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手と手を合わす  作者: ねりけし
3/10

意外な反逆者

「ま、足止めできたし初めのナイフ投げにしては上出来か」

男は笑みを浮かべ、その手に持つナイフを柄の部分を中心に回している

俺の頭は疑問で一杯だった

何故俺達を攻撃してくる、さっきのゴミ箱は一体何なのか、そもそもこいつは何者なのか、いつナイフを拾ったのか

だが、その中でも俺が今最も疑問に思っていたことがある

「な・・・なぜだ・・・」

「なぜ、まだナイフを持っている・・・」

俺の脇腹をかすめたものがあのナイフなのだとしたら、今あの男の手には何もない筈、だが何故か今もあいつの手には果物ナイフが握られている

訳が分からなかった

「その様子だと本当になんにも知らないみたいだな」

「あぁ…悔しいがその通りだ・・・」

俺は脇腹の痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる、血はまだ止まらない、立ち上がるのがやっとという感じだ

「そうか、ちょっと心が痛むな」

男は果物ナイフを持ったまま一歩一歩こちらに迫ってくる

足止めは出来た、後は直接自分の手で止めを刺そうという事であろう

「穂山!!お前だけでも・・・!」

せめて穂山だけでも逃がさねば、そう思い俺はそう言いながら彼女の顔を見て何も言えなくなった

さっきまでとは明らかに顔つきが違う

真っすぐ相手を睨み付ける鋭い眼差し、口元はこれからの戦いに備えるかのように固く結ばれている

単純で好奇心旺盛で正義感の強い彼女はそこにいなかった

今俺の隣には何度も戦いを潜り抜けてきた誇り高き女性がいた

「穂山・・・?」

俺はそれ以上何も言えなくなった、言ってはいけない気がした、ただこんな状況なのに彼女から目が離せなくなる

「逃げろ!俺が何とかする!」

男の方から叫ぶ声が聞こえ俺はハッとし、再びそちらを向く

そこには意外な光景が広がっていた

「早くしろ!まだ気持ちが悪いんだ!」

先ほどまで俺の体質の効果で不快感に苦しんでいたひったくり男がナイフを持つ男の腹部に掴みかかり必死に叫んでいたのだ

「は・・・?」

「逃げるよ!」

俺の手首を穂山が掴み通学路に向かって走り出す。

なされるがまま俺は穂山に引っ張られていった、とにかく訳が分からなかった、今日は一生分の疑問が降りかかってきている気がする、そろそろお腹が一杯だ

「ここの近くに大学があるだろ!そこの榊田雄一という教授を訪ねろ!」

ひったくりは俺たちが走り出した後も叫び続けていた。

「警察には連絡するなよ!!俺まで捕まっちまう!!」



穂山と俺は路地裏からある程度離れると、走る速度を緩めていき、最終的には歩きになる

いつの間にか通学路からも外れてしまっていたらしい、俺たちは見覚えのない人の少ない通りにいた

「ぐっ・・・」

走っている時は必死になっていて忘れていた脇腹の傷が再び痛みだし俺は立ち止まってしまう、ある程度出血は収まっているようだがそれでも痛い事には変わりない

「ちょっと見せて」

穂山は俺に有無を言わさず、服をまくり上げ傷口を見る

「安心して、見たところ傷は浅いよ、洗ってみないと正確には分からないけど」

そう呟くと、穂山はしゃがみ込みリュックから水の入ったペットボトル、ガーゼ、大きめの絆創膏などを次々と取り出すと、それらを使い俺の傷口の処置を始める。

「わ、悪い」

俺はその間穂山の顔をじっと見つめていた

さっきまでとは違う、というよりいつも通りの穂山がそこにはいた

あの表情は一体なんだったんだ、今でも穂山があんな表情をすることが信じられていなかった。

「ん?どうかした?」

穂山は俺の視線に気付き、顔を上げる

「いや、別に・・・って言うか普段からそういうの持ち歩いているのか?」

「うん、いざという時のためにね」

「いざという時って・・・普通そんなに持ち歩かないだろ」

「私は持ち歩くの」

穂山は悪戯っぽい笑みを見せると、再び傷の処置に戻る

その表情を見て俺はそれ以上何も言えなくなってしまった

きっと彼女にも何か秘密があるはずだ、だがあの男のように問い詰める気は起らなかった

これ以上訳の分からないことは沢山、今はそういう事にしておきたかった

「そうかもしれないな」

俺はそれだけ呟くとあたりを見渡す、穂山の顔をこれ以上みるとさすがに怪しまれると思った

辺りはさっきまでとは違い平和そのものだった、通りを照らす日光、本当に今日は夕方から雨が降るのか?

「はい、終わったよ」

平和に浸っていると穂山は立ち上がり俺に再び笑みを見せた

「上手いな」

「でしょ?私実はマジシャンなの、これはその応用」

穂山は得気な表情を浮かべる

「なんだよそれ」

お前まで言うのか、冗談としてはそんなに面白くないぞ

「一也も言ってたでしょ?さっき」

だが、そんないつも通り、緊張感とはかけ離れた会話をしていると急に安心感が生まれ、口元が綻んでいくのを抑えることが出来なくなってしまった

俺は思わず穂山に背を向ける、何故か穂山に緩み切った顔は見られたくなかった

「どうした?」

穂山は不思議そうだ

「いや、なんでもない。ところでこれからどうする?」

俺は必死に真剣な顔を作り、再び穂山と向き合う

「そうね・・・」

穂山は人差し指を顎に当てると俺の体をじろじろと見てきた

「なんだよ?」

「とりあえずその服何とかしない?」

「ん?」

ふと視線を降ろし、脇腹のあたりを見る

服はぱっくりと裂けていて、周辺に血が滲んでいた

なんというか…

「これはヤバいな、誤解を生む」

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