41 『カインマート鈴浦店 デュッセニー支店』、いざオープン ①
「いらっしゃいませ、こんにちはー!」
テロリロと入店音が軽快に鳴ると同時に、その挨拶は店内に響く。
私は心からの笑顔で、一つしかないドアから来店されたお客様を出迎える。
「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さいました私の店に!!」
歓迎の意を、笑顔だけでなく実際に声に出して、お客様をお迎えする。
私自身の言動は日本の時と全く同じだけど、私の周囲の様子はあの頃と全然違っていた。
店内には、もう何人いるか数えられない程たくさんのお客様で溢れ返っていた。
イートインもレジ周りも、棚段の間の細い通路も、たくさんのエルフの里の皆さんで埋め尽くされている。もう床のタイルが見えないくらいだ。そうか、これが噂に聞くコ〇ケかぁ……
しかしそんな現実逃避をしている余裕はない。それだけ多くのお客様が店内にいるという事は、当店唯一の店員である私の仕事量がヤバい量になるという事なのだ。
正直、手が足りない。全然足りてない。万能な猫の手は何処ですか?
レジに並ぶお客様の列は店内後方のドリンクコーナーまで届いているし、フライヤーや中華まんも売れすぎて補充が全く追いついていない。
早起きしてまで開店前にあんなに作り置きしておいたのに…
一台しかない珈琲マシンは酷使されすぎて、やれ『カス受けが一杯です』とか『ミルクが足りません』とかでエラー音をすぐに出す。
なんて軟弱ものなんだ。文句も言わず働いているレジを見習ってもっと頑張れ。
商品棚もスカスカで、前出し顔出しなんてあったもんじゃないし。いわゆる災害時やイベントでの買いつくし状態ってやつだね。まさか当店で見れるとは思ってなかったよ。
ああ、でも忙しいっていいなぁ…こんなに多くのお客様に囲まれたの、一体いつぶりだろう…?
不謹慎な言い方だけど、レジに並ぶお客様が皆ミオン硬貨に見えてくるよ…この調子なら、《オンファイラー》を買って日本に帰れるのもあっという間だね……
「そんな感じで忙しくなると思ってたのになぁ………」
はい、長々と失礼しました。ここまでのは、全部私の妄想でした!
いやぁ、たかが妄想をこんなにだらだら語るなんて、我ながら正気じゃないよね。
でも、仕方なくない!?せっかくお店開けたのに、暇なんだもん!!
妄想とは程遠く、実際は日本の時と同じように、閑古鳥が巣作りして住み着いちゃっているかのような現状であった。
妄想上では超完璧だったのに…細かい所までイメージできているのに……この現実は何故だ……
昨日の伝書鷹騒動が終わってから、一生懸命お菓子やカップ麺やドリンクの品出しと前出しをして、半泣きになりながら再び中食の廃棄を確認して、売り物がほぼ無くなった中食棚の清掃までやって、開店準備をばっちりにしておいたというのに。
今朝は今朝で、スマホのスヌーズをフル活用してやっとこさ早起きして、朝からチキンや中華まんやおでんをちょっとずつ作り置きしていったというのに。
マシンが一台ずつしかないから、全種類を大量に作ろうとしたら時間がかなりかかるんだよね。売れ筋のチキンとかは五、六分ずつ揚げなきゃいけないし。
まぁお店を開けるのは昼からと公言しておいたから、それに間に合うようにゆったり作ってるけどね。
ついでに店の外も綺麗にしようとして、樹だらけ葉だらけ土だらけの地面も多少掃除しておいた。
これはあまり手応えはなかったけれど…掃いても掃いても、すぐ風が吹いて元通りだ。暫く頑張ったけど、完全に綺麗にするのは諦めてしまった。
代わりに店内の床やイートインの机なんかはピッカピカに磨き上げておいた。日々の業務で磨かれた掃除スキルは伊達じゃなかったね。
補充と清掃が終わってまだ少し手が空いたので、ついでにPOPも作ってガラスのあちこちに貼り付けておいた。文字は使えないので、可愛い記号とかにっこりスマイルちゃんとか、イラストを落書きのように大量に書いただけなんだけどね。
結果、『リニューアルオープン』という宣伝にはならなかったけど、お祭りのような楽し気な雰囲気だけは醸し出せたと信じてる。
「きっとPOP達の未来もちゃんと明るいはずさ、多分。…私と違って……」
昨夜から今朝にかけてここまで念入りに準備して、疲れを残さぬようしっかりと紅茶休憩も入れつつ、ようやく準備が整ったのが十一時頃。
「さて、これからどうしようか…?」
昨日の宣伝では『オープンするのはお昼頃』としか言ってないから、具体的に何時頃にお客様が来るのか分からないんだよね。
「本当はハッキリと時間を明確にしておければ良かったんだろうけどなぁ…」
困ったことに、デュッセニーの時間や日付を知らないんだよね、私。だから具体的には決められなかったのだ。
店の時計は普通に日本時間で進んではいるし、スマホやレジ上の時計表記もそれに付随して進んでいる。時間だけでなくちゃんと日付も進んでいる。私がデュッセニーに来てからもう六日が経ってるんだなぁ…
でも残念ながら、デュッセニーの時間は分からない。時計は数字が十四個もあったから日本と同じとは思えないし、日本の時計は当てにならないからね。
今度長老さんかリーリャさんに、デュッセニーの時間について教えて貰わなきゃな。
「とりあえず昼って言ったけど、流石に二時位には来て下さるよね?陽が昇ってる内は昼って扱いでいいよね??空見えないけど、まだ明るいよね??」
それまではフライヤーを作り足しつつゆっくり待ってようかな。お客様がいついらっしゃるか分からないなんて、コンビニじゃ当たり前だしね。予約制じゃない、いつでも気楽に来れるのがコンビニなんだし。
「店でやる仕事も、お客様をお迎えして接客するのも、いつも日本でやってきたことだし。大丈夫だよね。ちゃんとオープンできるよね。」
根拠のない安堵を言い聞かせて数時間。
待てども待てどもお客様は誰一人として来なかった。もう三時過ぎてるんだけど…
楽しみにしてますって長老さんからのメッセージは嘘だったのか……?
待ち続けるのも疲れてきちゃったし、早くお買上げ頂かないとせっかく作ったフライヤー達が全廃棄になるんだけど…?
「ああ…華々しいリニューアルオープンをイメージしていたのに…こんなの絶対おかしいよ……」
各コンビニチェーンで様々なフライヤーがありますが、お気に入りの商品等ありますか?
作者は週五で、油ギッシュな某チキン先輩を食べてます。美味しい。




