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第二章 タウラス民国の喧嘩祭り 3話

 ヤマトは目を覚まして、部屋のカーテンを開く。突然部屋に眩しい光が入りこみ、思わず目を細める。なかなか熟睡してしまったようで、もう太陽が真上を上っていた。椅子に座って寝袋で寝ていたコブラは、まだいびきをかいて眠っている。コブラのせいで、せっかくベッドで寝ても満足はいかなかった。もう少しだけ寝ていたかったが、外が何やら騒がしくて気になるので外に出る。

「あら、ヤマトさん。おでかけですか?」

 階段を下りるとクミルに声をかけられる。簡単に会釈をした後「外が騒がしいので、何事かと思いまして」

「あぁ、主人がさっそく町の皆に知らせてくれているのよ。釣れるといいけどねぇ、ミノタウロス」

 どうやら、昨日話していた喧嘩祭りの仕事をしてくれているそうだ。この国ではそれは国民全員が楽しむ祭りだと聞いていたし、それが突如開催されるとなると、朝からにぎやかになるのも無理はない。

「ん? 釣れる……とはどういうことですか?」

「ミノタウロスはね。神出鬼没なの。彼の私生活を見たものは誰もいないわ。祭りの時だけふらぁ~と出てくる。噂じゃあ山に籠っている野生児が力自慢のために来ているんじゃないか。なんて言われているのよ。まぁ、この国じゃあ、ありえないこともないけどねぇ。中にはクマを倒したなんて嘯く人もいるし」

「へぇー、そうですか……」

 ヤマトは反射的に返事をして、次の言葉を探す。

「もし、ミノタウロスが参加しなかった場合どうするのですか?」

「その時は、結局祭りだからね。ナンバー2を決める喧嘩が始まるわよ。特に景品とかないけれど。本当に男ってバカよねぇ」

 悪態をついていたが、クミルの表情は嬉しそうだった。ここの女性はきっと皆がこういう価値観を持っているのだろう。バカな男を支える。上下関係なら女の方が上。だからこそ男は力を賭して女や国を守る。これも一つの平和の形だとヤマトは納得した。

「理由はわかりました。せっかくですので散歩にでも出かけます。えっと、私たちのお金は……」

 預けていた荷物の山から自分たちの旅資金の入った袋を探す。けれど、どこにもない。「お金なら、少し早くにキヨちゃんが起きて、持ってっちゃったわよ」

「キヨが?」

 アリエスの国で買い物し損ねたから、そうならないために買い物に行ったのだろうか? コブラならともかく、キヨならそんな全て金がなくなるような豪遊はしないだろうとヤマトは高を括る。

「まぁ、途中何か買い物できないのは残念ですが、普通に見て回るだけにします」

「そう? 朝食は大丈夫? このおにぎりだけでも持っていきなさい」

 そういってクミルは一度奥に戻った後、おにぎりの入った包みを渡してくる。ヤマトはお礼を言って、宿を出た。

 外に出ると、町の賑やかさをさらに実感した。この時間から屋台の準備をし始めるものもいた。あそこでもう準備を終えようとしているソーセージ屋を見て、ヤマトはキヨに資金袋を取られていなければと少し彼女を憎んだ。

「お前はまたそんなことばっかりやりやがって!」

「いいだろ別に! 何をやろうが僕の勝手だろ!」

 ヤマトは言い争っている声を聞いた。元騎士団の性か、思わず仲裁のためにその声の場所を探って、そこに向かってみる。すると屋台の前の少年と、筋骨隆々な男が怒鳴りあっていた。周りには野次馬が溢れていたが、多くの者は呆れた表情をしていた。

「お二人とも、落ち着いてください。私は旅でこのタウラス民国へ来たヤマトという者ですが、どうなさったのですか?」

 慣れた動きで二人の間に割って入り、自らの身分を明かした後、二人の目を見て口論を静止させる。少年の方を見るとこの屋台はどうやら少年のものであるのがわかる。となると食い逃げではないとヤマトは推察した。

「この時代遅れジジイが! この僕の芸術をバカにしやがんだ」

「何が芸術だ! 男がなよなよと座りこんで気持ち悪いもん作ってんじゃねぇ」

 男が少年に怒鳴る。確かに少年の肉体は細くてか弱い印象をいだかせる。オフィックス王国ではこのくらいの少年は大勢いたが、このタウラス民国では特にそれが目立つ。

 この散歩で見た他の子どもは、大人ほどではないが、しっかりとした体感を持っている印象だった。

「俺はお前の保護者代理なんだぞ」

「住処だけ与えているだけで保護者面すんな!」

「なにをぉ! 口だけ達者になりやがって! それこそがタウラスの民として最大の恥だとわからんのか!」

 ヤマトは殴りかかりかねない勢いで怒っている男を静止する。後ろで少年はあっかんべーと男を挑発していた。

「ちっ、付き合ってらんねぇ。俺は今日の喧嘩祭りのためにトレーニング行くからな! くだらねぇことやめておめえもちゃっちゃと鍛えろ馬鹿野郎」

 捨て台詞を吐いて男は去っていった。彼は明らかに少年の屋台に当たるように唾を吐き捨てた。

「おとといきやがれこの野郎!」

 少年もまた去っていく男を煽るように叫んだ。ヤマトは少年と二人きりになり、このまま去ってしまうのはしのびないような気がして、少年に話しかける。少年の頬には炭なのか、黒く染まっている部分がある。彼は男が吐き捨ててついた唾を拭きとりはじめた。

「君、名前は?」

「……アステリオスだ」

 アステリオスと名乗った少年はヤマトの言葉に答えながらも屋台の方へ行って、準備を始めた。それを覗いてみると、何やらたくさんの紐のようなものが入った箱の中を金属の棒で弄っていた。

「何をしているんだい?」

「何って……調整だよ。僕のカラクリの」

「カラクリ?」

「あぁ、あんた。僕を怒らないってことは、よそ者か。あっ、さっきも言っていたね、そういえば。どうなの? あんたの国は科学ってどうなっている?」

 ヤマトはそれをどう答えるか非常に悩んだ。科学、剣士であるヤマトにはわからないが、国の中枢の人間がこぞって研究していると聞いた。後、他の印象でいえば何があるだろうか。

「……あっ、私の国では『発火しやすい棒』が流通しています。名前は確か……マグチ。あれが確か科学の一つかと」

 マグチとは、オフィックスに広まっている小さな木の針に燃えやすい素材を付着させ、摩擦力で手軽に火を出すというものである。ヤマトの義母、スタージュン夫人も、最近ではこのマグチで火を起こして調理をしている。しかし、ヤマトは使ったことがなく、うろ覚えの知識でしか彼に話すことができず、後頭部を掻いた。

「……なにせ私もそういったものに疎く。へラクロスの冒険の中でカガクって研究家の話があったなぁ。なんて思い出すしかない程度の知識です」

 ヤマトは必死に自分の中での『カガク』の知識を絞って愛想笑いをしながら遠慮がちに言う。その直後だった。ヤマトの顔のすぐ目の前にアステリオスの顔があった。それほど彼が身を寄せてきたのだ。興奮したアステリオスの鼻息がヤマトにかかる。

「そう! ヘラクロスの冒険のカガク! 常識に囚われない思考を持ち、様々な人種に出会ったヘラクロスをも驚かしたと言われる天才! かっこいいよねぇ……。そもそも科学というのは『ヘラクロスの冒険』のカガクのように奇怪な研究で生まれた技術のことを言われているからね。物語の彼はもちろんみんなに批判されたけれど、それを乗り越えて、国の人を救ったのは感動ものだよ。あんなに――」

 少年はヤマトが何気なく出した『ヘラクロスの冒険』の話に食いついて、一人で長々と話し始めた。後半はヤマトの思考では理解不能で少年の声だけが耳に響くようになっていった。こんなキラキラとした目で語る子どもの言葉を無碍にはできないと努力するも、やはり理解できなかった。どうにか話を変えようと、ヤマトは思考を巡らせた。

「そ、そうだ! それで君は、いったいなんの屋台をするんだい?」

「よくぞ! 聞いてくれたね! 見ててよ見ててよー!」

 そういうと彼は嬉々とした表情のまま作業に戻る。ヤマトはその光景を呆然と見ている。さっきのアステリオスの話を聞いた後でも、やはり彼がやっていることがわからなかった。アステリオスが箱の中を弄るのをやめると箱の蓋を閉めて、ヤマトの方を見てニヤニヤした。その後、箱から少し飛び出た突起物を押した。

「…………」

「あっ、ごめんね。もうちょっと待ってて」

 呆然としているヤマトを見て一瞥するアステリオス。ヤマトはただただその箱を見つめる。その箱の上部、鉄でできた板の上に熱で揺らめく陽炎が出てくる。この陽炎にヤマトは驚きを隠せなかった。

「これは……」

「よし、準備完了だね」

 するとアステリオスはヤマトから少し離れた後、何かを入れた木箱を持って戻ってくる。

「これは?」

「バターだよ。牛の乳を容器の中で振って固形物に分離させたもんだ。これを作るのにも結構苦労するんだけど、僕は、これを人の手を使わずに回すカラクリを作ったから大量生産できんだ。すごいでしょ」

 話を聞いてくれる存在がよほど嬉しいのか、聞いてもいないことを話し続けるアステリオスは陽炎を起こしている鉄板の上にバターを敷く。少しまろやかな香りが鼻を通る。朝食を抜いていたから腹が鳴る。クミルからいただいたおにぎりを食べようかと悩んでいたが、アステリオスはさらに容器を取り出した。中には小さな粒がたくさん入っていた。

「なんだ、それは?」

 好奇心を隠せず、ヤマトはアステリオスに問い詰める。アステリオスはそんなヤマトの様子にまたニヤリとする。

「乾燥させたトウモロコシだよ。これをここに入れてねぇ」

 その後アステリオスはガラスでできた透明な蓋を鉄板の上に乗せる。ヤマトは興味深くその蓋の中を覗き込む。ぷつぷつと音がなるものだから目が離せない。

「そろそろだ!」

 その直後、パァン! と大きな音が響いた。その直後中に入っていたトウモロコシが異様な形に変容した。その一つを皮切りに他の粒もどんどん爆発していく。

「なんだこれは?」

「へっへ。すごいでしょ。乾燥させたトウモロコシはこうして熱で炒ると破裂して形を変えるんだ。初めてこれに気づいたとき、蓋し忘れて部屋中にこれが飛び散って大変だったんだよぉ」

 自慢げに語るアステリオスは全てのトウモロコシの粒が破裂したのを確認すると、最初に押していたボタンをまた押した。その後また別の容器から粉を出してそれを破裂した粒たちに振りかけていた。

「そ、それは?」

 ヤマトは驚きの連続で目が離せず、新しいものが出る度に聞くしかできなかった。これは懐かしい少年時代の感情だった。

「山で取れる岩塩を砕いてさらに削ったものだよ。しょっぱくておいしいんだ。君の国にもあるだろう?」

 ヤマトは調理場に立つ男ではない。そんな当たり前の物ならば存在するのだろうか。しかし、オフィックス付近に山はあれど、『ウロボロス』の外だ。恐らく流通していないだろう。ヤマトは首を横に振った。アステリオスは驚いたように声を上げて、またニヤリと笑う。

 その後、アステリオスはその破裂したものを容器にいくつかと移した。

「食べる?」

 アステリオスはその食べ物をヤマトに差し出す。ヤマトは興味深くてすぐに手に取りたいと感じたが、そこをじっとこらえた。

「すまない。アステリオス。今私には金がなくてね……」

「いいよいいよ。この国でここまで話を聞いてくれる人中々いないから。まだ親の洗脳受けていない子どもくらい、それも見世物だと思うだけで、後で親から洗脳を受けるから理解はしてくれない。だから、これはおまけと思ってさ。食べて食べて」

 アステリオスに差し出され、受け取ってしまったヤマトはそれを一つ口に運んでみる。

 手でつまみやすい大きさで、バターの香りが食欲をそそる。噛んだ時に岩塩のしょっぱさがくせになり、手が止まらない。

 しかし、喉にトウモロコシの皮が絡まって喉が渇く。

「よかったら水もどうぞ」

 アステリオスが渡してきた水をがぶがぶ飲んでまた残ったものを食べる。

「これは、美味しいな。なんというのだ?」

「今のところ爆ぜもろこしって名付けているんだよ」

「爆ぜもろこしか……。とってもうまいな。それにこれは一個ずつ手に取って食べやすいし、味付けも良い」

 これがオフィックスにあればエールと一緒に楽しみたくなるとヤマトは騎士団時代の数少ない友と交わした飲みの席を思い出す。

「でも、これ売れないんだよねぇ。ここの男どもは僕の料理を怪しんで食べないんだ。それに女性以外の料理はそもそも受け付けないんだよ。女も自分たちこそが料理の担当だと自負している。だからこんな変な機械使って作る、変な料理と、それを作る男は受け入れられないんだよねぇ」

 軽い口調でそういっているアステリオスの表情は少し沈んでいた。ヤマトには、それが強がりであるとわかった。彼も経験がある。士官学校に入った際、この肌と髪の色で受け入れられなかったが、スタージュン卿の前では楽しそうに軽口を叩いていた。きっとあの頃のヤマトも彼のような表情をしていただろう。ヤマトは同情心にかられる。

「そうなのか。こんなに美味しいのに、これはどうやって作っている? 先ほど『炒る』と言っていたが……」

 励ますつもりでの質問だったが、アステリオスの目が輝いてこちらを見るのでヤマトは少し後悔する。

「へへーん。お兄さん。えーっと名前」

「ヤマトだ」

「うん。ヤマトさん。これを持って、手を擦ってみてくれない?」とアステリオスは薄い板をヤマトに差し出す。少し硬い。ヤマトはそれに手をついて擦り続ける。いつまでやればいいのかわからずにずっと擦っている。

「そろそろかな? やめていいよ」

 アステリオスはそういうと今度は別のものを取り出した。鉱物で出来た球体だった。

「これに触ってみて」

 ヤマトは恐る恐る球体に触れる。すると指先から突然痛みが走った。驚いたヤマトは慌てて球体から手を離し、自分の手を見つめた。一度手を閉じて開いて動かしてみるが異変はない。

「これが銅力だよ」

 ヤマトは聞きなれない言葉に首をかしげた。アステリオスはまだ話を続ける。

「うん。今ヤマトさんに擦ってもらったのは硫黄で作った板なんだ。それを擦るとパチっと痛みが走る。それを僕は銅力って呼んでいる。物を擦って発生するこの力は、実は銅を使うことで伝導していくことがわかったんだ。だから銅力」

 アステリオスはそういうとヤマトの腕を引っぱり、屋台の裏につれていく。ヤマトが、屋台のカラクリの中を見えるようにしゃがんだのを確認すると、アステリオスはカラクリを開けた。その箱にはたくさんの鉱物で作られたヤマトには理解が追いつかないものでびっしり詰まっていた。

「銅の板と亜鉛の板を作って、湿らせた布を挟むとさっきのパチっとした痛さをそのままエネルギーとして繋いで運ぶことが出来る。この真ん中のものは硫黄で作った球体を無理矢理回転させるものだ」

 一応アステリオスの言葉は全て入っているが、ヤマトにはまったく意味がわからなかった。スタージュン夫人が隣人たちとの噂話を自分にしている時と似ているとヤマトは少し辟易としていた。複雑に入り組んだカラクリ屋台の中身を見ても、ヤマトにはさっぱりわからなかった。

「つ、つまりアステリオスくんは、このカラクリで何をしたんだ?」

 これ以上聞いても仕方ないと感じたヤマトは直球で気になったところを聞いた。アステリオスはその言葉を聞いて少しがっかりしているようにも見えたが、答えを言いたくて仕方ないのかまた表情が明るくなる。

「これでね? 熱を発生させることができるんだよ!」

「ね、熱だと!? ひ、火がどこにもないじゃないか!?」

 ヤマトは動揺した。このカラクリの中には『火』がないのだ。我々は『火』の熱を使って調理や暖を取るなどを行う。そのためにオフィックスでは、さらに効率よく火を準備するために『マグチ』が開発されたというのに。

 ヤマトにとって、アステリオスが放っている言葉は信じがたいものだった。目を見開いてアステリオスを見つめる。その顔を見て、アステリオスはさらににんまりと笑う。

「そう! 摩擦で発生するのは火だけじゃない。鉱物などを擦ると銅力が発生して、その銅力は火と同様に熱を持つ! さらに、物体を動かす力なども持っているんだ!」

 熱を生み出す。それならさっきの爆ぜもろこしも突然鉄板から変化を遂げた理由に納得がいく。火はまだ何かを擦って発生させて、それを燃える草や木で増幅させる。それではじめて料理などに利用できるほどの熱を生み出す。ヤマト自身も毎日旅の中で誰が火を起こすかでコブラたちと言い争いになっているのだ。それをこの少年は火とは違う力を使って時間をかけずに、簡単に熱を用意して見せたのか。

「どう!? どう!? やっぱり僕ってすごいよね!」

「あっ、あぁ……。まったくだ。これを一般化するほど大量に用意できれば、国の文化は一気に変わる。寒波に襲われても室内を暖かくできる。湿気の多い日でも火を使った調理が可能になる。革命と呼べる代物だ」

「あぁ! これは空から降っている雷と一緒だとも僕は考えているんだ。あの力を人間が使いこなすことが出来たら、それはもはや書物に残っている神話などの神に引けを取らない! と思わないかい?」

 アステリオスは興奮してこちらに寄ってくる。この止まらない言葉の数にヤマトは扱いに困る。目の前の無邪気な少年の知性にヤマトの脳が追い付いていないのだ。

「た、確かにそうだ。雷と同じ……か。確かにあれが落ちた木々にも火は発生する」

「そう! はっきりとした共通項を見つけたら銅力も雷力って名前に変更したいなぁ」

 一人でうっとりとした表情を浮かべるアステリオス。ヤマトはこの短時間で愉快な人間だなとアステリオスを評価した。このままだとせっかくの散歩の時間を無駄にしてしまう。興味深い話ではあるが、ヤマトが聞きたいのは別のことなのだ。

「そうだ、アステリオス。話をぶった切るようで悪いが一つ聞きたい」

「いいよいいよ。ヤマトさんの質問だったらなんでも答えてあげますとも」

「今日の喧嘩祭りにミノタウロスが参加するのか、知らないか?」

 ヤマトの言葉を聞いてアステリオスは驚いた表情をして、先ほどまでの喧騒が嘘のように黙り込み、冷たい表情をした。

「済まない。君に聞いてもわからないか。彼は神出鬼没と聞いたからね。誰でもいいから知っている者はいないかと思って」

「なるほどなるほど。ごめんね、僕この通り肉体派の人と対立しちゃっているからさぁ。あのチャンピオンのミノタウロスのこと知っているはずがないよ。でもねぇ」

 でも。という言葉に反応したヤマトも思わず「でも?」と聞き返す。

「今まで、新しい人の参戦とか、山に特訓していた人が帰還した時などは必ず現れているんじゃないかなぁ。自分の優位性を示すために。僕も売れないなりに屋台をやっている身だからね。推測でしか、もの言えないけれど、参考になったかな?」

 申し訳なさそうに指で頬を掻くアステリオスにヤマトは軽く一礼した。

「本当にありがとう。誰かが購入してくれるといいな。爆ぜもろこし」

「ヤマトさんが宣伝してくれてもいいんだよ?」

「私にやったように無料で出してみればいいのでは?」

「それでも食ってくれないんだよ。みんな怪しんでさぁ」

「またあとで金を持ってきてしっかり買わせてもらうから」

「うん。その時はよろしく」

 ヤマトはそういって彼に背を向けて手を振って別れる。ヤマトが去ったのを確認し、アステリオスはまたカラクリをいじり直した。


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