CASE 真中和子 3
あれから先生による真中さんの占いは1時間程度続いていた。
内容は今年の運勢やラッキカラーにラッキーアイテム、真中さんにとってのパワースポットなど普段私が聞く様な言葉も多く、シンプルでわかりやすいものだった。
その全てに真中さんは真剣に耳を傾ける。
「さて、私の占いはこんな所です。
他に何か聞きたい事はありますか??」
一通り話し終えた後、先生は少しだけ疲れた表情を覗かせる。
「いえ、もうこのくらいで良いわ。 残念だけどもう時間も無いから」
腕時計に目をやり、これからの予定を計算する様に数回頷いてから真中さんはそう告げる。
「そうですか、本日はありがとうございました。 ジェイムズ」
「はい、旦那様」
先生の言葉にシェイムズさんが扉越しに反応する。
「真中様がお帰りだ。 案内を頼むよ」
「承知いたしました」
「では、真中様。 準備が終わりましたら部屋の外へ」
そう言うと先生は立ち上がって深々と頭を下げた。
「えぇ。 私の方こそ今日は随分とお世話になったわ、どうもありがとう」
先生の仕草に釣られる様に真中さんも椅子から立ち上がり頭を下げる。
その姿を見て私は直ぐに真中さんの荷物と上着を準備し、それを手渡した。
「……もう震えてはいないのね」
「えっ?? あっ、はい!! 本当にご迷惑をお掛けしました」
「謝らなくて良いわよ。 先生が言った通り、あれは私が悪かったわ。
ごめんなさい、それに貴方にもお礼を言わないといけないわね。 今日は本当にありがとう」
「わ、私は何もっ!!」
「そんな事ないわ。 きっかけは先生の言葉だったけど、貴方が一緒に泣いてくれたからこそ私は救われたのだと思う。
今なら先生が貴方を雇った理由がわかるわ。
貴方とても綺麗で純粋なのね……出来る事ならいつまでもその輝きを失わないでね」
「そ、そんな、私なんてっ……あ、ありがとうございます」
初めて言われた褒め言葉に私は戸惑いながらもなんとかお礼を告げて頭を下げた。
「そうだ、もし良かったら私の会社に就職してみない??
ここよりも良い待遇を用意するわよ??」
「えっ、でも私っ」
「真中様、私の大切な助手をあまり揶揄わないで頂きたいのですが」
「あら?? 揶揄ってなんていないわ。 私は本気よ??
選択権はいつでもみくちゃんが持ってる、そうでしょ??」
砕けた笑みを浮かべて真中さんは意地悪っぽく先生に言った。
「ふぅー……そうでしたね。 選択するのはいつだって本人次第でしたね」
その笑みに負けたのか先生は小さな溜息を吐いてニコリと微笑んだ。
「ふふっ、じゃあ私はこれで失礼するわ」
じゃあね、みくちゃん。 また会える日を楽しみにしてるわ。
私の隣を通り過ぎる際、小さな声でそう呟くと真中さんは扉へ向かってゆっくりと歩いていった。
「あぁ、すいません真中様。 もう一つだけ言い忘れていました」
ドアノブに手をかけ数センチほど扉が空いた時、先生は思い出した様に手を叩く。
「何かしら??」
「これは占いとは関係ないので聞き逃していただいて構いませんが、2日後の16時20分頃もし時間があれば是非京都の清水寺に行ってみてください。
綺麗な場所なので真中様もきっと気にいると思いますよ」
「2日後?? 確かにその日なら仕事で丁度京都に行く予定だけど……もしかして先生は未来も見えたりするのかしら??」
「いえいえ、たまたまそう思っただけですよ」
「……そう。 まぁ良いわ、時間に余裕があったら行ってみようかしら。
思えば高校生以来行った事無かったもの。 他にもまだ何かあるかしら??」
「いえ、私からはもう何も」
「じゃあ、今度こそ失礼するわ。 ご機嫌よう先生、それからまたねみくちゃん」
そう言い残し真中さんは静かに部屋の外へと出て行った。
「お疲れ様みくさん。 良く頑張ったね」
いつの間にか隣に移動していた先生が労う様に私の肩に手を置く。
「す、すいません。 先生には色々ご迷惑をっ!!」
「迷惑?? そんな事ないさ、真中さんも言っていただろう?? みくさんのお陰で救われたってね。
大成功じゃないか、真中さんもこれで色々吹っ切れただろうからね。
それに僕1人の力じゃ最後の笑顔は見れなかったと思うよ」
「ほ、本当ですか??」
「本当さ。 みくさんは優秀だよ、もっと自分に自信を持っても良い。 僕が言うんだから間違いないよ。
さて、ずっと立ちっぱなしだったしみくさんも疲れただろう??
次のお客さんまでは少し時間があるからね。 ここら辺でお昼休憩にしようか」
そう言うと先生はゆっくりと歩き出す。
「は、はい!! ……あ、あれ??」
先生の後を追おうとした私の身体は何故だか全くその場から動かなくなってしまっていた。
「す、すいません。 直ぐ行きます!!」
なんで?? どうして動かないの??
こんな事今までなかったのに!!
初めての経験に私はどう対処して良いか分からず、その場でただただ困惑していた。
「……ごめんね、みくさん。
僕とした事がここまでみくさんに負担をかけている事に気付かなかったなんて」
先生はそう言うともう一度私の元へと近付く。
「少しの間だけ我慢してね」
耳元で囁くと私の肩の下に手を回して足を掬い上げた。
「せ、先生!! だ、大丈夫ですから!!」
「良いからじっとしといて。 今日はみくさんにお世話になったからね、少しだけも恩返しさせてよ」
「で、でも……その、重くないですか??」
「全然。 じゃあ行こうか」
先生はそのまま私を抱きかかえたまま歩き始める。
……今日は初めての経験ばかりだったけど、その中でも一段と特別な体験をしているかも知れない。
人生で初めてされたお姫様抱っこは石鹸の良い香りがした。




