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第二章 タウラス民国の喧嘩祭り 11話

 コブラは壁から壁へよじ登り、タウラスの家の屋根で空を眺めていた。屋根から屋根に移動するのは解放感があって好きなのだ。空を見て、気分が変わったらまた屋根から屋根に移動する。屋根の上の方が風も気持ちよくてこれを邪魔されたくないから、ヤマトの同伴を無理矢理避けたのだ。

 ヤマトならばこのような行動を必ず許すはずがない。面倒な説教が始まることを想像するだけでコブラはうげえと苦しい顔をする。

「ん? なんだありゃ」

 しばらく移動して、もはやここがどこかわからなくなってきたあたりで、まだ灯りが付いている部屋を見つける。興味を持ったコブラは屋根から飛び降りて、その部屋の近くを覗き込む。他人の家を覗き込むのも、オフィックスにいた頃の暇つぶしのひとつだった。

 悪いことをして大会の出場停止になってしまってはまずいのだが、夜だから大丈夫だろうとコブラの傲りがあった。

 覗き見ると、中には一人の少年がなにやら作業をしていた。興味を持ったコブラはそのままこっそり近付こうとする。その時だった。足に何かが引っかかったことに気づく。その直後だった。ちりんちりんと鈴の高い音が響き渡り、作業をしていた少年がこちらを振り返って目があってしまう。

「あっ……えーっと……」

 少年は作業していた道具を咄嗟にしまった後、コブラを睨みつける。

「お前、クロノスに勝ったコブラだな。なんでここにいる? バイソンの宿からここは遠いはずだよ」

 目の前の少年は警戒心を持ち、睨み続ける。コブラはあたふたとして、逃げるべきか。ここは穏便に済ませるか頭の中で掻き巡らせる。その時、少年の横にある食べ物が目に入る。不思議な形状をしている。

「ん? それ……なんだ?」

「あぁ、爆ぜもろこしっていう僕が作った料理さ」

「爆ぜもろこし!」

 コブラはすぐにヤマトが言っていた『爆ぜもろこし』と同じであることを理解して興奮した。

「よ、よかったら食べるかい?」

 コブラがまじまじと見るからか、少年は恥ずかしそうにしながら、爆ぜもろこしが入っている容器をコブラに渡す。警戒心が少し下がったことをコブラは見逃さない。

 コブラはその中から一粒を取り、口の中へ放り込む。パリパリとした食感にハマってしまい、無意識にもう一つ口に運んでしまう。

「おいしいでしょ」

 少年の方を見ると、まんざらでもない笑みでこちらを見てくる。コブラは「あぁ」と軽く答えて、また一つ爆ぜもろこしを口に運ぶ。

「お腹空いていたの?」

「いや、そんなことはねぇけど」

 手が止まらなくなり食べているコブラを見て少年は移動して筒の前に立ち、コップを取ってボタンを押す。すると、筒の一点から水が流れる。その光景にコブラはまた驚き、少年の方に近づく。

「これはね? ここを押すと筒からこぼれないための板が外れるようになっているんだ。だからここを押すと、こうして水が出る。この筒に大量に水を保存しておける。井戸に行かずとも簡単に飲料水を手に取れるのさ」

「ほぇーこれはすげぇな……」

 コブラはただただ感嘆としてしまう。自分がオフィックスにいる時にこれがあれば、住処に設置すれば、当時の喉が渇いたら川までいく必要がなくなる。かなり便利だ。それにコップがなくてもこれなら直で飲める。

 コブラは当たりを見渡す。少年の部屋にはコブラが見ても何が何かわからないもので溢れていた。

「それで? どうしてここに?」

「いや、散歩していたら灯りがついていたからよ……」

 とてもじゃないが、覗き趣味がある。と堂々と話すことはできないのでぼかす。少年はそれに対しては納得したのか。突っ込みを入れない。目の前の少年は改めて背筋を整えてコブラの前に立つ。

「僕の名前はアステリオス。喧嘩祭りの時にこの爆ぜもろこしを販売しているんだ」

「ほぇー」

 簡単な相槌を打ちながらもらった爆ぜもろこしを食べ続けている。途中、喉を止まらせて咳込むと見かねたアステリオスはコップを渡す。

 すると、コブラはそれを受け取ってがぶがぶと流し込む。それを見てアステリオスは思わず笑う。

「今日は本当にいい日だな。爆ぜもろこしを食べてくれる人が二人も出るなんて」

 アステリオスが少し照れくさそうに頬を掻く。

「ここの連中は食わないのか? これおいしいのに」

「だよね!? おいしいよね! 男が料理しちゃあいけないって誰が決めたんだ!」

 アステリオスの突然の怒声に驚いたコブラは呆気にとられる。

「よし! コブラ、お腹空いている?」

「えっ? あ、まぁ……」

「ならば見てて!」

 そういうと布をどかして大きな箱の上に鉄でできた器をのせて、箱のスイッチを入れる。その後、別の箱から肉を取り出した後、ビンから何かの液体を鉄の器に垂らして、器に肉を置く。すると香ばしい匂いがコブラの鼻に香る。

「植物から絞る取る油をこうしてビンの中に入れておくんだ。これを採取するのもすっごく難しいんだけど、それを僕はあの全自動擦り機を作成して簡単に採取できるんだよ! すごいでしょ!? すごいでしょ!?」

 楽しそうにアステリオスは語るが、コブラからすれば油の存在自体もよくわかっていないので頭がこんがらがった。

 そんなことよりも肉が焼けた香ばしい匂いを堪能することに集中する。

「はい、焼けたから食べてみて! この油は山で採れるゴマから採取したんだけど、通常の油よりも香りが立っておいしいんだ。これで米炒めた時なんかもう頬っぺた落ちるよー」

 コブラは渡された皿を受け取って、肉を口に含む。

「うめぇ! すげぇな! それにこんなにすぐに火を起こせるのも驚きだ」

「そういってもらえると本当に光栄だよぉ~やっぱり筋肉なんかよりも叡智の時代だよねぇ。うんうん。わかる人にはわかるのさ」

 嬉しそうに頷くアステリオスを他所に、コブラは部屋中を歩き回り、布を取って回る。いろんなカラクリに興味が湧いてしまって次から次に見ていく。

「あっ、待って! 勝手に布取らないでよ」

「いいじゃねぇか。どうせ自慢してえんだろ? 全部聞いてやるからさ!」

 いくつかの布を取った後、ひときわ大きなカラクリの布を取る。取った後見たものにコブラは思わず目を見開く。

「……あちゃー」

「おい、これって」

 コブラの目に飛び込んできたのは、今日、キヨを倒した男、ミノタウロスそのものだった。ミノタウロスはあの闘っていた時と同じで、表情一つ変えずに、コチラをじっと見つめていた。

「お前、これって」

「あっ、えっとねぇー。ミノタウロスは僕の友達でね! い、今は眠っているんだ。起こさないであげて?」

 アステリオスは明らかに動揺している様子だった。コブラは彼を睨みつける。

「ならこの後ろの空洞なんだよ」

 コブラが後ろに回り込むと、通常の人間にあるはずのない空洞が存在していた。コブラに追及されたアステリオスは観念したように肩を下す。

「はぁ……。コブラにだけ話すよ。ミノタウロスは、力ばかり五月蠅い奴らに対抗するために僕が作った強化補助鎧だよ」

「強化補助鎧?」

 コブラは聞き慣れない言葉だったので復唱してしまう。アステリオスは罪悪感で下唇をぐっとかみしめる。

「うん。僕がこの中に入って操縦して闘う。どうだい? ズルだと思ったでしょ?」

 コブラはミノタウロスに触れながらアステリオスの言葉に耳を傾け、自分の印象を頭の中で整理する。

「タウラスの連中がどう思うかは知らないが、俺はいいと思うぞ。自分が出来ることで相手に勝とうとしたんだ」

「君はそういってくれても、他の連中は……これをみんなに公表すれば僕は失格になるよ? そうなればチャンピオンの座はバイソンを倒すことで得ることになるし、アンチン……いや、キヨって娘の仇もとれるよ」

 諦めたように座りながらアステリオスはコブラに話す。コブラはアステリオスと目線を合わせるために彼の前で座る。

「いや、俺はお前のこの秘密を言わない。そっちの方が面白いからな」

 コブラの言葉にアステリオスは予想外の答えに目を丸くし、唖然としていた。

「そうか。黙っていてくれるんだね」

「お前がヤマトぶちのめしてくれたら万々歳だしな!」

「なんだよそれ」

「俺あいつ嫌いだからもし対戦になったらボコボコにしてほしい」

「仲間じゃないの? それにヤマトさん良い人じゃん」

 アステリオスはコブラの言葉に思わず吹き出してしまう。笑っているアステリオスを見てコブラも噴き出す。

「それで? チャンピオンになったミノタウロス。いや、アステリオス様は? どうしてまだ喧嘩を続けているんだ?」

 コブラはしたり顔で気になっていたことをアステリオスに問い詰める。笑っていたアステリオスの表情は一瞬固まる。

「まだ、本当に決着はついていないから」

 アステリオスの表情が悲しげな表情に変わった。その瞬間をコブラは見逃さなかった。

「ほぉ、詳しく聞いていいか?」

「うん。僕がこれを作り始めた理由はね。ウラノスさんなんだ」

「あのソーセージ出しているおっさんだな」

「そうだね。あの人こそタウラスの英雄だよ。力自慢のタウラス民国の中でも圧倒的な強さを持つ怪物。彼に勝てば僕だって認められる。そう思って作ったのが、何年もかけて作ったのが、ミノタウロスだった。けど、これを完成させた時。ウラノスさんは百戦百勝の記念として喧嘩祭りの舞台から降りた。僕からしたら勝ち逃げだよ。やっと勝負が出来ると思ったのに……」

「だったら、ウラノスのおっさん同様に、連戦連勝して、ウラノスが舞台に上がってくるのを待てば、喧嘩できる機会もあると」

「うん。この国にはもう僕に勝てる男は存在しない。そう思わせた時、ウラノスが出てくると思ったんだ」

「なるほどなぁ。まっ、その計画もおじゃんになるけどな。へっへっへ」

 コブラの言った言葉にアステリオスは彼を睨む。

「だって、お前がミノタウロスを使っても、俺が勝ってやるからな。だからまぁ。お前は憂さ晴らしでヤマトをボコボコにしてくれたらいいぜ。じゃあな。飯、ご馳走になったな。明日は、楽しく喧嘩しようぜ」

 その言葉を言い残してコブラはアステリオスの部屋を出ていった。アステリオスは不思議な少年だなと、去ってゆくコブラの背中をじっと見つめ続けた。


 タウラス民国の広場は歓声に包まれる。カノナの声が響く中、喧嘩の舞台になる場所には四人の男が舞台の角にそれぞれ立っていた。

 ヤマト・コブラ・ミノタウロス・バイソンの四人である。四人それぞれに熱狂的な応援者がついているのか、それぞれの名前を叫ぶ人々の怒声が会場を盛り上げる。

「それではそれではそれではぁ! これより組み合わせを発表したいと思いますよぉ! みなさん楽しみですよねぇ! そうですよねぇ! 祭司様から渡されている紙を開く私ももう今からドキドキものですよ! それでは、開きますよぉ!」

 カノナがわざとらしく紙を恐る恐る開いてちらちらと中を見る。

「おぉ! では、対戦表を発表します! 第一試合! 【異邦の風雲児】コブラ対ウラノスに次ぐ喧嘩伝説! 【怪物】ミノタウロス! その後の第二試合は異邦の【高潔剣士】ヤマト=スタージュン対【優しき暴牛】バイソン! これよりしばし、準備の後、行います!」

 カノナの言葉を聞いて、参加者は舞台から降りる。コブラはさりげなく自分の異名が変わっていることに気付いて思わず失笑する。

「ヤマトと当たらなかったな。 悪いな、準決勝で落としてやるよ」

「……俺が勝つ」

 ミノタウロスとコブラが睨みあい、互いに言葉を交わして舞台を降りる。

「コブラ、今お前ミノタウロスと話していなかったか?」

「あぁ、昨日ちょっと知り合ったからな。お互いにぶっ潰すと伝えたところだ。昨日あいつにはお前ブッ飛ばしてって頼んだんだが、采配はうまくいかねぇな!」

「コブラ、貴様には仲間意識と言うのがないのか?」

「まぁまぁ、二人とも。ヤマトとコブラ両方が勝てば、あんたたちの喧嘩に決着つけれるんじゃないの?」

 睨みあう二人の間に割って入ったキヨが提案をする。その言葉を聞いてコブラはニヤリと笑う。ヤマトもまんざらではない顔をしている。

「いいねぇ。今回俺達が決勝に残って喧嘩になった場合。勝った方が負けた方を配下にする。ってのはどうだ?」

「いいだろう。そもそも、貴様がミノタウロスに勝てたらの話だがな」

「言ってやがれ。お前もバイソンに勝てたらの話だろうが」

「あぁ、見ていろ。バイソンに勝って、貴様に勝って、お前を配下にしてやるからな」

「それはこっちのセリフだ。お互い、いい喧嘩になるようにしようぜ」

「あぁ」

 ヤマトとコブラはそういうと互いに軽く拳を当てる。そしてコブラはヤマトとキヨから離れて、入場口へと目指す。


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