面接 1
その日の放課後、私は帰宅せずにそのまま面接会場へと向かった。
パパからは制服で大丈夫だと言われていたし、面接会場は私の学校帰りにちょうど良い場所だったから。
「こ、ここであってるよねぇ……うん、多分大丈夫なはず」
賑やかな街の中心地から少し歩いた位置にある雑貨ビルの目の前で、住所の書かれた紙を何度も確認してその中に入る。
ほ、本当に大丈夫かな?? ちょっと怖いかも。
心配になりながらも薄暗い階段を4階まで上がると、そこには『占い』と一言だけ書かれた古い看板が置いてあった。
これがパパが言ってた占いの館なのかな??
独特の雰囲気に扉を開ける事を躊躇っていると後ろから女の人の声が聞こえてきた。
「あら?? もしかして貴方も司先生のバイトの募集に来たの??」
「えっ?? あっ……その、私は……えーと」
私が振り返った先には、綺麗な女の人が立っていた。
「その感じだと面接じゃなくてお客様って所かしら?? 貴方予約はしてるの??
先生は忙しいから飛び入りのお客さんの相手はしてくれないわよ??」
肩まで伸びた艶のある金髪を一つに纏め、ほのかに甘い匂いを漂わせながらその女の人は首を傾ける。
「い、いえ……私も……その……め、面接に来ました」
「あら、そうなの?? だったら早く中に入りましょう??」
「は、はい……すいません」
「ふふっ、どうして貴方が謝るのよ。
むしろ私の方こそ勘違いをして悪かったわ、ごめんなさい。 じゃあ行きましょうか??」
気さくな笑顔を浮かべ私に気を使ってくれたのか、その人は目の前の扉を代わりに開けてくれた。
その流れに沿う様に私も一緒に部屋の中へと入る。
「……お、お邪魔します」
部屋の中は思ったよりも広く、白を基調とした明るい壁紙がさっきまでの暗い雰囲気を払拭する様だった。
な、何だか想像してた場所とは違うかも……占いだからもっと薄暗い所かと思ってた。
「本日はお越しください、ありがとうございます」
「うわぁっ!!」
いつの間にか隣に居た男の人に私は心臓が止まるんじゃないかと思うくらい驚いた。
「おや、これは失礼致しました。 驚かすつもりはなかったのです。 私は執事のジェイムズと申します」
背筋の伸びた綺麗な立ち姿に、漫画でしか見ない様な立派な髭を生やしたその男性はそう言ってゆっくりと頭を下げる。
「ジェイムズさん!! お久しぶりです!!」
「これはこれは、ゆみお嬢様。 お久しぶりです、お元気そうで安心致しました」
「はい!! これも全部司先生のお陰です! 私、何とか司先生の役に立ちたくて!!」
「嬉しいお言葉感謝致します。 きっと旦那様も喜ばれる事でしょう。
では、どうぞこちらに。 面接までの少しの間ですが、お茶をご用意していますので是非」
そう言ってその人は私達を部屋の奥へと案内してくれた。
私は何も話す事は出来ずにただその人の後ろをついて歩いた。
「こちらになります。 ではお嬢様方、また後ほど」
案内されたその部屋に入った時、私は何よりその人数に驚いた。
おそらく50人は居るだろう、私と同じく制服の子も居ればスーツや私服、ドレスを着ている人も居た。
「や、やっぱり、簡単にはいかないようね」
隣で小さく女の人が呟く。
「す、すいません……そのぅ……司先生って方はそんなに有名な人ですか??」
ジェイムズと名乗る執事に、まるでパーティ会場の様なこの空間。
想像を遥かに超えるこの状況に、私はそう尋ねる事を我慢出来なかった。
「あ、貴方、司先生を知らないの??」
大きな目を更に見開き信じられないと言った表情を女の人は浮かべた。
「す、す、すいません!! 私、占いとか全然興味なくて……今回の面接もパパっ……あ、父に頼まれて来ただけで……そのっ!!」
「あぁ、ごめんなさい、威圧するつもりはなかったの。 そうよね……司先生を知らない人だって居るに決まってるものね。 貴方、名前はなんて言うの??」
「わ、私はみくです。 三上みくです!!」
「みくちゃんね。 私はゆみ、真島ゆみよ。 気軽にゆみって呼んで貰えると嬉しいわ」
ゆみさんはそう言うと微笑みながら私に手を差し出した。
「あっ、はい!! よろしくお願いします!!」
私は直ぐにその手を握り、深々と頭を下げた。
「ふふっ、みくちゃんは可愛いわね。 えっーと、司先生の事が知りたいのよね??」
「は、はい」
「そうね……まず有名かどうかって所で言えば、司先生はかなり有名な方になるかしら。
まぁテレビやネットには名前は上がらないから、占い界隈ではって事になるけど」
「そうなんですか……その、ゆみさんも占って貰った事があるんですか??」
「ええ、勿論あるわ。 私はね、司先生に命を救われたの」
「い、命ですか??」
「そうよ……私ね、高校生の頃にいじめられてたの。 本当に辛くて死ぬ事も考えてたわ……だけどそんな私を先生は救ってくれた。
だから今度は先生の助けがしたくてこのバイトに応募したのよ」
「そ、そうだったんですか……す、すいません、私ったら何も考えずに……」
「良いのよ。 昔の話だし、今は気にしてないわ。 それに司先生の話を出来るのは私にとっては嬉しい事だもの!!
先生は『本物』よ。 みくちゃんも会えばわかるわ」
「ほ、本物……ですか」
「信じられない?? まぁそれもそうよね、私も最初はそうだったから。
先生の事がもっと知りたいなら、他の人にも聞いてみると良いわ。 みんな喜んで話してくれると思うから」
「えっ?? あっ、でも私……」
「もしかしてみくちゃんは人と話すのが苦手なのかしら??
ふふっ、何だか昔の私を見てるみたい……じゃあ今回は私が先輩として人肌脱ぐ番ね」
そう言うとゆみさんは辺りを見渡し、近くにいた5人組の元へと私を引っ張って行った。




