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チュンチュンチュン
小鳥のさえずりが、瞼の上からでもわかる窓の明るさが、寝ている男を優しく起こす。
「うーん、あ、あと… 1時間…」
彼は、日陰へ寝返りをうち、再び睡魔に誘われようとした。
そうは問屋が卸さない。
机の上の目覚まし時計が命じられたかのように、彼に向かって電撃を放つ。
ビリりりリリリ!
「アババババババ! く…わわわわかったから、わわわかった。」
彼は腕を伸ばして過激な目覚ましを止めた。
ふう…
見苦しい朝を提供してしまった男の名はクウガ。今日は彼にとって、研修後の初出勤日、遅刻は出来ないし、許されない。
「…あ~辛]
「うーん、おはよう、クロ、早いね。」
寝癖でボサボサの髪で、眠たそうにしている彼の家の主婦、母。
「おはよう! 母さん!」
「今日は、私とお父さん、お隣の谷口さんと夕食会だから夜遅くなるわ…自炊なりなんなり申し訳ないけど、お願いね。」
「わかった。俺も多分遅く帰ってくるから、外食して帰ってくるよ。」
朝食を済まして、出勤準備に取り掛かる。
茶色革靴、黒スーツ、赤ネクタイ
一般的な普通のリーマンと同じ制服である。
「じゃあ、行ってきまーす。」
普通のマンション、普通の街並み、普通の気候(ちなみに今日は春の良い晴れの日)
何もかもが2010~20年の光景と代り映えがない。
ただ一つ、仮にその年代の人がここにタイムスリップしたらあっと驚くであろう。
天を貫く、沢山の光の柱があちこちに立ち上っている大空に。
「おぉ、今日も立派に立っているなぁ…」
男は、意気揚々とマンションの階段を駆け降りた。
ー街に着いて…
クウガは横浜市関内に着いた。彼の勤務場所だ。
馬車道通りを抜けていく。人はせわしなく彼を追い越し、やれ裁判所だのやれ警察署だのきっちりかっちりとまるで動きの良い歯車のように所属する建物の中に入っていく。
クウガの建物はとても分かりやすい場所である。ここには建物は2つしかない。ずばり関内の赤レンガ倉庫である。
「ここだよ、ここ。」
しかし男は、赤レンガの中には入らず、そのわきにある階段を降りて行った。
研修の初日、俺、地上だと思ったんだよねぇ…
頭の中でぼやく。
男は、10年ほど前にできた関内の赤レンガ倉庫地下3号館の中に入っていく。地上には、カフェ、レストラン色々あるが、そこだけかなり特殊なものだ。
「おはよう御座います!」
「おはようございます、クウガさん。遅刻なしの初出勤、おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
男の名は天橋空、24歳、国際異世界特別管理局関内本部に務める少し稀な男であった。
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