5話
「君さー主人公向きの性格じゃないわ。やっぱ帰っていいよー」
神の手違いによって神界へと呼び出され、異世界へと向かう予定であったのだが何故かそのまま元の世界へと戻されてしまった濱田 勝悟。だが目覚めた時、力を得ていることに気が付いた。
特殊スキル「爆発的なSMELL」
SMELLとはスメル。つまり臭いの事。これは対象物の匂いを操ることが出来る能力。
薔薇の匂いを消したり、強くしたり、納豆の匂いにしたりと自由自在に操作することが出来た。だから濱田 勝悟の持ち物は全ていい匂いがする。ただそれだけの能力、そう思っていた。
朝、画びょうを踏んづけた前田の足の傷から体の中へと入りこんだ「爆発的なSMELL」は今や体全てを支配していた。
そして最も効果が大きいと考えたこの瞬間に能力を発動した。
濱田 勝悟の目的はチャラロバこと前田だけに限定されたものではない。殉教した聖ウァレンティヌスに対する敬意を欠く全ての男女が正義の鉄槌の対象なのである。
「ゲロレロウェロベロヴェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
島田 結花の口から大量の吐しゃ物が噴出されたのは前田の体からこの世のものとは思えぬほどの悪臭が放たれたからである。
汗の臭い、頭皮の匂い、口の匂い、足の匂い、体内の小便、大便の臭いが5万倍という恐ろしいほど強力に強調された臭いを間近で吸い込んでしまった結果、ナイヤガラの滝をも凌ぐほどの勢いとなった。
「お前!ありえねえだろ!ふざけんなよ!」
「臭!!臭すぎる!臭いなんてレベルじゃなベゲヴェロロロ」
「うわ!なんだよまた吐きやがった!臭いってなにがだよ」
そう。そしてこの臭いは本人にはわからないのだ。だから前田は自分がとんでもない臭いを発しているとは気づいていないのだ。
そして臭いはこの部屋だけにとどまらない。
隣の部屋を侵食し、上の部屋へと昇り、そしてホテル全体をも蝕んでいく。
ガバ!
大粒の涙を流しながら窓を開けた島田。それによって臭いは隣接している他のラブホテルへと流れていく事になった。
「臭ぇえぞ!」
「なんだこの臭い!!」
「ベベァヴォロロロオローーー」
「ベゲロロロロロロ」
辺り一帯から地獄絵図ともいえる光景が見られた。そこにいるすべての人間が異常な臭気によって愛の営みを中断せざるを得なかった。
「何なんだ一体?」
ひとり何もわかっていない前田であったが気が付くと隣に島田の姿は無かった。
「何が起こってるんだ?」
わけがわからず他の客と一緒にホテルを脱出したことで臭いは街へと広がった。その間にも前田の匂いは強烈になっていっていた。
そして警察への通報はパンクするほど大量に寄せられていた
結局前田は異臭騒ぎの元凶として警察から事情聴取を受けることとなった。
前田のバレンタインデーはこうして幕を閉じた。
こうして爛れたバレンタインデーはたったの一部ではあるが防がれることとなった。
私たちは忘れてはいけない。
彼の勇気を
彼の思いを
彼が成し遂げた偉業を
そして広げよう。
正しいバレンタインデーを
喪に服そう
今日は殉教した聖ウァレンティヌスに思いを馳せる日なのだから。




