05 JK店長の一人ぼっちの夜。
何が、どうして、こうなった……
私は声を上げることもできず、ただただ立ち尽くしていた。
駐車場ものぼりも県道も街灯もない、薄暗い森の中で。
遡ること前日の、とある十月の土曜日午後7時。
土日は好きだ。学校がない分仕事までゆっくり家のベッドで眠れるし、なにより家族連れが増えるので平日よりも客数が伸びる。客数が伸びるということは売上が伸びるということで、喜ばしいことだ。
私が実質的店長になってから約半年が経ち、仕事にも大分慣れたと思う。
ワンオペで店を回すのもけっこう上手くなったし、最近はお客様を呼ぶためのチラシや宣伝POPをよく作ったりもしている。
その効果もあってか、ここ半年で客数はゆるりゆるりと増えていた。とても喜ばしいことだ。
しかし今思うと、その日はそのワンオペが仇となった。
土曜の夕方のシフトはいつも龍二と二人で回しているのだが、その日は龍二がどうしても用事があるとのことで、一人で働いていた。
まぁ一人でも全然大丈夫だからね…お客様いないから……
最初は特に変わらないいつも通りの日だったが、夜九時を過ぎた頃から外の様子がおかしくなった。
それまで晴れていた空が急に曇りだし、あっという間に大雪に変わってしまった。
大粒の雪らしく、窓や自動ドアに叩きつけるように降っている。一人きりの店内に、風や雪の音がごうごうと響いていた。
とても外に出られる状態ではない。
え?なんで??まだ十月だよ?
天気予報も雪だなんて言ってなかったし…天気予報が嘘をついたのかな?
それでなくても元々、この町には雪なんて滅多に降らない。降っても数年に一度、地面が薄らと覆われる程度にしか積もらない。
それなのに現状、外は大雪荒れ模様。おかしい。
この天気なので私も迂闊に店外に出られないし、勿論お客様も来ない。こんな日に車出せないからね。
「すみません、この天気の為、納品が遅れます。到着が何時になるかは不明です。」
深夜の納品業者からもこの電話である。しかも複数ある納品便全てが来られないと言う。こんな日にトラック出せないからね。
仕方ないので、発注業務やクリスマスのPOP作りに専念することにした。
『やれることをやれる時にやる』、これもコンビニ営業において大切な心得だ。
そして、お客様や業者が誰一人来ないまま、一人きりの夜があけた。
いつもお客様が来ない、寂しいと騒いでいたけど、業者の方が来て世間話してくれるだけでも有り難かったんだなぁ……
初めての一人ぼっちの夜は、少し……いやかなり寂しかった。
いつの間にか雪はやんだのか落ち着いたのか、昨夜の叩きつけるような音はしなくなっていた。
風も結構強かったし、駐車場も雪やゴミで汚れているかもしれない。朝勤の母さんが来るまでまだ時間があるし、それまでに外掃除を終わらせてしまおう。
そう思って箒と塵取りを手に何気なく駐車場に出た。…はずだった。
目の前に広がっていたのは、ただただ樹、樹、樹。
各々が太く長い広葉樹で、それらが奥までずっと並んでいる。樹に遮られて、周囲も上空も様子が全く分からない。
何故か分からないけれど、私は森の中にいるみたいだ。
え??なんで??何がどうなってるの?
いくら田舎町と言っても、当店の目の前にあるのは駐車場と県道。こんなに立派な森なんてない。
当店自慢の広々駐車場は何処に行った…?誰か、万引きした……?
訳が分からず、私は呆けるしかなかった。
ようやく展開が進みそうな、進まなさそうな、そんなスローペースで進んでおります。