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87 十六歳JKコンビニ店長、面接官になる⑨

「アリ様、質問はもう大丈夫かしらね?問題なければ私は失礼させて頂きますけれど……」

デュッセニー時給が日本の三倍という事実に愕然としていると、情報源のゴルテーシャさんが、ぐいっと近づいて私の顔を覗き込んでいた。

いけない、いけない。コンビニバイトの時給の低さと異世界での人件費のやりくりに悩むのは後回しだ。

「あっはい、すみません!もう大丈夫です!!今日は遅くまでありがとうございました!!」

衝動でガバッと立ち上がりそうになって、彼女と正面衝突しそうになり慌てて姿勢を戻し、座礼だけで感謝を伝えた。


テロリロテロリロ

「ありがとうございました、またお越しくださいませー!」

レジ接客はしていないのでこの挨拶は正確には合っていないのかもしれないけれど、これが一番しっくりくるからまぁいいか。

「……さて、九時前か。」

売場の壁時計をチラ見しながらユニフォームの袖を捲りやる気を充填させる。

今日はなんだかすんなりと業務が進んでいるので、洗い物が残り半分と諸々の納品と品出しでほぼ終わりだ。

「隔日洗いのフライヤーの油交換がないし、今日は週に二度の冷凍便休みの日だからかな?」


休みと言えば、デュッセニーに来てからというもの、新聞や雑誌便はまったくさっぱり来ないのは、どういうことなんだろうね?ほぼ毎日来てたのに。

「せめて新聞だけでも来てくれたら、日本事情が分かるのに…なんとか来てくれないかなぁ、私の為に。」

以前はネットニュース派で新聞なんてまったく読まず、陳列時に一面をチラ見しているだけだったのに、なんてワガママなんでしょう。

「さて、とりあえず納品来てるかなー?」

レジから脱出して、事務所裏口のドアから外を窺いに行く。閉店後だと、約一名を除き来客に構えてなくていいから楽だね。一人言も喋り放題ですよ。


ガチャっとドアを開けようとした時。

テロリロテロリロ

「え?あれ?」

なんか入店音が鳴った。もしかしてベル君、今夜は早く来たのかな?

軽く躓きながら急いで売場に出てみる。すると。

「アリ様、大変申し訳ございませんでしたっ!!」

「え?リーリャさん?」

売場どころかその手前のレジ中に出た瞬間に、予想外の人物が自動ドアの前で土下座している場面に出くわしてしまいました。え、なにこれ?



「…落ち着きましたか、リーリャさん。」

「……はい……本当に、すみません……」

お手本みたいに美しく微動だにしない土下座をキメるリーリャさん。彼女を半ば強引に引っ張るようにしてなんとかイートインの椅子に座らせ、かなり強引に押し付けるようにして好物のココアを奢り、ようやく落ち着かせることができた。

「それで、あれは一体何の謝罪だったんですか?心当たりがまったくないんですけど……」

ズルズルと会話を引っ張ってると、リーリャさんは謝罪マシーンになってしまい会話が続かないことが、この数分で嫌というほど分かったので、さっさと会話を進めることにする。


「あの……本日の面接の件です……本来なら、本日の六人目の面接者は私だったのですが……あろうことかこんなにも大遅刻をしてしまい……アリ様の貴重なお時間を頂くというのに、なんという失態か……誠に謝罪の言葉もありません……」

「あー、遅刻者ってリーリャさんのことだったんですね…でも、何か仕方ない理由があるんでしょう?謝罪はもう充分ですから、よければ教えてくれますか?」

まだ一月にも満たない付き合いだけど、それでもストイックな彼女の性格は理解しているつもりだ。


「それが……一から話すと長いのですが……元々、私は応募者に入ってもいなかったのです。本日、本来来訪する予定だった応募者は、もっと年配の主婦だったのですが、彼女の諸事情で急遽キャンセルとなりまして……」

「ああ、なるほど……」

リーリャさんは緊急代理だったという訳か。道理で。

「若いリーリャさんが三日目って、なんか違和感あったんですよね。年齢順に面接に来てるっぽかったのにって。私のただの予想でしたけど。」

「…さすがアリ様。その通りです!聡明ですね!!」

「いやぁ、それほどでも……」

正直、見てれば大体推測できたので、そんなに誉められることでもないですよ。


「それで、急遽リーリャさんが代役に決まったから、今日遅れちゃったってことですね?それならそんなに謝罪する必要は……」

そもそも代役すら必要なかったとは思う。候補者が一人減っても、それは仕方ないんだし。

「いえ、私に決まった……というか自ら志願したのは昨日のことなんですが……その……アンジェが……」

「え?アンジェちゃんがどうかしたんですか?」

そういえば今日昼間の営業中には来てなかったな。

オープン前から毎日来てくれていたリーリャさん・アンジェちゃん姉妹が、初めて来店してなかった。


「アンジェが……自分もここで働く、なんなら自分がここの主になると言って聞かずに……アンジェを説教したり叱ったり、今日も後をついてこようとするアンジェを撒いて、《セグナシェス》を使わずに徒歩で向かってたら、こんな時間に……申し訳ありません!」

「なるほど……」

思った以上にショボい理由と壮絶なバトルが、遅刻の原因だったらしい。

「アンジェちゃんを撒いたって大丈夫ですよね?深夜の森の何処かで迷子になってるとかないですよね?」


「大丈夫でしょう。たしかに最後は森の中で撒きましたが、里の近くですし自力で帰れるはずです。アンジェの《ベーゼン》は隠しておいたので、《セグナシェス》も使わず一人でここまで辿り着けるはずもありません。」

ええとたしか、《ベーゼン》が彼女たちが初日に持ってた箒で、人探し用。《セグナシェス》が私の人体実験で完成した少人数転送装置の不気味な手だっけ。

ユニフォームのポケットに入れていた一枚の魔術具メモリストをこっそり確認した。

固有名刺だけじゃさっぱり覚えられていない。

「しかしそれは……大丈夫なんでしょうか……?」

まぁ私が心配してても、できることは何もない。

「それよりアリ様、早く面接とやらを始めましょう!!宜しくお願いします!」

私にできることがあるとすれば、面接をスマートに終わらせて、リーリャさん(保護者さん)を早く帰らせてあげることくらいだろう。



「……という訳で、私が応募したのは、アリ様の為でもあるのです!!たったお一人でお店を守る健気なアリ様の助けになりたくて!!アリ様にはもっとご自分を大切にして頂きたいのです!!その為なら、私は何でもしましょう!!」

それから幾ばくか過ぎ、私の面接質問リストが八割方終了した。リーリャさんはどんな質問にもハキハキ答えてくれるし、敬語も笑顔も問題ないし、思いやりも優しさもある。なにより、私が一番よく会っている方なので、気心知れていて気楽に接しやすい。

採用最有力候補と言ってもいいかもしれない。なんて思っていた時だった。

テロリロテロリロ

「ねーさま!おいてくなんてヒドいのです!!」

「え?アンジェちゃん?」

「なっ!アンジェ!どうやって!!」


アンジェちゃんが、入店音と共にダッシュでイートインに入ってきた。よほど急いで来たのか、三つ編みにした髪はボサボサだしスカートの裾には葉っぱやら土やらが付いている。

「ちょーろーさまに《セグナシェス》で送ってもらったのです!ねーさま、あたしもここではたらくって言ったのに、ぜんぶむしして!!《ベーゼン》もかくして!!だからねーさまのいばしょさがせなくて…ここのばしょもおぼえてなくて……一人でまよって……」

勢いのよかった台詞はだんだんと尻すぼみになり、最後にはぐすぐすと涙混じりになっていた。

「アンジェちゃん……」

森で迷子になる恐怖心は私もよく知っている。異世界転移初日に散々味わったからね。

しかも私と違い、もう深夜時給を迎えそうな時間帯だ。よっぽど怖いはずだ。


「アンジェ……悪かった。お前のことだからと過信しすぎていた……悪かった、許してくれ。」

イートインの床に膝をつき、本格的に泣き出しちゃったアンジェちゃんの涙をそっと拭い、ぎゅっと抱き締めたリーリャさん。

「ねーさま……うわああああんっっ!!」

それで安心したのか、アンジェちゃんは更に声を上げて泣いてしまった。

「アンジェ……もう平気だ。私が傍にいるからな。」

リーリャさんはアンジェちゃんの頭をそっと優しく撫でる。

その姿を見て、私は決意した。


「ぐす……ぐす…」

二人がかり……といってもほぼリーリャさんのワンオペであやし続け、ようやくアンジェちゃんが泣き止んだ頃合いを見計らって、私は口を開いた。

「リーリャさん、こんな時にすみません。先ほどの話なんですけど……」

泣き疲れてうとうとしているアンジェちゃんを膝に座らせ、その頭を優しく撫で続けてるリーリャさんが、小首を傾げながら反応してくれた。

「はい、面接の件ですか?すみません、アンジェが話の腰を折ってしまいまして。まだ質問がございますか?」

私はチラリとアンジェちゃんの様子を窺う。うとうとがこくりこくりになっているし、この様子なら聞かれちゃうこともないかな?



「非常に心苦しいんですが、リーリャさんは不採用とさせて頂きます。…すみません、合否は全員の面接が終わってからと言ってたんですが、特例で……」

面接官としては毅然とした態度でいなきゃいけないのに、どうしても彼女の顔を見れずに俯いてしまう。

「……そうですか……やはり私などでは、アリ様のお力になるなど高望みでしたかね……」

「いやっ、違います!リーリャさんが悪いとか、そんな話じゃなくてっ!!……その……何と言うか…」

「アリ様、よければ理由をお聞かせ願えますか?……もちろん、無理にとは言いませんが……」

リーリャさんのその悲しそうな声を聞いて、私の覚悟も決まった。不採用の理由なんて言いにくいもの、隠しておこうかとも思ったけれど、彼女にちゃんと向き合って伝えなきゃいけない。


私は顔をしっかり上げて、リーリャさんと目を合わせる。彼女も真剣な顔で見つめ返してくれていた。

「リーリャさんは私の力になりたいって仰ってくれましたけど、それは駄目だと思ったからです。リーリャさんが一番大切にしなきゃいけないのは、私なんかじゃなくて、アンジェちゃんです。……当店で働くよりも、アンジェちゃんと一緒の時間を作ってあげてください。それで、二人で仲良くお客様としていらして欲しい…です。……すみません、私のワガママで。」

上手く気持ちを言葉に出来ず、せっかく覚悟を決めたのにモゴモゴと言い訳がましい内容になってしまった。面接官の威厳の欠片もない。


しかし、リーリャさんはこんな未熟な釈明でも納得してくれたようだった。

「……アリ様……なんという優しさ……!」

「ええっ?!なんで泣いてるんですか、リーリャさん!」

泣き疲れ眠ってしまった幼女を膝に乗せたまま、今度はリーリャさんが号泣してしまった。

お察しの通り、リーリャ・アンジェ姉妹がお気に入りの作者です。

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