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第3話『家族のこと』

 101号室に戻ると、美優先輩はさっそく夕食のすき焼き作りに取りかかる。

 その間、風花と俺は向かい合う形で食卓の椅子に座り、紅茶を飲みながらゆっくりすることに。


「管理人さんが住む部屋だけあって、この部屋は102号室と間取りが全然違いますし、広いですよね。ここなら、2人でも過ごせそうです」

「元々はお昼にいた伯父夫婦の部屋でね。10年くらい前に伯父のご友人のお父様が亡くなって。それをきっかけに伯父がアパートを譲り受けたの。ただ、かなり古い建物だったから、今のこの建物に建て替えたんだって。その際、ここに夫婦で住みながら管理人などの仕事をするために、この部屋だけは広くしたとか」


 それなら、この部屋だけ広いのも納得できるかな。美優先輩と2人でならゆったりと過ごせそうだ。


「そうなんですね。ただ、そうなると、この真上の部屋である201号室は広くなるんじゃ?」

「杏ちゃんが住んでいる201号室は、風花ちゃんの部屋と同じ間取りだよ。さっき気付いたかもしれないけど、201号室の横は備品とかを置く倉庫になっているの」

「へえ、そうなんですね。あたしの部屋と同じか」


 てっきり、外に物置が置いてあると思っていた。アパートにそういう部屋を設けたのか。


「そういえば、どうして美優先輩がここに住むことに? やはり、陽出学院高校に進学したからですか?」

「それが大きいかな。私は茨城県出身なんだけど、進学率とか色々なことを考えて陽出学院に受験しようって決めたの。伯父さんが管理するあけぼの荘もあるし。ただ、受験に合格した後に、伯父さんから社会勉強を兼ねてアパートの身の回りのことをしないかって言われたの。この部屋の光熱費や水道代、電気代は払うからって。実はその頃、伯父さんに雑誌コラムの連載や、書き下ろし小説のお話が来ていたみたいで」

「えっ、あの伯父さんって小説家さんだったんですか!」

「そうだよ。長編小説を何冊か出版しているし、雑誌のコラム連載もしているの」


 もしかして、仕事で執筆している小説やコラムのことばかり考えていたから、風花と俺が二重契約したことを今日になるまで気付かなかったのかな。


「契約や金銭関連は伯父夫婦に任せて、あけぼの荘の身の回りのことは私がここに住みながら行なうようになったの。ただ、すぐにあけぼの荘の様子を見に行けるように、伯父夫婦はここから歩いて10分くらいのところにあるマンションに住んでいるんだよ」


 伯父夫婦がここから徒歩圏内に住んでいるなら、美優先輩も安心して管理人の仕事をすることもできるか。そういう環境だからこそ、先輩の御両親もここで暮らすことを許したんじゃないかと思う。


「あけぼの荘とこのお部屋にはそういう歴史があったんですね」

「今のようになってからは10年くらいだけれどね、風花ちゃん。1人で住むにはかなり広くて。このあけぼの荘に住む女の子や学校の友達が泊まりに来たこともあるよ。もちろん、由弦君と一緒に住み始めるのが嫌だとは思っていないからね」

「分かっています。美優先輩には感謝の気持ちでいっぱいです」


 美優先輩のあの提案がなければ、今も家探しをしていたかもしれないし。見つかったとしても引っ越し作業をしていた可能性は高かったと思う。


「由弦。可愛い管理人さんと一緒に暮らすからって、厭らしいこととかしないように気を付けなさいよ。二重契約のことを理由にしたりしてさ。美優先輩も何かあったらいつでも言ってきてくださいね」

「その気持ちは受け取っておくね、風花ちゃん。でも、由弦君なら大丈夫そうだと思って一緒に住もうって提案したんだよ。ただ、私も気を付けないといけないな。由弦君に厭らしいことをしないように」


 美優先輩はほんのりと頬を赤くして、俺のことをチラチラと見てくる。兄や弟はおらず、年の近い男性と一緒に住む経験も初めてだそうだから、ドキドキしているのかな。


「でも、由弦君はお姉さんや妹さんもいるし、それぞれのお友達とたくさん遊んだことがあるそうだから大丈夫だよ」

「なるほど。女性慣れしているんですね」

「語弊がある言い方だね、風花。ただ、歳の近い女性とこうして一緒にいることは自然なことでした」

「姉妹がいるとそうなんだね。あたしは大学3年になるお兄ちゃ……兄と中学2年になる妹がいるけど、男の人と一緒にいるのは自然ではなかったかな。兄とはたまにゲームとかして遊ぶけど、兄が友達を家に連れてきたときとかは遊ばなかったし。妹の友達とはたくさん遊んだなぁ」

「私は妹が2人だから、妹達ともその友達ともたくさん遊んだな」


 そういうときも、美優先輩は今みたいに優しい笑みを浮かべていたんだろうなと容易に想像できる。今日初めて会ったけど、美優先輩が長女であることが納得だ。


「女の子同士だとたくさん遊ぶんですね。ということは、姉とその友達には好き勝手に服を着せ替えや少女漫画の朗読をさせられ、妹とその友達にはおままごとにたくさん付き合わされた俺は特殊だったんでしょうか」

「優しそうだし、着せ替えとか朗読とかおままごとに誘いやすかったんじゃないかな」

「先輩の言う通りですね。それに、由弦って説得すれば何でもやってくれそうな雰囲気がありそうですもんね」


 美優先輩の言ったとおりだったらまだしも、風花の言う通りだったら何とも言えない気持ちになるな。でも、姉さんの方は特に女性の服を着てほしいってお願いされたっけ。

 決していいとは言えない思い出を振り返っていると、すき焼きの美味しそうな匂いがしてきた。だからなのか、姉さんや妹がお肉を美味しそうに食べる姿を思い出す。


「はーい、すき焼きができましたよ」

「うわあっ、美味しそうですね!」

「美味しそうです」

「ごはんをよそってくるから待っててね」


 食卓にすき焼きを置かれたことで、かなりお腹が空いてきた。思えば、今日は実家で朝食を食べてから口にしたのは、麦茶やコーヒーなどの飲み物と、引っ越し屋さんのおじさんがくれたチョコレートくらいだったな。


「はーい、炊きたてのご飯ですよ」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 それぞれの席の前にご飯を置くと、美優先輩は風花の隣の椅子に座る。


「今日、あけぼの荘にお二人が入居されたことを嬉しく思います。これからよろしくお願いします。では、いただきましょう!」

「はい! いただきまーす!」

「いただきます」


 最初だからか、美優先輩が風花と俺の分のすき焼きを取り分けてくれる。さっき、肉が食べられるのかどうかと呟いたからか、俺の皿にたくさん肉を取ってくれた。こういうことをしてもらうと、1歳しか歳が違わないけど、管理人さんらしい大人な雰囲気が凄く感じられる。

 美優先輩が取り分けてくれたすき焼きをさっそく食べてみる。


「とても美味しいです」

「凄く美味しいよね! 由弦!」


 風花、とても満足そうに食べている。ご飯もパクパクと食べていて。食べることが好きなのかな? ただ、すき焼きはご飯がよく進む。


「まさか、引っ越し当日に美味しい料理を食べることができるとは思わなかったよ。しかも、それを作ったのが女子高生の管理人さんで」

「そうだね。今日は本当に予想外のことばかりだ。それにしても、すき焼きが美味しい」

「ふふっ、美味しいって言ってくれて嬉しいよ。2人ともたくさん食べてね」


 美優先輩もすき焼きを食べ始める。美味しいからか、先輩も可愛らしい笑みを浮かべている。


「こうやって、みんなで鍋物を食べるのはいいな。一人暮らしになってからは、こういう料理はあまり食べないから。一人用のスープやタレはスーパーで売っているんだけど、なかなか買う気になれなくて」

「そうなんですね。確かに、鍋物って大勢で箸をつつくイメージがあります」

「でしょう? でも、これから少しは増えるかもね。由弦君もいるから。……由弦君、これからは由弦君のために毎日美味しい料理を作るからね」


 美優先輩は俺のことをじっと見つめ、優しい笑顔でそう言ってくれる。それは料理が好きだからなのか。それとも、管理人としての責任があるのか。


「ありがとうございます。ただ、たまには俺にも料理を作らせてください。実家にいる頃、両親の仕事やパートの関係で、たまに俺が食事を作っていたので。休日には家族のスイーツを作るときもありました」

「そうなんだね。でも、引っ越したばかりで、高校っていう新しい場所での生活も始まるから、それに慣れるまでは私が作るからね。私、お料理は大好きだし」


 そう言う美優先輩の顔を見ると、気持ちがとても温かくなる。ただ、それに溺れてはいけないな。新生活に慣れたら、俺も少しずつ食事を作っていこう。


「へえ、由弦って料理できるんだ。凄いなぁ。あたしはそんなにできないからさ。少しずつできるようになっていかないと」

「それでいいと思うよ、風花ちゃん。私で良ければお料理を教えるし、たまにはこうして3人でご飯を食べようね」

「はい! お隣さんが美優先輩で本当に良かったです。そうなったのも、由弦が部屋を譲ってくれたおかげなんだよね。その……あ、ありがとう」

「どういたしまして」

「……うん」


 風花の顔が見る見るうちに赤くなっていく。お礼を言って恥ずかしくなったのかな。俺と目を合わせようとせず、すき焼きを食べるスピードが速くなって。そんな風花に美優先輩が隣でクスクスと笑っている。

 その後も、3人ですき焼きを美味しく楽しくいただきました。お肉をたくさん食べることができました。ごちそうさまでした。

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