結果 2
「い、いくらなんでも早く来すぎちゃったかな??」
前に来た時同じ様に、占いと書かれた看板の前で立ち止まり手元のスマホを確認する。
10時18分……遅刻しない様に早めに来たけど、流石にこれは迷惑だよね。 もう少し歩いて時間を潰さなきゃ。
登ってきた階段を再度降って、私は一旦ビルから出て行こうと決めた。
「おや?? みくお嬢様ではありませんか」
降る途中、ばったりと出くわしたジェイムズさんが少し驚いた表情で私の名前を呼んだ。
「あっ、お……おはようございます。 すいません!! は、早く来すぎてしまったので、少し時間を潰してきます!!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 旦那様もいらっしゃいますし、みくお嬢様さえ良ければどうぞこちらに」
優しい笑顔を浮かべながらジェイムズさんは大きな手をゆっくりと扉の前へと向ける。
「あ、ありがとうございます」
私はそのポーズに引き寄せられる様に振り返り、今度は自分の手でその扉を開けた。
「し、失礼します」
「旦那様は前回と同じ部屋にいらっしゃいます。 みくお嬢様の準備が出来ましたらいつでも、覗いて頂いて構いません」
「えっ……あ、あのぅ、ジェイムズさんは居ないんですか??」
「はい、私は部屋の前で待機させて頂きます。 旦那様の希望で、みくさんとは是非お二人きりでお話をしたいとの事でしたので」
「そ、そうですか」
ど、どうしよう……なんだか凄い緊張してきた。
てっきりジェイムズさんも居るもんだと思ってたのに……。
「みくお嬢様??」
「あっ、はい!! だ、大丈夫です!! 直ぐにでも行けます!!」
疑問系の言葉を問われると、思ってもいない事を口走ってしまうのは私の悪い癖の一つだ……今だって全然心の準備が出来てないのに。
「そうですか、ではこちらへ」
「……」
案内する為に前に出たジェイムズさんの後ろを私は無言で着いて行った。
以前と同じ通路な筈なのに、随分と長く感じてしまう。
「旦那様、みくお嬢様がお見えになりました」
部屋の前についたジェイムズさんは、ノックを3回して言う。
「おー!! そうか、来てくれたんだね。 嬉しいよ」
部屋の中から司先生の声が響き、それを確認したジェイムズさんが私に頭を下げて扉の前から横へと移動する。
「……し、失礼します」
今更後には引けず私は静かに扉を開いて部屋の中へと入った。
「みくさん!! 忙しい所わざわざありがとうね、待ってたよ」
部屋に入ると、私の目の前に司先生は立っていた。
「い、いえ……ぜ、全然忙しくも無かったんで、だ、大丈夫です」
「そうなのかい?? まぁ立ち話もなんだし、座ってよ。 疲れただろう??」
「あ、ありがとうございます」
部屋の内装は前に来た時と変わっておらず、私は面接で自分が座っていた椅子へ急いで座った。
や、やっぱり凄い格好良いよこの人……直視できないもん。
「さてと、じゃあ僕も座らせて貰おうかな」
司先生はそう言うと、私の隣の席へと腰を下ろした。
「こ、こっちに座るんですか??」
「勿論!! 今日は面接じゃなくて只のお話だからね。 僕が向こう側に座る意味はないだろう?? それにこっちの方がみくさんの近くで話やすいしね」
まるで少年の様にニコッと微笑み、先生は椅子を私の正面に移動させる。
その仕草に自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
……う、うるさくないかな??
それに私の顔、今絶対に赤くなってるよ……凄く熱いもん。
「みくさんはさ、占いは好きかい??」
「……す、好きです」
「本当かい?? それは良かったよ。 嫌いって言われたら働いてもらうのに、気が引けるからね」
「あっ、あのっ!! ど、どうして私なんですか?? 私なんか馬鹿でグズだし……もっと他に優秀な人が沢山いたと思うんですけど」
これ以上緊張してしまうと何も喋れなくなってしまうんじゃ無いかと不安になり、私は一番気になっていた質問を先生に尋ねた。
「んー、みくさんを選んだ理由か……そうだな、一つはみくさんが僕のお客さんじゃ無かったからかな」
「お客さんじゃ無かったから……ですか??」
「うん。 実を言うとね、バイトの募集項目にもちゃんと僕の占いを受けた事がない人って言うのは記載してたんだ。
仕事を共にするなら僕を公正な目で見てくれる人が良かったからね。 まぁ結局殆どの人が僕のお客さんだったんだけど」
「……そうだったんですか」
……そ、そりゃそうだよね。 やっぱそう言う仕方のない理由の結果だよね、そうじゃなきゃ私が選ばれるわけ無いもん。
何浮かれてたんだろう、私。
「あぁ、すまない!! 違うんだ、あくまでもこれはみくさんを選んだ理由の一つにしかすぎないさ。
僕のお客さんが殆どだったって話は本当だけど、何しろ人数が多かったからね。 お客さん以外の人も70人程は居たよ」
「えっ??」
あの場所には50人くらいしか居なかった筈だけど……。
「面接は3日間あってね、嬉しい事に合わせて300人くらいは来てくれたかな??
そしてその中で僕がみくさんを選んだ1番の理由は……みくさんの答えが面白かったからかな」
「わ、私の答えですか??」
「そうだよ。 覚えてるかな?? 僕はみくさんに『大人』とは何かって聞いた事を」
「は、はい。 私は何も思い浮かばず『わかりません』って……」
「うん、確かにそう言ってたね。 実はあの質問、20歳以下の子には全員に聞いてたんだ。
他の子達の答えはどれも似た様なものだった。
一番多かったのは『責任を取れる人』かな?? あー、『自立している人』ってのも多かったかな」
顎に手を当てて先生は小さく頷く。
「そ、その答えは間違っているんですか??」
「いいや、どれも正解さ。 そもそも僕の質問は『君達にとって大人とは何か??』 だからね、明確な答えなんて無いさ」
そう言うと先生は立ち上がり、私の目の前に移動する。
「……その中でみくさんはたった一人だけわかりませんって答えたよね。
悩んで考えて出した答えが『わからない』それも正解さ。 だって君はまだ大人じゃないだろ??
大人でも無い君が大人についてわからないって言うのはある意味、当然とも言える」
そのまま先生は床に片膝をつけて、私の顔を覗き込む様に見上げた。
「僕はね、その返事を聞いた時に思ったんだ、みくさんはきっと素直で純粋な人なんだってね。
勿論、他の子達も良い子なんだろう……だけど、結果として僕は君を選んだ。
ねぇ、みくさん、良かったら僕の仕事の手伝いをしては貰えないだろうか??」
吸い込まそうになる程の綺麗な瞳で見つめる先生の姿に、私は黙って首を縦に振るしか出来なくなっていた。
「ありがとう……嬉しいよ。 よろしくね、みくさん」
先生は再び立ち上がり、微笑みながら私の目の前に手を差し出した。
「こ、こちらこそ……よ、よろしくお願いします」
私は急いで立ち上がりその手を掴む。
カーテンの隙間から漏れた光が先生と繋がれた私の手を照らしていた。
私にとっては宝くじに当たるよりも、異世界に転生するよりも、ずっと現実離れしている様に感じる。
夏休み2日目……私はまるで少女漫画のヒロインになった気分だった。




