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管理人さんといっしょ。  作者: 桜庭かなめ
続編

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第4話『ナポリタン』

 4月24日、水曜日。

 今日は料理部の活動がある日。見学期間が終わってから初めてであり、平成最後の活動でもある今日はナポリタンを作る。このようなタイミングで定番のものを作るのは、個人的にいいなと思う。

 放課後になるとすぐに美優先輩と花柳先輩が迎えに来て、先輩方と一緒に活動場所である家庭科室へと向かう。


「おっ、美優ちゃん達が来たね。本来なら、ここで由弦君の手をぎゅっと握るところだけど、それはもうダメだよね」

「挨拶程度の握手ならかまいませんよ。でも、先輩の握り方は情熱的ですからね……」

「由弦君の温もりをできるだけ感じたいからね」

「美鈴先輩の気持ち……何だか分かる気がします」

「瑠衣ちゃんに共感してもらえて嬉しいよ」


 そんな話をする中で、汐見部長はさりげなく俺の手を掴んできた。これまでのようなぎゅっとした掴み方じゃないけど、部長の温もりがしっかりと感じられる。というか、ついさっき、手を握ったらダメだって本人が言っていなかったっけ?


「もう先輩ったら。由弦君の手をしっかりと握っているじゃないですか」

「おっと、これはすまない。これからは気を付けないといけないね」


 ははっ、と爽やかに笑いながら汐見部長は俺の手を離した。そんな部長のことを美優先輩は優しい笑顔で見ている。


「みんな、授業お疲れ様」


 入口の方に振り返ると、そこには大宮先生と霧嶋先生の姿が。

 霧嶋先生は今年度の料理部の活動に全て顔を出しているので、料理部の副顧問になっていい気がする。


「こんにちは、成実ちゃん、一佳ちゃん。一佳ちゃんは今日も最初から参加するんですね」

「今日の業務は一通り終わったから。すぐにやらなければいけないものもないし。それに、成実さんから料理部に来ていいからって言われているし。料理部の作った料理も美味しいから、それなりに興味もあって」

「そうですか。僕が入学したときよりも、だいぶ素直になりましたよね。それは、桐生君っていう子が担任として受け持つことになかったからかな?」


 汐見部長はそう言うと、霧嶋先生はほんのりと顔を赤くして俺のことをチラチラ見てくる。


「……き、桐生君は優秀な生徒の一人だと思っているわ。だから、彼のおかげというのは否定しない。それに、あなたが入学してから2年経っているんだから人としても、教師としても多少は成長していると思うのだけれど」

「確かに。僕が一佳ちゃんと呼んでもあまり怒らなくなりましたし」

「……それは注意しても直さないから諦めの気持ちが強くなってきただけ」

「ふふっ、あたしはいいと思うけれどね、一佳ちゃんって呼ばれるのも。だって、一佳ちゃんは可愛いし」

「な、成実さんまで何を言っているんですか。もう……」


 すると、霧嶋先生は恥ずかしいのか真っ赤になった顔を両手で覆った。そんな霧嶋先生の頭を大宮先生が優しく撫でる。その際、ごめんねと呟いていた。

 2年前の霧嶋先生がどんな感じだったのかは分からないけど、今の先生が可愛らしいというのは納得だ。授業のときを中心にしっかりとしているからか尚更。サブロウのことも気に入って、撫でているときはデレデレしているし。

 霧嶋先生の気分が落ち着いたところで、大宮先生は黒板の近くにあるテーブルの前に立つ。

 

「じゃあ、今日も料理部の活動を始めましょうか。みんな、今日も授業お疲れ様。見学期間が終わってから初めてかつ、平成最後の活動で作る料理はナポリタンです! 今日も楽しく作りましょう! 何かあったら、部長の美鈴ちゃんや副部長の美優ちゃん、もちろんあたしにも言ってね。一佳ちゃんには……」

「……ちょっと困った感じにならないでくれませんか。私にも言ってきていいわよ。まあ、私の場合はできないこともあるので、そのときは私から3人の誰かに頼むわ」


 虚勢を張ることなく、できないこともあると事前に言うのはいいと思う。この前のホットケーキの件を通じて学んだのだろうか。

 それから、いくつかの班に分かれてナポリタンを作ることに。ただ、付き合い始めたからなのか、部員達の計らいで、美優先輩と俺は一緒の班で調理をすることになった。あと、花柳先輩がちょっと悲しそうだった。


「よろしくね、由弦君」

「よろしくお願いします、美優先輩」

「副部長の白鳥先輩と、料理がとても上手な桐生君が一緒なら、美味しいナポリタンが食べられそうだね!」

「うん! 私達の腕じゃちょっと心配だもんね」


 俺達の班は4人。美優先輩以外のメンバーは全員1年生。2人とも、作る気よりも食べる気の方がとても強いようで。

 全てを美優先輩や俺でやってしまうのはさすがにまずいので、簡単なことを中心に彼女達に役割を振っていくことにするか。


「美優先輩、ナポリタンの具材を切ったりするのは俺達がやって、スパゲティの方は彼女達に任せるのはどうでしょうか」

「……同じようなことを考えてた。そうしよっか。由弦君と私でナポリタンに入れる具材を準備するから、2人はスパゲティの方をお願いできるかな」

『はーい!』


 2人はやる気いっぱいで良かった。ナポリタンを作る上で、スパゲティは一番と言っていいほど重要だけれど、そこは美優先輩と俺でたまに確認すればいいか。

 美優先輩と俺でナポリタンの具材を準備していくことに。


「惚れ惚れする手つきだね。ずっと見ていたいよ」

「ありがとうございます。包丁を持ちながらだとドキッとしますが。美優先輩もさすがです」

「ふふっ、ありがとう」

「……この前のホットケーキのときにも思ったけれど、本当にあなた達って料理が得意なのね。料理があまりできないからか、2人が年上に見えるわ」


 気付けば、俺のすぐ横に霧嶋先生が立っていた。自分の得意ではないことが上手な人を見ると凄く大人に見えるのはよく分かる。


「由弦君も私も料理は好きですからね。先生も今日は作ってみますか?」

「いいえ。この前も言ったけれど、料理部にお邪魔するときは生徒達を見守ったり、食べたりすることに決めたから。それが私の役割だと思うの」


 胸を張ってそう言うところが霧嶋先生らしいな。


「それに、私が具材を切ったりしたら、出来上がったときに雑味が生まれそうだし、綺麗なケチャップ色が淀んでしまいそうで」

「……なるほど」


 つまり、具材を切ったら、その際に指を切って血が出てしまい、そのことで見た目や味に影響してしまうのではないかと考えているのか。言葉が違うだけでも随分と印象が変わるな。さすがは現代文教師。


「……よし、これで終わり。先輩、ピーマンと玉ねぎを切り終わりました」

「ありがとう。マッシュルームとベーコンも切り終わったよ。じゃあ、具材の用意はこれで大丈夫だね。スパゲティの方はどうかな?」

「お湯が沸騰したので、今から茹で始めるところです!」

「分かった。今回使うスパゲティの茹で時間は7分だよ。じゃあ、具材の方も炒め始めようかな」

「……もし、味見が必要であれば先生に言いなさい」

「……そのときになったらお願いしますね、一佳先生」

「任せなさい!」


 霧嶋先生、とてもやる気になっているな。できることは少ないと分かっていても、何かの役に立ちたいんだな。

 俺達は順調にナポリタンを作っていく。美味しそうな匂いがしてくるので、お腹が空いてきたな。

 また、霧嶋先生は色々な班のテーブルに行き、味のチェック係をしていた。美味しいと言ったり、たまに右手でサムズアップをしたり。汐見部長のいる班は特に美味しかったのか感激している様子。先生も結構楽しんでいるように見える。

 俺達の班も、スパゲティが茹で上がり、ケチャップ味に炒めた具材と絡める最後の段階に。量が多めなので俺がすることになった。ナポリタンも実家でよく作ったので、そのときのことを思い出すな。


「よし、こんな感じでどうでしょうか」

「うん! いいと思うよ。一佳先生、味見の方をお願いします!」

「分かったわ」


 美優先輩はフォークでナポリタンを一口分取って、うちのテーブルやってきた霧嶋先生に食べさせる。4人で作ったとはいえ、先生に食べてもらうのは何だか緊張するな。


「いかがですか? 一佳先生」

「……とても美味しい。スパゲティの固さも、味付けも、具材の火の通り具合も申し分ないわ。どの班も美味しいけれど、ここと汐見さんの班が特に美味しいわ」

「ふふっ、良かったです。じゃあ、それぞれのお皿にナポリタンを取り分けて、活動記録用の写真を撮ったら食べようか」

『はーい!』


 その後、俺が4人それぞれのお皿にナポリタンをよそい、美優先輩がデジカメで記録用の写真を撮影した。その写真を見ると、結構美味しそうにできたと思う。


「それじゃ、みんな手を合わせて。いただきます!」

『いただきます!』


 さっそくナポリタンを一口食べると……さっき、霧嶋先生が言ったようにスパゲティの固さもちょうど良くて、味付けも絶妙でとても美味しい。


「美味しいね、由弦君」

「ええ。ナポリタンがスパゲティの定番の1つなのが分かった気がします」

「そうだね。はい、由弦君。あ~ん」

「……恥ずかしいですね。一度だけですよ。あーん」


 美優先輩にナポリタンを食べさせてもらったその瞬間、

 ――カシャ。

 と、写真を撮る音が聞こえてきたのだ。

 周りを見てみると、花柳先輩がニヤニヤしながらデジカメをこちらに向けていた。あと、汐見部長を含めた複数の部員がスマホをこちらに向けている。


「今日の活動記録をつけるのにいい写真が撮れたわ」

「花柳先輩、今すぐに消してください。恥ずかしいですって」


 まったく、許可なしに写真を撮らないでほしい。今になって、口の中でケチャップの酸味とピーマンの苦味が広がってきたような。


「別にいいじゃない、桐生君。それに、美優と付き合い始めてから初めての活動なんだし。何年か経ったらいい思い出に変わるわよ」

「瑠衣ちゃんいいこと言うね。あっ、今の写真は美優ちゃんや桐生君に送るよ」

「ありがとうございます、美鈴先輩」


 今は恥ずかしいけど、将来的には笑える思い出になるのかな。そうなることを強く願いたいところだ。


「そうだ。由弦君に食べさせてもらうところも写真に撮ってもらおうかな。思い出も兼ねて」

「オッケー。ほら、桐生君。美優にナポリタンを食べさせてあげなさい」

「分かりました」


 美優先輩にナポリタンを一口食べさせる。そのときにシャッター音が何度も鳴り響く。こんなにもシャッター音がうるさいと思ったのは人生で初めてだ。

 予想外のことはあったけど、俺達の作ったナポリタンはちゃんと完食した。とても美味しかったな。

 次回、ゴールデンウィーク明けにある令和最初の活動はチキンカレーを作ることに決まり、平成最後の料理部の活動はこれにて終了した。

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