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チートなヒールで回復ポ

白痴という言葉は差別用語として登録されていますが、シオドア・スタージョンの小説でも使われていますし、ここでは、この差別的用語がやっぱり必要だと思う。

昔どこかで書いた惹句。

この作品はあなたさまを不快にさせる恐れがありますが、言葉の多義性から誰にでも不快さを与える蓋然性はある以上、あえてそのことを告げる必要はない。

的な?

「おまえというやつは本当にさぁ……、クリアとかいう綺麗な名前してるのに、頭はぜんぜんっ! クリアじゃないんだな!」

「あひぇ? ごしゅじんさまぁ。ことば、ながいとわからないよー」


 わたしうまれたときから、あんま、あたまよくなかったよ。

 みんな、おまえはバカだっていってた。

 だから、わたしはドレーになるんだって。

 どれい? どれどれ?

 わからぬねー。

 そんで、ごしゅじんさま、わたし買ったの。

 まえに。

 どんだけまえだっけ?

 わすれた。

 たぶん、そんなにまえじゃないまえ。

 あー、でてこない。

 なー?

 わたし、あたまわるいから、きょうも、おせんたくしたら、どろだらけになっちゃって、きれいきれいするのがおせんたくなのに、ぜんぜんきれいにならなくて、ごめんなさい。


「おまえほんと見た目だけだよな。華奢で真っ白い肌しててクセのない黒髪ロングのすっげぇ好みの見た目でも、涎だらだら流しながらのアホ面見てたら萎えるっつーの。オレがチート持ってなかったら買ってねぇぞ」

「ちぃと?」

「ああ。このクソ世界の大神官でもつかえねぇような、おまえみたいなバカでもいっぺんに治す魔法だよ」

「ごしゅじんさま。なーがーいー」

「ああ、もういい。ほら、頭だせ」

「ん」


 ご主人様になでられて、なんだかすっごくぽかぽかして、それから手のひらがパァっと光って、わたしの意識は急速にクリアになる。

 そして、わたしはわたしの意識がどれだけ白痴めいたものだったのか、その行動がいかに動物よりも劣るものだったのかを悟り、羞恥に押しつぶされそうになった。

 わたしの平均的所作は幼児のそれにすら劣るもので、論理的な思考能力は皆無に近かった。

 当然、生活自立度も最低に近い。


 わたしはすぐさま土下座した。


「申し訳ございませんでした! ご主人様! お召し物はすぐに洗濯しなおしてまいります」

「ああ。さっさとしろよ」


 わたしは泥だらけになったご主人様のお召し物を手に取り、再び川に向かった。


 川でゴシゴシ洗濯をしながら、わたしはここ数日間のことを思い出す。

 いつもならすぐに蒸発してしまう記憶も、今なら鮮明に思い出せる。

 

 ご主人様がいうには、わたしは


――知的障害者


 というらしい。


 IQとよばれるステータスが一般的には100くらいあるのに対して、わたしは84程度しかないとのこと。


 わたしの頭の中、とりわけ脳と呼ばれる器官が器質的に壊れている。

 ご主人様のグレイト・ヒールは、その器質的欠損を瞬間的に治す程度の能力を持っているが、万能ではなかった。通常、ヒールという魔法が傷を治す原理は、肉体の自然回復能力を最大化することによるらしい。

 しかし、人間は手や足が欠損した場合に、いくら時間が経とうとも回復することはない。

 したがって、ご主人様の回復魔法は通常のものとは原理からして異なる。


 だが、やっぱりヒールはヒール、似ているところもある。


 元に戻すという性質だ。


 頭がはっきりしているときに聞いたのだが――、


 ご主人様の魔法が傷を治す原理は、魂に働きかけるらしい。

 魂が覚えている限りにおいて『元』へと戻す。

 それが、グレイト・ヒールの作用だ。

 しかし、わたしは生まれたときから、脳に欠陥があった。

 この欠陥を魂も覚えていて、生まれる前の脳に欠陥がなかった頃まで巻き戻しても、成長による脳の崩壊もまたセットになってしまっている。

 つまり、わたしは一日一回、ご主人様に回復してもらわなければ白痴へと戻ってしまうのだった。


 いやだった。


 砂粒が手のひらからこぼれていくような気持ち。

 いらだち。

 間断のない、まだら模様をした不安。

 わたしの胸の中にいくつものネガティブな感情が去来する。

 そんな負の感情すら、白痴というヴェールに包まれて、なにも見えなくなってしまう。


 生まれてきて、初めて、光が投げかけられて、わたしはわたしであることができた。

 こんなにも世界は鮮やかで、こんなにも言葉によって切り分けることができて、幸せを定義したり、自由を定義したり、概念をもてあそび、戯れ、楽しむことができるのは、すべて知性のなせる業だった。


 ご主人様はぶっきらぼうで、わたしのことを馬鹿だアホだというけれども、殴られたこともないし、見た目は好きだって言ってくれるし、だから、わたしはご主人様は悪人ではないと思う。


 依存している?


 そうかもしれない。

 けれど、依存しているというその言葉すら、ご主人様によって与えられたものだ。

 だから、わたしは――。

 ご主人様に捨てられることを想像して怖くなる。


「さあっ。おせんたくおしまい。綺麗になりましたよ!」


 わざと明るい声を出して、不安を追い出そうとする。


 わたしは見当識を有している。

 見当識とは、今どこにいて、わたしは誰であり、そしてどのような状況下にあるか判断できるということだ。

 わたしとご主人様は、街を出てひたすら西へ向かっている。

 この先にあるのは王都だ。

 したがって、王都に向かっているのだろう。

 目的は特にない旅だと聞いている。だから急ぎでもない。

 馬車が二台通れるくらいの細い街道からわずかにそれた所にキャンプし、一夜明かすつもりのようだ。

 テントを張るのは体力のないわたしでも手伝える。

 ご主人様はチートと呼ばれる規格外の力をお持ちのようで、手刀で太い木を薪のかたちに切断していた。

 それから――。


「ここをキャンプ地とする!」


 と、明朗になったわたしの頭でもまったく理解できないことを言うご主人様。

 すると、あたりが清浄な空気に包まれるのを感じた。


 おそらく規格外の力で、規格外の結界を張られたのだと思う。

 それからわたしのほうを気遣わしげに見てくる。


「クリア。おまえ、トイレ大丈夫か?」

「ふぇ」

「臭いこもるの嫌だしトイレは結界の外だ。起きたらお前はバカに戻ってるんだから、先に済ませとけよ」

「あ、はい」

「いまは周りにモンスターいないから安全面は問題ない。ちいさいのもでかいのも済ませとけよ」

「……はい」


 デリカシーのないご主人様である。

 でも、それは照れ隠しもあったのかもしれない。

 わたしは、脳の欠損さえなければ、それなりに頭がよかったらしく、ご主人様が何をおっしゃりたいのか、すぐに理解できた。

 つまるところ、ここは川の近くであり、身奇麗にできるということ。

 そして、わたしはご主人様の好みの見た目をしているということだ。

 おなかのあたりがうずくのを感じた。

 白痴のときは覚えていなかったが、いまのわたしはご主人様に何回愛してもらったか、つぶさに思い出すことができる。

 きっと、わたしは今日もめちゃくちゃに愛されちゃうのだろう。

 白痴めいた狂乱を思いいたせば、子宮のあたりがきゅっと縮まるのを感じる。


 けれど脳だ。NOという意味ではなく。


 わたしは――

 おそらく女というよりも障害者という属性が強いから、一般的な女性のように子宮でモノを考えたりしない。

 そもそも他の女が子宮で考えるとか、それこそ訳の分からない言説に過ぎないのだが、一般的に肌の感覚で判断する傾向はあるだろうと思う。

 わたしもその感覚は否定しない。

 しかし、それ以上に、脳こそがわたしの幸福を規定した。

 普段、わたしの脳みそは壊滅的でまったく働いていないから、余計にそう思うのだろう。

 黄金に光り輝く脳みそから幸福という蜜があふれ出すのを感じる。

 わたしは脳であり、脳こそわたしだった。


「ご主人様。綺麗にしてきました。朝みたいに泥だらけじゃないですよ。衛生的にもばっちりです。ご主人様ってなにげに綺麗好きですもんね。ばい菌でしたっけ? ちいさな見えない虫がたくさん世界には溢れていて、だから綺麗にしなくちゃいけないんでしたよね」

「よく覚えてるなそんなことまで」

「ご主人様の言葉はなんでも覚えておきたいんです」

「なんでもね。じゃあ、このあとどう言えばいいかはわかるか?」

「わたしの身体、ご主人様の好きに使ってください」

「おまえ本当バカだよな……」

「え、なんでです。いまのわたしは結構頭いい状態だと思うんですけど」

「女はバカのほうがかわいいって言うだろ」

「ご主人様はわたしが白痴のほうが好きなんですか?」

「そういう意味じゃない」

 

 どういう意味なのだろう。

 わたしは訳がわからず混乱する。

 きっと、グレイト・ヒールの効果が切れてきたせいに違いない。


 ★


 あさなったよ。

 あー、すんごいきもちよかったー。

 ごしゅじんさまとえっちできて、わたしはしあわせです。

 でも、うまくことばがでてこないんだぁ。

 ちょっとかなしい。


「おい。クリア」

「あい?」

「おまえどこ行こうとしているんだ」

「といれー」

「あほ。おまえ、トイレは結界の外でしろっつーただろ」

「そだっけ?」

「そうだよ。ほら、ちょっとおまえこっちこい」

「もれるー」

「テントにもらしたら怒るぞ!」

「おこる、やーよ」


 ごしゅじんさまにポンッとあたまをなでられて、わたしは、一瞬でそれなりな知能に戻る。

 羞恥や不安やその他もろもろを感じ取れる程度には頭がよくなる。

 なんというはしたない女なのだろう。

 ご主人様に回復してもらわなければ、わたしは羞恥の欠片もないのだ。

 いまは半裸に近い格好をしていて、それを気にもとめてなかった。


「お手洗いに行ってまいります」

「おう。ここは"キャンプ地"だ。周りは安全にしたぞ」


 ご主人様の魔法は、この世界の魔法とは少し法則が異なるようである。

ノープロットでGO。

リハビリ的に書かないと、いろいろと忘れるわ……。小説の書き方ってやつを。

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