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2025年、日本にてカジノ法が可決され、賭博を中心にカジノは経済活性剤となった。それは同時に限りなく平和だった日本の治安を脅かす要素と懸念の声が大きかった。
であるにもかかわらず、君が悪いほどに一般市民の生活に支障はなかったのである。結果的に良かった、と言えたらよかったであろう。裏で糸を引いている組織がいくつも存在し、表ざたにはならないように徹しているだけなのである。
「ねえ、お姉さん機嫌直してヨ。あ、ベット40000」
南は、カジノのVIPルームにてテキサスホールデムを興じていた。
彼の目の前には、顔色一つ変えずに己の手元にあるカードと卓上のカードを交互に見比べるふくよかで厚化粧の夫人が気難しく鎮座していた。
「…コール」
紫の目立つ視線を目の前にいる中国人に向けた。
「…要件を聞こうじゃないか、ワルツのジャッキーチャン、あたしらが何をしたって言うのさ、ん? この場の落とし前をどうつけてくれるのさ、あたしゃそこが聞きたいね」
「別に何もしてないヨ、向こうが勝手に殴ってきただけネ。俺はただこの封筒の持ち主について聞きたいだけネ。」
涼しい顔で答える南の後ろには意識を失った大男が、赤紫の痣を顔に残し、くしゃくしゃに倒れた巨漢が10人いた。
「それに、君は今文句を言える立場ではない筈。護衛はもう倒れてるシ」
ー遡ること10分前、騒動は渋谷のビルの8階で起こった。
8階はカジノのVIP兼事務所がある場所なのだ。入り口は180は優に超す男が仁王立ちしていた。
「お兄さん、そこを通してくんナイ? この先の人に用事があって。」
「…この先を通せるのは本日の来客リストに載っている方のみです。失礼ですが身分を証明できるものは?」
「これでいいかい?」
南は両手に魔方陣を出し、シンバルのような叩き方で大男の顔面を横から2方向に叩いた。音を聞きつけた者たちは、入り口の狭い廊下にぞろぞろと集まっていく。
「んだ!? てめぇ、どこのもんだぁ? ああん?」
「良く鳴く狗ネ、ゲームでその言葉を覚えたのカ?」
謎のあおりを受けた男をはじめに、10人ほどの男が銃を構え、順に発砲した。南は作成した魔方陣を集団に向かって展開し、銃弾をどこかへと転送させていった。それを盾にしながら、今度は別の魔方陣を作成する。見た目も色も同じものだが、今度はそれを集団へ水平に手裏剣のように投げつけた。
投げた魔方陣は、前方の盾を真っ二つに切り裂いた。
ヤバい
人並み以上の修羅場を経験してきたチンピラたちには目の前に迫っている円盤の怖さでいっぱいだった。
男たちは左右に退き、円盤の行く先を反射的に目で追ってしまった。彼らを通り過ぎた攻撃はそのまま、霧散していった。男たちは後ろの装飾などに被害がなかったことにほっとする。この一瞬こそ彼らの命とりであった。
「馬鹿ネ。お前ら。」
南はどこから取り出したかもしれない棍棒を目いっぱい後ろに引き、すでに端の男に詰め寄っていた。目いっぱいに振りかぶり、一人のこめかみに強烈な一撃を浴びせた。当然、打った反動で棍棒は反動を得る。そのまま円運動を維持しながら、南はどんどんと、男たちを屠る。
仲間が倒されるところを見て、残り数人の男たちは順応したのか、すでに構えをとっている。
「お前ら、遅いネ。」
そう、彼らは遅かったのだ。すでに彼らの足元には例の転送する魔方陣が敷かれていたのだ。では、どこに? 彼らの真上だった。彼らは果てしない自由落下をすることになったのだ。3巡ほどして、南は横側に魔方陣を敷く。すると、男たちは壁に激突し、鼻からあまり嬉しくない音を立て、ズザザッと倒れていった。
「你好♪ 遊びに来たネ。」
訳の分からない薄くて巨大な煎餅のような円盤で木製のドアを真っ二つに分断し、今に至っている。
「现在,我们来谈谈吧。」