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72 追憶の答え合わせ。

「この異世界転移が全部早寺さんのせいって……なんでですか?どうして、どうやって、なんでこんなことを?!!」

「はいはい、みっともないから落ち着きなさい。質問内容が被ってますし。5W1H、学校で習いましたよね?それくらいの知識はありますよね?」

「ああもう、知ってますよそんなこと!それより、全部教えてください、早寺さんの知ってること全部!!」

「おー、まるで取り調べみたいですよ、怖い怖い。……まぁいいでしょう。多少話してあげますよ。」

そうして、早寺さんの回想語りが始まった。

これは真面目に聞かねばと、だらしなく背もたれに預けていた体をピンと起こす。ついでにちゃんとメモを取ろうとノートに手を伸ばす。ああ、遠い…けど立ち上がりたくはない……

この長電話はまだまだ終わらない。



ここ数十年間、店舗数を増やし商品数を増やし売上を増やし、他チェーンと競合したり時に統合したりと、着々と躍進してきたコンビニ業界は、しかしここ数年で低迷の道を辿っていた。

「もうこの日本の地に店舗数を増やすことはできない。むやみやたらと増やしたところで、各店舗で売上と客を奪い合い、いずれコンビニ業界そのものの衰退に繋がる恐れがあった……そんな折に斬新な計画がもたらされたのです。」

「もしかしてその計画って……?」

「ええ、そうです。貴女の現状、コンビニ異世界進出計画のことですよ。」


そもそも、この計画案は早寺さんや営業所やコンビニ本部が考えたものではないらしい。

「悔しいことに我々は、現在展開している店舗や人材の管理等でいっぱいいっぱいでしたからね。店舗数や客数の増加に反比例して、フランチャイズのオーナーやアルバイトはどんどん不足していき、まさに猫の手も借りたい状況です。ノウハウもない新策を一から構築している暇などありません。」

そうか、人手不足故のブラック経営は当店だけじゃなかったんだな……


「しかし回す手がないとは言え、コンビニ業界を取り巻く現状を放置していく訳にもいかない。今後の発展と売上増加の為にも、新しい風を吹かせる必要がある……そんな時でしたよ、とある方からこの計画案を頂いたのは。」

「それって一体……?」

営業所まで巻き込んだ大がかりな計画を考えた人……本部のお偉いさんとかかな?まったく、なんてはた迷惑なんだろうか。


「旧カインマート鈴浦店オーナー…貴女のお父上ですよ。」

「………は?」

ナニヲ、イッテルンダ、コノヒトハ。

ビシッと伸ばしていた自らの背筋が力を失ったを感じた。



「旧鈴浦店、つまり日本での貴女たちの店は、比較的田舎の当営業所の中でも、ダントツで日間売上が悪いお荷物フランチャイズでした。インターチェンジ近くの県道沿いという好立地にあるにも関わらず新規客を掴めず、僅かな常連客だけで僅かに売上を立てるだけ。そして売上が立たなければ仕入れ費も人件費も払えない。正直いつ閉店してもおかしくない状態でした。」

たしかに、ここ数年はそんな感じだった。当時私はまだ中学生で、放課後や休日にちょっとレジを手伝うくらいしかしていなかったけど、あの頃の惨状は覚えている。

オープンして約十五年が経ち設備は古くなってきてたし、昔はまともに店がなかった周辺環境も変わっていき、昔は通ってくれていたお客様も他店に流れていき、そこそこいたバイトさん達も一人、また一人と辞めていった。

気づけば家族だけで切り盛りせざるを得なくなり、オーナーだった父さんは店に住み込んでシフトを埋めていた。


「ある週の訪問会議で、担当になったばかりの俺に、突然貴女のお父さんが企画書を渡してきたんです。ノートに荒々しく書きなぐった字、よく覚えてますよ。勤務中に書いてたんでしょうかね。」

「あ……」

レジカウンターに立ちながらノートを埋める……私も弟の隆二もよくやっていた、馴染みある行為だ。父さんも同じことをやっていたのだろうか。


「そのノートこそが異世界支店の計画書でした。そこには色々書いてありましたよ。異世界でコンビニ営業をするメリット、貴女が今いる異世界(デュッセニー)について、店ごと転移する方法、店内諸々の設備の運用法……正直現実味もなく、まるで陳腐なネット小説を読んでいるかのようでしたね。」

「じゃあよくそんな物を真に受けましたね…」

「まさか!二ヶ月くらいは放置してましたね、バカらしかったんで。」

そりゃそうだ。今リアルに異世界転移してしまっている私から見てもバカバカしいもん。

「でも、毎週毎週店に行く度に新しい企画書渡されんですよ?ちょっとは相手してあげないと可哀想でしょう?そんだけの軽い気持ちでノッてあげてたら、あれよあれよと言う間に実現までこぎ着けてましたねぇ。いやぁ、意外と策士でしたね、彼。俺ほどじゃないだろうけど。」


実際のところ、日本国内においてのこれ以上のコンビニ業界の発展は見込めそうになかった。

そこへ提案された、異世界進出計画。営業所どころか本部の企画部まで意外と乗り気だったそうで、数ヵ月もしない内に計画は実現間近まで進んでいたのだ。

「いやぁ、ラッキーでしたよ。現実逃避的な妄想をおだてていたら、いつの間にかよく分からないテクニカル面は勝手に向こうが全部準備してくれてて、俺は何もしないで評価爆上がりでしたし。タナボタですね。」


「え?じゃあ実のところ、技術的なあれやこれやは早寺さんも理解していないんですか?」

「なんだかその言い方、トゲがありますね…俺がこうしてお情けで説明してあげているのに。」

「ああはい、それは感謝してますから。……で?」

我ながらこの人の扱いにも慣れてきたもんだ。めんどくさい毒舌も、今では電話のコードを指でくるくる回しながら超適当に流せるようになったよ。

「……まぁいいでしょう。仰る通り、俺は専門的な事はよく知りません。その辺の技術的な要素は全部鈴浦さんの担当でしたし。余計な事まで首突っ込んで、俺の仕事増やしたくないですし。」

全て万能な俺のおかげです、みたいな態度してたのに、そっか、実は早寺さんも具体的な技術面は知らないのか、なんだそっか……


「一体父さんは、どこでどうやって異世界転移なんて技術を身につけたんでしょう…?まさか、コンビニのマニュアルに載ってたりしませんよね?」

「そんな訳ないでしょう?……ああそういや、なんか以前、『身近に頼れる原作者と技術者がいる、その人達のおかげだ』とか言ってましたね。詳しくは聞いてませんけど。」

頼れる原作者と技術者?誰だろう?

父さんの知り合いなんて、この狭い店(カインマート鈴浦店)の中にしかいないと思ってたんだけどな…?



「弱ったのは、計画実行間近で鈴浦さんが夜逃げしたことですね。おかげで俺の仕事が増えて、構築されたシステムの実行やら貴女のサポートやらを全部俺がやる羽目になった。まったく、いい迷惑ですよ。」

「じゃあやっぱり早寺さんも、父さんが今何処にいるか知らないんですね……」

半年前に、店も家族も全部放り出して失踪してしまった父さん。おかげで私たちは三人だけの超ブラック経営で店を守っていく他なかったのだ。

「ほんと、何処にいるんだろう……」

机に突っ伏せ、知らぬ間に火照っていた額と左頬をひんやりとした机に押し当てた。溢れてしまいそうな、ネガティブな感情を封じ込めるかのように。


「当初の予定では、電話もネットも発注やら何やらのコンビニ設備も、諸々が予め異世界と通じていたはずなんです。それを全部中途半端にされたから、俺がこうして夜中まで頑張る羽目になったんですよ。仕事放棄するなんて、経営者として失格ですね。」

「……あの!その辺のことは分かりましたから、他にも聞いていいですか?テクニカル面は知らないって言ってましたけど、私が日本に帰る方法とか知りませんか?計画に含まれてませんでしたか??」


受話器を力強く握りしめ、もう一度姿勢を正しながら、半ば強引に話題を変えた。

いくら事実だとしても、これ以上父さんの悪口を聞いていたくなかった。たしかに、勝手に夢見がちな異世界転移計画を立てて暴走して、挙げ句勝手にいなくなって迷惑ばっか掛けている人だけれど、それでも大切な家族なんだ。

「え?あー……それはですねぇ……」

過去の話をいつまでも振り返っていても仕方ない。聞きたかった色々な疑問点は解消されてきたし、今重視すべきは未来だ、未来!

諸々引きずっていた謎が解き明かされる重要なシーンなのですが、『こんなに長電話してて電話代ヤバそう……』というどうでもいい心配が、どうしても拭えません。

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