知的障害であって精神障害ではない
「わらわの名前はサージという。ペルルメントの森の赤の部族の族長をしておった」
「あー、よくわかんねーんだけど」
ご主人様がぽりぽりと頭をかきながら言う。
そりゃそうだろう。
エルフは対外的にはほとんど姿をあらわさない引きこもり部族だ。
ペルルメントの森というのも、彼らが勝手に名づけた場所で、どことも知らない。
赤の部族とかいうのも、じゃあ白の部族はあるのかとか、そういう想像は働くが、そんなことをわざわざ聞くのも面倒な話だし、ご主人様も興味がないところなのだろう。
そんなことより!
エルフの名前。
知ってしまった……。
サージという名前らしい。
べつにそれはいいのだが、ご主人様の腕に手をまわすな。
本当にもう。
「なんじゃ。娘っこ。嫉妬しておるのか」
「してません!」
「しておるではないか。こんなにもわかりやすい反応ないぞ」
「それはあなたの感想ですよね」
「そうじゃ。他人の心なんぞ見えもせんのだ。感想を述べるしかあるまい」
「開き直り!」
「開き直りとは、また心外なことを申すのう。そもそもおまえもわらわと同じく、主様にとっての奴隷にすぎぬではないか。それとも何か、貴様のほうが奴隷としての経歴が長いから、先輩風をふかしたいとか、そういうことかの」
「違うって言ってるでしょう!」
まったく。
そういうことではない。
わたしはべつに嫉妬をしているわけではないのだ。
ちょっと回復されたくらいで簡単にご主人様に惚れるというその心根が気に入らないのである。
どこかの白痴とまったく変わらないではないか。
☆
「よるなったー」
よるなったよ。
ごしゅじんさま。きょうはえっちするのかな?
えるふいるし、しないのかな。
たきびがパチパチ。
ごしゅじんさますわってる。
わたしもすわってる。
えるふもすわってる。
えるふはごしゅじんさまのちかく。
「とるなー」
「ん? なんじゃおぬし」
「とるなよー。わたしのー」
「なにをじゃ?」
「もういい」
どうしよう。
わたしばかだから、ことばがうまくつたわらない。
「のう。お主」
「なにー?」
えるふからはなしかけられた。
なまえなんていうんだったっけ。
「なんか様子が変じゃがどうかしたのかの」
「ああ、こいつ、普段はこんな感じなんだよ。オレがいつも回復させないとIQっていって、頭の良さが低いままなんだ」
「ふうむ。つまり、こやつは白痴だったのか」
「そういう言い方はあまり好きじゃないけどな。キャラだろ」
「それこそ、そういう言い方でごまかすのはよくないと思うがのう。白痴は白痴。バカはバカじゃ」
なんかひどいこといわれてるきがするー。
すこし、くうき、わるいね。
ごしゅじんさまおこってる?
「なあ。サージ」
「なんじゃ。主様」
「エルフってのがどういう種族なのかわからないけど、森から追い出されたりするやつもいるのか」
「もちろんいるぞ」
「どういうやつだ」
「たとえば、犯罪者とかかのう」
「白痴と呼ばれる者たちはどうだ」
「エルフは慈悲深い種族なのじゃ。白痴だからといって見捨てはせぬ」
「そうか。でもよ。白痴といってもいろいろあるよな。こいつの場合は、知的障害者。知力が低くて物事を論理的に考える能力や記憶能力が人よりもちょっと劣ってる」
「そうじゃの」
「だけど、もともとオレの世界で家を追い出されるのは、知的障害者じゃないんだよ。精神障害者なんだ。ホームレスの六割くらいは精神障害者だといわれている。むしろ、知的障害者は愛される傾向にあるんだよな。必死なところがフツーの人にとってはかわいらしく見えるらしい」
「なにが違うというんじゃ」
「知的障害者は知的能力に欠ける。精神障害者は心自体が壊れているという違いがある」
「ふうむ。つまり精神障害は気狂いのたぐいで、他者を傷つけたりすることもあるということじゃな。クリアはそういうことはせぬ。つまり、気が狂ってるわけではないといいたいのじゃな」
「まあ、本当は包摂関係なんだけどな。知的障害も精神障害の一種といわれているし、脳が壊れているということは、心が壊れているといってもいいと思う。だけどな……」
ごしゅじんさま、こっちみたー?
「オレはこいつのことが気に入ってるんだ。だから、こいつのことを白痴と呼ばないでくれ」
「わかった」
えるふはたちあがって、こっちにきた。
「そういうことじゃ」
「どゆことー?」
「主様にしかられてしまったからのう。おぬしのことを白痴と評したのはまちがいじゃった。あいすまぬ」
「ふうん」
「ふうんとはなんじゃ。ゆるしてくれとは言わぬが、もう少しはっきりせぬか」
「いいよー」
「よいのか。おぬしは度量が大きいのう」
「まーね」
わたしのおっぱいはおおきくないけど。
でも、それがいいって。
ごしゅじんさまはいってくれる。
どりょーっていうのがなんなのかよくわからなかったけど、
おおきければいいってもんじゃないとおもう。
わたし、さえてるな。