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CASE 加藤真司 1


「大丈夫かい、みくさん?? 何か飲むかい??」

 

「えっ?? あっ、いえ!! 大丈夫です!!」

 

 気付けば私は朝と同じお茶会室の椅子に座っていた。

 

 あ、あれ……一体いつこの部屋に来たんだっけ?? 確か先生に抱っこされてっ。

 

「やっぱりまだ体調が悪いんじゃないかい?? 顔が赤いし」

 

「だ、大丈夫です!!」

 

 ついさっきまでの事を思い出した私は、恥ずかしくて先生の顔を見る事が出来なくなっていた。

 

 うぅ、先生ったら急にあんな事するんだもん、恥ずかしくて死にそうだよ……もっとちゃんとダイエットしとけば良かったかも。

 

「本当かい?? 無理は禁止だからね??」

 

 今更ながら後悔をし始めた私の顔を先生は心配そうに覗き込む。

 

「……は、はい。 で、でも本当に大丈夫です。 それにその……ここまで運んで頂きありがとうございました」

 

「それは気にしないで。 僕がしたくてした事だからね。 

 さてと、じゃあ午後はどうしようか?? まだ調子が悪いなら僕の仕事を手伝うよりも軽作業の方がみくさん的には良いと思うんだけど、どうかな??」

 

「それは……せ、先生さえ良かったら、その、もう一度だけ手伝わせて貰えないでしょうか??」

 

「勿論、それでも構わないよ。 むしろ僕としてもみくさんが居てくれた方が嬉しいくらいだからね」

 

「ほ、本当ですか?? あ、ありがとうございます」

 

「うん。 じゃあ、またお昼が終わった後でも僕の部屋に来てね。 待ってるよ」

 

 先生はそう言うとゆっくりと振り返り部屋から出て行った。

 

 

「ふぅー……良かった」

 

 誰も居なくなった部屋で、私は静かに呟いた。

 

 真中さんの占い結果を間近で聞いた今、先生が私とは違う特別な人なんだって事はなんとなく理解できた。 


 それでも、私はもう一度先生の占いを聞きたかったのだ。 

 先生が『本物』だって事を確信する為に。

 

「……そ、それにしても、自分の意見を言えたのなんて久しぶりかも」

 

 先生の提案に対して自分の思いを告げられた事に私は今更ながら驚く。

 

 そして同時に、またもゆきさんから教えてもらった言葉を思い出した。 

 

『好奇心は人を動かす原動力の一つよ』

 

 ……先生の近くで働いていれば私の人見知りも、もしかしたら改善されるのかなぁ。

 

 先生との出会いをきっかけに私の中の何かが変わっている様な気がしていた。

 

 

 

 

 

 CASE 2 加藤真司

 

 

「旦那様、加藤様がいらっしゃいました」

 

「わかった、今行くよ」

 

 その日の午後、私は本日2人目のお客さんを迎える事になった。

 

 ジェイムズさんに呼ばれた先生は、真中さんと同じ様に自ら部屋の扉を開ける。

 

「いらっしゃいませ、加藤様。 お待ちしていました」

 

 頭を下げる先生に倣って私も一緒に頭を下げる。

 

「へぇー、あんたがあの司先生なの?? 随分と若いんだね」

 

「ありがとうございます。 どうぞこちらへ」

 

 この問答も慣れたものなのか、先生は特に気にする事なく加藤さんを部屋へと呼び込む。

 

「まぁ歳は関係ないか。 でもどうせだったら若い女の子が良かったなぁ……ってなんだよ、居るじゃん!! ねぇ君いくつ??」

 

「えっ??」

 

 私が顔を上げると加藤さんは目の前まで迫ってきていていた。

 

「うわっ、顔も結構可愛いじゃん!! いやー、有名な占い師だって言うから美人な受付嬢でも居るのかと思ってたんだけど、まさかのおっさんだったからショックだったんだよね!! 

 でも君みたいな可愛い子に会えるなんてラッキだよ。 良かったらこの後一緒に何処か遊びに行かないかい??」

 

 小麦色の肌から白く輝く歯を覗かせて加藤さんは私に詰め寄ってきた。

 

「あっ……わ、私は、今は仕事中でっ」


「ははっ勿論仕事が終わった後だよ。

 そんなに遅くはならないだろ?? 多分これは運命だと思うんだよね。 

 君の姿を見た時にビビッと来たんだよ。 きっと俺達は前世で愛し合った仲だと思うんだよね!? って事で早速連絡先教えてもらえる??」

 

 加藤さんは私の手を掴んで捲し立てる。

 

「……加藤様。 失礼ですがその手を離してもらえませんか??」

 

「なんで?? 司君には関係ないでしょ?? それに今良い所だから邪魔しないで貰いたんだけど??」

 

「大いに関係ありますよ、彼女は私の大切な助手ですから」

 

 そう言うと先生は私と加藤さんの手首を掴み半ば強引に引き剥がした。

 

「……へぇー、結構力あるじゃん」

 

「ありがとうございます。 ではこちらへ」

 

 そのまま先生は加藤さんを椅子の前まで引っ張るといつも通り正面の椅子へと腰を下ろした。

 

「みくさん、後は頼むよ」

 

「あっ、はい!! わかりました!!」

 

 私は気を取り直して真中さんの時と同じ様に加藤さんへ飲み物の注文を伺った。

 

「あー、水を貰える?? 氷は無い方が良いな、冷たいのは苦手なんだ。 直ぐお腹が痛くなっちゃうからね」

 

「わ、わかりました」

 

「それから君、みくちゃんって言うんだね?? 素敵な名前だよ、なんだか昔を思い出せそうだ。

 ねぇ?? やっぱりこれって運命なんじゃないかな??」

 

「……加藤様、いい加減にして頂けませんか??」

 

「おっとこれはすまない、司君を怒らせるつもりは無かったんだ。 

 可愛い女の子を見るとつい声をかけてしまうのは、俺の趣味みたいなものなんでね。 そんなに怒らないでくれよ」

 

 悪びれる様子もなく加藤さんはそう返すと、私に向かって小声で「また後でね」と呟いた。

 

 私はどうして良いかわからず、とりあえず頭を下げてから定位置へと戻る事にした。

 


 加藤さんの事は全く知らないけど、この数分間でこの人も真中さんと同じ様に占いに興味がある風にはとても思えなかった。


 見た目は若い男性そのもので、趣味をナンパだと堂々と言えるだけの容姿だ。

 軽口を叩いても不思議と不快にならないのもきっと人と話す事に慣れているからなんだろう。 

 最初は驚いたけど、加藤さんが本気で言ってない事には私でも直ぐに分かったのだから。


 どちらかと言うと先生が少しだけ怒っていた方が意外だった……ちょっと嬉しいけど。


 


「では、早速占いを始めます。 まずはっ」

 

「あぁ!! 今日はそう言うのは良いんだ。 俺が聞きたいのは一つだけだから」

 

 先生の声を遮って加藤さんは少し大きな声を出す。

 

「……そうですか、何を聞きたいのでしょうか??」

 

「簡単さ、俺がこれからやろうとしている事に司君は賛成か反対か。 欲しいのはその答えだ」

 

 少しだけ間を置いて加藤さんは先生に指を向けてそう言った。

 

「成程。 では、そのやろうとしている事を教えて頂いても宜しいですか??」

 

「それは教えられないさ」

 

「えっ?? あっ、すいません!!」

 

 加藤さんの言葉に釣られて思わず出てしまった言葉を私は直ぐに謝罪した。

 

「はははっ。 まぁそう言う反応するのが普通だよね!!」

 

 望んでいた反応だったのか加藤さんは嬉しそうに笑っていた。

 

 だけど先生の反応は私とは全く違う物だった。 

 顎に手を置き何かを考える様に、いや、何かを見ている様にじっと加藤さんに視線を向けていた。

 

 ……も、もしかして先生には加藤さんのやろうとしている事がわかるのかな?? 

 だとしたら一体何なんだろう?? 見た目から察すると起業するとかかな??

 それともプロポーズとか?? 

 

 ……でもこれってどっちにしろ賛成って言っておくのが良いんじゃないかな?? その方が角が立たないって言うか丸く収まりそうだし。

 

 私なりに色々考えてみたけど結局答えなんて分かる筈も無かった。 

 加藤さんとは今日初めて会ったんだし、まだ殆ど会話もしていていない。 

 流石に先生にだってわからない筈だ。

 

 この状況で加藤さんがこれからやろうとしている事がわかるとしたら、その人は心を読めるか未来を予知出来るとしかっ。

 

「……ふぅー、今日は特殊なお客さんが続くね」

 

 私の思考を遮る様に先生は静かにそう呟いた。 

 

 それと同時にまた先生の雰囲気が変わった気がする。

 まるで午前中の真中さんの時の様だった。


「そうなの?? まぁでも俺のは気にしないでよ。

 別にこの質問に外れなんて無いから!! 俺はただ司君の意見を聞きに来ただけだからね」

 

「いいえ、加藤様。 この質問には明確に外れが存在していますよ」

 

「……どうして??」

 

 さっきまでふざけていた加藤さんは急に真剣な眼差しを先生に向けた。

 

 2人の間に少しだけ険悪な空気が流れる。 

 

 だけど……こんな状況なのに私は少し興奮していた。

 もしこれで本当に先生が加藤さんのやろうとしている事を理解しているなら、それは紛れも無く先生が『本物』である証明になるんじゃ無いかと思っていたから。

 

 

「……加藤様、結論から申し上げます。 私は貴方がこれからしようとしている事には反対です。 

 そんな事をしても意味がないでしょうから」

 

 

 数秒後、先生ははっきりと自らの答えを加藤さんへと告げた。

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