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46 君の名は。

コンビニ店員さんは、意外とお客様の情報を色々と覚えているものだ。来店される時間、いつも買う物、宅急便等のサービスをよく使うか否か、他にも煙草や珈琲や新聞とかのいつもレジで頼まれる物などなど……

一人数分にも満たないレジ接客の中だけでも、実に様々な情報が眠っている。


よくお話して下さる愛想の良い常連様だと、更に多くの情報を知り得ることが出来る。お名前や職業は勿論、家族構成や日課、趣味や休日の予定等もだ。

まるでお友達かってくらい親しくなれるのだ。


まぁ、そこまでコンビニ店員とお喋り出来るのは、暇な店だけかもしれないけれど。もしくは田舎すぎてご近所ネットワークが極端に狭いお店とかね。

残念ながら当店はそのどちらにも当てはまってしまっている。日本の故郷でも、ここデュッセニーでも。



「広く浅くのお客様を呼べないのなら、狭く深くお客様と仲良くなるしかないよね!!てことで、君のお名前は?」

「は?広く狭く?なんでそんなの教えなきゃいけないんだ?必要ないだろ。」

「必要だよ!ディープな常連様ネットワークを築くには、お名前は最優先事項だよ!!それとも名前言うの嫌なの?!」

「嫌とかじゃ……てか、その最優先をほったらかしてボクの耳さわってたのはお前だろ…」

「そうなんだけど!触りたくなる耳なのが悪いんじゃん……」

言いながらまたチラチラとリス耳を見てしまう。ああ、見てたらまたむにむにしたくなってきた……


「あ、私が先に名乗っとくべきだよね!鈴浦亜里、十六歳、この『カインマート鈴浦店 デュッセニー支店』唯一の店員にして責任者です!よろしく!!」

リス耳から無理やり意識を外して、脳内を接客モードにしてどんどん話を進める。仲良くなってまたあの耳をモフる為なら、コミュ障だなんだとか言ってられないよね。

「勝手に名乗るなよ……はぁ…名前は《ヴェルヒェルハルト》だよ。これで満足?」


「ヴェル…何?なんかすっごく難しい名前してるんだね。」

デュッセニーに来てからというもの、会う人会う人皆短くて覚えやすい名前をしてくれていた。リーリャさんとかアンジェちゃんとかね。…長老さんの本名は忘れちゃったけど、まぁ長老さんって呼んでればいいか。

だからエルフの里の人は皆短い名前が普通なんだと思ってたけど、そういう訳じゃないんだな。


「《ヴェルヒェルハルト》だよ。これ位一発で覚えろよ、バカだな。」

「そんな言い方しなくてもいいじゃん!ベルヘルハルト君ね、ちゃんと覚えたから大丈夫だよ。」

「なんか発音ちがくないか?」

「え、そう?……ヴェルヒルハルト君だっけ?それともベルフェルハルト君が正解だっけ?」

些細な違いに見えるけれど、発音すると意外とどれにも違いがあって、どれもが不正解のように思えてくる。

外国語って、カタカナで書くとどうしてこんなに難しいんだろうね?昨日伝書鷹を使おうとして発音カミカミだったのが思い出されるよ。


「はぁ…じゃもういいよ、お前もベルって呼べよ。次会うかは知らないけど。」

「ベル君ね!OK、それなら覚えやすいよ。ありがとう!」

「こんな名前も言えないなんて、小さかったリーリャと同レベルだな、お前。マジで子どもみたいだ。」

「え…リーリャさんの子どもの頃を知ってるの?本当に君何歳なのさ……?」

紆余曲折はあった気がするけれど、ようやくデュッセニー支店初のお客様のお名前を手に入れた!

ここから着々とお喋りと情報交換を通して、毎日通って下さる有難い常連様になってくれたらいいな。



「ほら、もういいだろ?僕はいい加減帰るから。早くしないと……」

テロリロテロリロテロリロテロリロ。

「あ…」

「んえ?」

ベル君の言葉を遮るようにして、入店音が継続的に鳴り響いた。煩いくらいに。

「お客様?…あ、柱で見えない……」

今までイートインの椅子にゆっくり座ることなんて無かったから知らなかった。ここからだと、柱が邪魔をして入り口が全く見えないんだね。なんという欠陥。


「いらっしゃいませー?」

とりあえずの挨拶をしておきながら自動ドアを見に行こう。また風のイタズラじゃなきゃいいな。

「……やばい。」

「え、あれ?ベル君?」

立ち上がりかけた私よりも先に、目の前に立っていたベル君がひゅんと走り出してしまった。

それを追いかけて私も急いでイートインを飛び出す。


「アリ様!大変お待たせして申し訳ありません!里の者一同で、心躍らせながらはせ参じましたぞ!」

「一番心躍らせてたのは長老ですよね。昨日からずっとブツブツ言いながら準備してたし。」

「まるで新しいまじゅつぐをしらべるときみたいでしたですー。あたしは、そんなにたのしみじゃなかったですよ?」

「嘘つくなって。アリ様に戴いた『みるく』が忘れられなくて、夢の中でも飲んでいたらしいじゃないか。」

「ねーさま、それは言っちゃダメなのです!」


「え、長老さん?リーリャさん?アンジェちゃん?…それに里の皆さんも……?」

自動ドアにぶつかるかの勢いで飛び出したら、目の前にずらりとエルフの方々がいっぱい。いっぱいい過ぎて、且つ先頭が入り口で立ち止まっているせいで、後続は全然店に入れていない。

「え、てっきり誰もいらしてくれないかと……」

心の準備が出来てなさ過ぎて何を言っていいのかも分からない。


「お昼というお約束を破ってしまい申し訳ございませんでした。言い訳になってしまうのですが、道中で多々のトラップがありまして…アリ様、つかぬ事をお聞きしても良いですかな?」

「はい、いいですけど…とりあえず、先に皆さん中に入ってください。七時過ぎの真っ暗闇樹海でお待ち頂くわけにもいきませんし…」

まぁこの人数全員が入りきるとは思えないけれど…ざっと四十人は超えてそうだし。



「ありがとうございます、アリ様!やっぱりお優しいですね!」

「流石女神様だ!女神様直々に経営するお店は、とても素晴らしいものに違いありません!楽しみです!!」

「ねーねー母さん、なんでめがみさまがおみせするの?かみさまがおしごとしていいの?」

「こら、そんな罰当たりな事を言っちゃいけません!女神様の推考なのだから、私達に理解できるはずがないでしょう!」

「ねーさま、はやくはやく!『みるく』買うのです!」

「分かった分かった。焦らなくても大丈夫だからな。転ぶぞ。」

「ああ、アリ様の世界の魔術具の全てが今ここに……!」


がやがやがやがや……四十数人が一気にあちこちで喋り出すものだから、収拾が全く付かない。とりあえず共通してそうなのは、皆当店を楽しみにしてくれていたのと、女神様パワー恐ろしやという所だろうか。

「ええと、とにかく中へどうぞ!いらっしゃいませこんばんは!!」

挨拶もそこそこにエルフの皆様を中へお招きする。ぞろぞろと列を保って入店する様子はまるで軍隊のようだ。

ああ、これは大変な接客になりそうだ……

「あれ?そういえば、ベル君は何処に行ったのかな?」

本来は大晦日に投稿予定でした本話ですが、年末年始の過密シフトに負けて気が付いたら年を越していました。びっくりです。

改めまして明けましておめでとうございます。今年も変わらぬ調子で更新していきますので、『JKコンビニ店長』を何卒宜しくお願い致します。

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