36 山あり谷あり。
「明るい店内!広い店内!大量の商品!大量の廃棄!大量の問題!!」
思いっきり『青い空白い雲~~』のノリで能天気に一人言を叫んだけれど、残念なことに悲しくなるような内容ばかりになってしまった。
というのも、リーリャさんとアンジェちゃんを見送ってから、色々あったんだって。
一人ぼっちの店内でまず時計を確認すると、とっくに夜九時を回っていた。
ちなみに、スマホの時間と店内の壁掛け時計の時間が一致したので、とりあえず当店ではカインマート時間が正しいと仮定して生活することにした。
デュッセニーでの時間はよく分からないけれど、気にしても仕方ないからね。
「もうすぐ夜十時かぁ…そろそろ深夜時給だねぇ…夜勤だねぇ……あれ?」
いつも通りの店内で、いつも通りに夜十時を迎えて、ようやく気付いたことがある。むしろなんで今まで気が付かなかったんだろう。
「センターや冷凍の納品便って、どうなってるんだろ…デュッセニーまで届けてくれるのかな?」
コンビニに並ぶ数々の商品は、毎日決まった時間に決まった業者が、発注分の商品をしっかりと配送してくれるからこそ販売出来ている物達だ。
コンビニの営業を成り立たせるには、納品便が必須なのだ。
しかしあくまでそれは、日本での話。わざわざ納品業者が、異世界まで足を延ばしてくれるとは思えない。そんなこと出来るんだったら、私はとっくの昔に日本に帰れているよ。
「まぁ一応、確認してみようかな?何かの間違いで届いちゃったりしてないかな?…無駄足かな?」
結論から言うと、思いっきり無駄足でした!
納品トラックがいつも停まる駐車場は、残念ながら今は影も形もきれいさっぱり無くなっているので、仕方なく当てもなく入り口から外を見渡してみた。
相変わらず鬱蒼とした辛気臭い森しかなかった。
夜になると昼間よりも更に暗闇が増して、相当怖かった。
一応念のため、裏口側のバットを置いているスペースも覗いてみた。今日帰ってきた時と同じように、バットもゴミ箱も何にもなかった。
店の灯りすらあまり届かず、暗闇と樹の群れしかなかった。
ヤバい位にめちゃくちゃ怖かった。
結果、納品便の面影は全く無く、私の信念に『夜のデュッセニーの森には絶対に出かけない』という強い決意が芽生えただけに終わったのだった。
「しかし、これは困ったな…」
納品便が来ないという事は、新しい商品が来ないという訳で、つまり店で売る物が無くなるという訳だ。
これでは、店の商品をデュッセニーで売り捌いて金策を図るという私の計画が全ておじゃんになってしまう。
「元々売場に並んでいる物を売るにしてもなぁ……」
デュッセニーに転移してきた時に、何故か店の中の物だけはそのまま一緒について来ているので、全く売り物がない訳ではない。……ないんだけど。
「中食の期限って短いからなぁ…すぐ廃棄になっちゃうし。」
そう、今度は廃棄の問題が出てくるのだ。
中食、つまり食料品の種類にもよるけれど、それぞれの商品には消費期限があり、そこから逆算して販売期限が定められている。
例え消費期限が切れていない食品でも、販売期限が切れていたらレジを通らないので売ることができない。
そしてその販売期限は、物によっては納品から十八時間後とか、長くても二日後位しか保たない物が多い。
「まぁ一応、確認してみようかな?何かの間違いで時間が止まってて、商品が傷んでなかったりしないかな?流石に売るのはダメかな?」
これも結論から言うと、思いっきりしっかり無駄足でした!!
例え異世界だろうと刻はちゃんと進んでいるようで、ほとんど全てが廃棄でした!
おにぎりやパンは傷んで固くなってきていたし、バナナやトマトなんかの生鮮食品は見た目がもうやばかった。売っちゃいけない色をしていた。
ついでに物は試しで、何故か普通に起動していたレジにスキャンしてみたけれど、これもアウトだった。『販売期限の切れた商品です。』の一言を表示するだけの、非常に無情なレジだった。
「中食は全滅か…マジで売り物ないじゃん……」
お先は真っ暗だけど、うじうじ言ってても仕方ない。何か代替案を考えねば…
「期限のない日用品を売るとしても…アイテム数はやっぱり少ないし。万が一売り切れちゃったら、結局納品されない訳だし…」
そう、商品の種類、つまりアイテム総数としては、やはり食品の方が多いのだ。実際に売場の棚の数を比べて貰えば分かると思う。
数少ない日用品を売って多少のお金を稼げても、売り切れてしまったらそこでおしまいなのだ。
「やっぱりしっかりとお金を稼ぐなら、発注が必須なんだけど…」
そこでまた浮かぶ新たな問題が。
「そもそも発注タブレットが付きもしないんだから、廃棄も発注もないんだけどさぁ…」
最近よく話題に上るコンビニの大量廃棄問題だけど、これもかなり難しいものだ。
過剰に商品を取ると、売り切れずに廃棄になってしまう。かと言って廃棄を恐れて発注を極端に減らすと、商品がないので店の売上が立たない。
『MOTTAINAI精神』は理解できるけれど、それだけでは語れない難しさがコンビニ業界には根付いているのだ。
廃棄と発注のバランスこそが、コンビニ店長の腕の見せ所とも言える。
で、これまた同様、全部日本での話なのだ。
そもそも異世界では、発注も出来ないし納品も来ない。しかし時間は進んでいるので廃棄だけはしっかりと出てしまう。
バランスも何もあったもんじゃない。
なんて酷い仕様なんだ。何の嫌がらせなんだ!
「まぁ一応、確認してみようかな?何かの間違いで発注タブレットが動いたりしないかな?…やっぱり無駄足かな?」
それからけっこう長時間タブレットと格闘したものの、やっぱりしっかりばっちり無駄足でした!!
電灯は全部点いたしレジも問題なく使えるし、冷蔵や冷凍の商品棚もちゃんといつも通り起動している。ついでに私物のスマホも使えている。電気が通ってない訳じゃない。
それなのに、何故か頑なに発注タブレットだけが沈黙を貫き続けている。何故なんだ。
はぁ、本当にこんなんで『カインマート鈴浦店 デュッセニー支店』なんて出来るのかな??
山積みの問題だけが浮かび上がり、手の打ちようの無さに独り愕然とするしかないJKコンビニ店長でした…




