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管理人さんといっしょ。  作者: 桜庭かなめ
特別編6

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202/251

第4話『挨拶回り』

 あけぼの荘に戻ってきたとき、母さんが「今いる方だけでもいいから、他の住人の方にも挨拶したい」と言ってきた。なので、母さんと一緒に挨拶回りをすることに。

 103号室に住む佐竹莉帆(さたけりほ)先輩と、201号室に住む松本杏(まつもとあんず)先輩は不在。佐竹先輩は放課後にバイトのシフトを入れることが多く、松本先輩は女子テニス部に入っている。おそらく、2人はそれらの理由で不在なのだろう。

 202号室に住む深山小梅(みやまこうめ)先輩と、203号室に住む白金和紀(しろがねかずき)先輩は在宅していたので、2人とは挨拶した。2人とも母さんのことを「綺麗なお母さんだ……」と見とれていた。

 あと、深山先輩に対して母さんは、


「お人形さんみたいで可愛いわ! 抱きしめていい?」


 と興奮し、先輩の許可を得た上で抱きしめていた。こりゃ、明日の夕方に帰るまでの間に、伯分寺で出会った女性の大半を抱きしめそうな気がする。母さんならやりそうだ。

 深山先輩を抱きしめた母さんはもちろんのこと、抱きしめられた先輩も、


「この胸の感触……美優ちゃんに似た優しい柔らかさですね。それに、温かくて甘い匂いがして。気持ちいいです。あぁ、受験勉強の疲れが取れる……」


 と満足そうにしていた。胸の感想を言うところが先輩らしい。母さんの胸が気に入ったからか、胸に頭を埋めてスリスリしていて。それがとても可愛らしくて。そんな先輩の頭を母さんは優しく撫で、


「受験勉強してえらいえらい」


 と優しい声色で深山先輩を労いの言葉をかけていた。胸に顔を埋められて母性本能をくすぐられたのだろうか。

 あけぼの荘の挨拶回りが終わったので、俺達は101号室へ戻る。


「ただいま」

「ただいま~」


 鍵を解錠して家の中に入る。

 土間を見ると、今も花柳親子の靴が置かれている。そして、閉まっているリビングの扉の先から楽しそうな話し声が聞こえてきた。美優先輩と花柳親子以外の声や、BGMも聞こえてくるから、おそらくテレビ番組かBlu-rayでも観ているのだろう。


「おかえりなさーい」


 リビングから美優先輩のそんな声が聞こえ、リビングの扉が開いた。先輩はいつもの優しい笑顔を見せて、玄関までやってくる。


「おかえりなさい、由弦君、お母様」

「三者面談、無事に終わりました」

「霧嶋先生と話せて満足だわ」

「そうでしたか。お疲れ様でした。ちなみに、面談はどうでした? 帰ってくるまでに結構な時間が経っていましたけど……」


 美優先輩の表情が少し曇る。面談中に霧嶋先生から何か言われて、時間がかかってしまったと考えているのだろう。


「三者面談は……本題はさらっと終わりました。勉強も部活もよく頑張っていると言われて。あとは雑談でした」

「ゴールデンウィークのことで先生にお礼を言ったの」

「あと、帰るまでに時間がかかったのは、母の希望で他の部屋に住む先輩方の挨拶回りをしていたからだったんです。いたのは深山先輩と白金先輩だけでしたけど」

「そういうことだったんですね」


 三者面談の内容と、帰るのが遅くなった理由が分かったからか、美優先輩はほっと胸を撫で下ろす。そして、ニッコリと可愛らしい笑顔を見せ、


「三者面談お疲れ様でした!」


 と明るく言ってくれた。そのことで再び学校へ行ったことの疲れが取れていく。

 俺と母さんは美優先輩に「ありがとう」と言って、先輩の頭を優しく撫でた。


「ところで、先輩達は何かテレビ番組かBlu-rayを観ているんですか?」

「『みやび様は告られたい』のTVアニメだよ。第1話と第2話を観ていたの」

「あぁ、みやび様ですか」


 『みやび様は告られたい』という作品は大人気のラブコメ漫画で、俺の好きな漫画の一つである。俺も原作漫画を持っており、引っ越しの際にここへ持ってきた。雫姉さんも好きな漫画だ。

 アニメは今年の1月から3月まで放送されており、高校受験が終わるまでは受験勉強の合間の気分転換に見ていた。ここに引っ越してきてからも、美優先輩が録画したBlu-rayで見たことがある。


「瑠衣ちゃんと亜衣さんも好きだからね。香織さんはご存じですか?」

「ええ。家族で一緒に、録画したアニメを見たことあるわ。雫からも原作漫画を貸してもらって、最新巻まで呼んだわ」

「そうだったんですね。では、香織さんと由弦君も一緒に見ませんか?」

「いいわよ!」

「見ましょう」


 俺と母さんは寝室へ行き、俺は制服から私服へ、母さんはワンピースからラフな動きやすい服へと着替える。

 リビングに戻り、5人でみやび様のアニメを第3話から観る。ソファーには母さんと花柳先輩、亜衣さんが座る。俺と美優先輩は食卓の椅子をソファーの後ろに動かして座った。椅子をくっつけて座っているので、美優先輩は俺に身を寄せてくる。

 アニメを観るのはこれで何度目かは分からないが、この作品は本当に面白い。主人公もヒロインも、天才的な頭脳を活用して相手に告白させようと考えるし。2人はもちろんのこと、周りのキャラクター達も個性があって。美優先輩達と一緒に何度も笑う。

 第3話を見終わり、第4話のオープニングが流れているときだった。


「にゃーん」


 と、窓の方から猫の声が聞こえてきた。この可愛らしい鳴き声は……きっと『彼』だろう。美優先輩も声の主が分かったようで、美優先輩と目が合うと小さく頷き合い、椅子からゆっくりと立ち上がる。

 レースのカーテンの向こうには、黒い影がぼんやり見える。俺がカーテンを開けると、そこには黒白のハチ割れ猫・サブロウの姿があった。


「サブちゃんだ。何日ぶりだろう」

「ここ何日かは雨が降る時間が多かったですからね。今は雨が上がっていますから、ここにエサと水をもらいに来たのでしょう」

「きっとそうだろうね。エサと水を用意するから、由弦君はサブちゃんの相手をしてて」

「分かりました」


 窓を少し開けてゆっくりしゃがむと、サブロウは俺の膝のあたりに顔をスリスリさせてくる。俺にひさしぶりに会えて嬉しいのかな。そう思っておこう。

 俺は右手でサブロウの頭を優しく撫でる。それが気持ちいいのか「な~う」とサブロウは可愛い声を出す。


「サブロウは相変わらず可愛いなぁ。いい子だね」

「おっ、サブロウ来たんだね、桐生君」

「この黒白のハチ割れ猫、ひさしぶりに見たよ。今でもこのあけぼの荘に来ているんだ」

「あら、ハチ割れ模様の可愛い猫。東京にもノラ猫っているのね」


 気づけば、母さんに花柳先輩、亜衣さんが俺のすぐ後ろまで来ていた。サブロウが可愛いのかみんないい笑顔を見せていて。あと、猫は人の住めるところなら、世界中どこにでもいると思うよ、母さん。


「美優先輩の話だと、2年前、先輩の伯父夫婦が住んでいた頃に初めて来たらしい。この猫があけぼの荘に来る3匹目のノラ猫だったから、サブロウって名付けたそうだ。美優先輩はサブちゃんって呼んでいるけど。あけぼの荘の住人達や、花柳先輩のような住人の友人達を癒してきたから、あけぼの荘のアイドル的な存在なんだよ」

「そうなのね。猫は本当に癒されるものね。あと、由弦はそのサブロウ君のことを触れるのね。家に来る黒いノラ猫は一度も触れなかったのに」

「そうなんだよ。こいつ、初めて会ったときから俺に触らせてくれてさ。相当人懐っこいんだろうなぁ」

「ふふっ、いい笑顔になっちゃって。サブロウ君に触れるのが本当に嬉しいのね。あけぼの荘のアイドルなら、この子にも挨拶しようかしら」

「それがいいね。あと、こいつは頭と背中を触られるのが好きだよ」

「そうなのね」


 母さんは俺と入れ替わる形で、サブロウの前でしゃがみ込む。


「サブロウ君。初めまして。私、彼の母親の桐生香織っていうの。よろしくね」

「にゃんっ」

「あら~、お返事してくれるなんていい子ねぇ」


 優しい声で言い、母さんはサブロウの頭を撫で始める。

 母さんの撫で方が気持ちいいのか。それとも、母さんの笑顔や匂いがいいのか。撫でられてから数秒ほどすると、サブロウはその場で横になり、ゴロンゴロンと寝転がる。

 寝転がった体勢なので、母さんはサブロウの背中や脇腹をそっと撫でる。リラックスしているのか、サブロウは喉をゴロゴロと鳴らしている。

 何か、母さん……俺が初めて会ったときよりもサブロウと戯れていないか? ちょっとジェラシー。ただ、母さんは俺が一度も触れなかった黒いノラ猫にもよく触っていた。猫に好かれやすい素質があるのかもしれない。


「あら、サブちゃん。お母様にたくさん触ってもらっているんだね」


 気づけば、美優先輩が俺達のすぐ近くに来ていた。先輩はキャットフードと水の入った皿をそれぞれ持っている。


「サブロウ君、とても可愛いわ。癒やされる。ここのアイドルって言われるのも納得ね」

「あけぼの荘の管理人として嬉しいお言葉です。一佳先生もサブちゃんが大好きなんですよ。サブちゃんに会いたくて仕事帰りや休日に来ることもあります」

「へえ、そうなの! 先生がますます可愛く思えてきたわ」

「可愛い先生ですよね。エサと水が用意できたので、サブロウ君にあげますね」

「うん!」


 俺達が少し後ろに下がり、美優先輩はサブロウの前にキャットフードの入った皿と水の入った皿を置く。

 よほどお腹が空いていたのだろうか。皿が置かれた瞬間から、サブロウはキャットフードを食べ始めている。久しぶりに来てくれたので、こうしてエサを食べる姿を見るのも癒しになる。

 食事が終わると、美優先輩と花柳先輩、亜衣さんもサブロウのことを撫でる。3人もまったりとした笑顔になって。サブロウのアイドルぶりを改めて実感した。

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