシュレイは少し嬉しさを覚えた。暑さによる耐久勝負ならば彼を負かせそうだ。


「でもアシュレイも水分補給は欠かさずにしてくれ。少なくとも熱で水分は持ってかれるからな」


「分かった」



 そうして道中に魔物と遭遇しつつ、ドラゴンの住処へ到着。と思われた間際、再び魔獣と遭遇した。


 それはヘルハウンドという火を吐く魔犬だった。が、火を吐こうとした瞬間を狙ってアシュレイがその口に氷塊を突っ込み、ニルスがヘルハウンド目掛けてロブストの棒を振り抜く。

 ニルスの腕に力を込めることに意識を注いだ、攻撃とも言い切れないその暴力はヘルハウンドとともに地面を砕いてしまった。


「やりすぎ」


「いや、加減が効かなくてな……」


 言いながら、手が痺れるような痛みをニルスは息を吹きかけてなんとか紛らわす。


「でもドラゴン相手なら加減はいらないかも」


 アシュレイが目線を移す先にはドラゴンが二頭立っているのだった。

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