バイト 2
「……ちょっときついかな??」
お茶会室を出た後、私はジェイムズさんが用意してくれた仕事用の服へと着替えていた。
「それにやっぱり似合って無いよね??」
目の前の鏡で自分の姿を確認する度に、これが本当に自分なのかわからなくなる様な妙な感覚に陥ってしまう。
「みくお嬢様、サイズはどうでしょうか?? 苦しくはございませんか??」
「あっ、だ、大丈夫です!!」
ちょっとキツいけど、もう随分と待たせちゃってるし急がなきゃ!!
ジェイムズさんの声に焦った私は、ハンガーに掛けてあった上着を羽織って部屋の外へ急いだ。
「す、すいません!! 遅くなりました!!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 それにとても良く似合っております」
「えっ?? あっ、ありがとうございます」
「ですが、少し肩がきつそうに見えますね。
明日からはもうワンサイズ大きめの服もご用意致しますね。
勿論、今回のもご一緒に入れておきますのでみくお嬢様のお好きな方を選んで下さい」
「は、はい!!」
「では、行きましょうか。 旦那様がお待ちです」
ジェイムズさんは僅かに口角をあげてはそう言うと、私と一緒に先生のいる部屋の前まで向かった。
仕事服に着替える前、ジェイムズさんは先に各部屋の場所と用途について私に説明してくれた。
どうやらこのビルの4階は全て先生が所有しているらしく、雰囲気を出すためか通路の電気はわざと暗めに設定しているらしい。 足下に気をつけて下さいと何度か言われたのが印象的だった。
それからああ見えて先生はかなりこだわりが強いらしく仕事をするのに都合が良い様に内装も随分と変更したとの事だった。
私が主に仕事をするのは、先生と初めて会ったあの部屋、それから面接の待機場所でもあった大広間だ。
他の部屋は先生の個人的な生活居住区みたいでこれからも入る事は無いと思う。
一つだけ、絶対に覗かないで欲しいと言われた部屋もある。
少しだけ気にはなったけど、あまり深く聞く事はしなかった。
その時のジェイムズさんの真剣な表情を見たらそれ以上詮索する気にはなれなかったし、なにより今の私にはそんな秘密の部屋なんかよりもっと気になる事があったから。
「さて、ではみくお嬢様は部屋の中でお待ちください。 私はお客様をこちらに案内しないといけませんので。
先程お渡ししたものは持っていますか??」
先生の部屋の前に着いたジェイムズさんは少し強張った顔で振り返る。
「は、はい!! ポケットに入れてあります!!」
私の返事を聞くとジェイムズさんは軽く会釈をして来た道を戻って行った。
「し、失礼します」
初めてこの扉を開ける時以上に緊張しながら私は部屋の中へと入った。
「やぁみくさん、準備は終わったのかい??
おっ、やっぱり身長が高いだけあってスーツも似合うね。 一気に大人になったみたいだよ」
椅子に座っていた先生は立ち上がって私に笑顔を向ける。
「あっ……ありがとうございます」
正直言って先生の言葉はあまり耳に入って来なかった。
……目の前の先生の姿がいつもよりも数段と格好良く見えたから。
肩まで伸びた綺麗な髪を1つに纏め、淡い青色のスーツを着こなす先生の姿は私が想像する占い師とはかけ離れた格好でもあった。
「どうしたんだい?? 顔が赤いけど緊張してるのかな??」
「あっ、いえ……これはっ」
「大丈夫だよ。 僕がついているんだ、そんなに緊張しなくても全て上手くいくから」
そう言って先生は私の頭を優しく撫でる。
「は、はい……」
自分の心臓の音が信じられないくらいうるさかった。
この鼓動が初仕事の緊張によるものなのか、先生への好意によるものなのか私にはもう判断がつかなくなっていた。
「旦那様、真中様がいらっしゃいました」
「わかった。 今いくよ」
扉から響くジェイムズさんの声に呼ばれて先生は私の横をゆっくりと通り過ぎる。
「……みくさん、頑張ろうね」
すれ違う際に小さな声で私にそう呟くと先生は静かに部屋の扉を開いた。




