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あけましておめでとうございます
1話から数か月後
「陣内さーん、いますかぁ?」
そこは一軒のアパート、どこにでもある何も変哲のない場所であった。
女はそのうちの1室、105の扉をたたいている。横には若干の震えをしながらも先日のクウガがちょこんと様子を眺めていた。
「陣内さーん、ちょっとぉ? おぉ、おぉ?」
強気な態度はやがてたたく部位を握りこぶしから革靴へとシフトチェンジした。
「ちょ、ちょっと!!! 蔵屋敷先輩!!! まずいっすよ、公務員じゃねぇっすよ、やってること」
蔵屋敷という女は遠慮がない強さでゲシゲシとたたく。ボロアパートの薄い木でできたドアに若干の傷跡ができ始めた。
「えぇ? 問題ないでしょ? 昔なんかあれじゃん、どっちがヤーの人かわかんなかったってケースもあったじゃん。ほら」
彼女は懐にあるスマートフォンで某配信サービスのとある動画をクウガに見せた。
「…あぁ…」
毎度毎度面白いと思ってる動画も、知り合いや友人が行っていると良い気分にならないのは、一般人としてよくあることだ。かくいう、クウガも同じ感情を持っていた。
「に、にしてもですね…」
「あ、なんなら、もっと過激に行くか」
「はい?」
「スゥ…」
蔵屋敷は息を吸い、そのまま大振りの右フックをドアに繰り出した。
バキっ
家ではあまり聞きたくない音を立てた
「何やってるんすか!!! シャ〇ニングじゃん!!! ジャッ〇・〇コルソンもびっくりだよ!!!」
「あーわかった、わかったから、黙ってて、例の隙間のシーン2秒だけだから、150テイクもしてるのに2秒だから、私は1テイクで行くけど。」
「あー あー 俺は知らない!! 今警官が来ても あー 知らなーい!!!」
フックで脆くなったドアの破面部分に女はさらに追い打ちをかけ、人が通れるほどの穴を作り、そのまま陣内という男の部屋の中へ入っていく。
部屋の中は陰気臭く、じめじめとしており、生活感こそ感じられるが、太陽の光を徹底的に排している印象があった。何よりもっと目を見張るのが書物の量の多さである。
「こんちゃ、陣内さん、異世界管理局の者です… って、やっぱいないか。」
「いないかじゃねぇよ!! 弁償もんだわ!!! どうするんすか、この始末!!」
かろうじてクウガが蔵屋敷に敬語を扱うのは、曲がりなりにも先輩としての敬意を捨てずにはいられなかったからである。
「ん?」
蔵屋敷は己の作った穴を見て、その奥におろおろと歩いているクウガを見る。
「…まあ、ね?」
「!?」
蔵屋敷は落ちている書簡や本を見てため息をつく
「おい、クウガくぅん」
「はい?」
「やっぱりこいつ“橋モン”だわ」
「…マジすか?」
「こりゃあ、一旦支部に持ち寄って確認ですね。」
男女の公務員は玄関前に戻り。乗っていた車に向かおうとした。
「あのぉ… すみません」
「「はい?」」
青く落ち着いた色の制服の男がいた。皆まで言わなくていい。
警官だった。
「近所からうるさいとの通報を受けたので、来てみたんですけど、あのドアに何か心当たりはありませんか?」
「「…」」
日常的にこの言葉はよく使われるだろう、因果応報という四字熟語を。