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31 似た者で対極な。

「アリ様、この度は誠に申し訳ございませんでした。」

「……ごめんなさいです。」

またまた綺麗に四十五度の深々なお辞儀をするリーリャさんと、その足元で少し拗ねたように頬を膨らませる涙目のアンジェちゃん。対極な二人の姿が、久々に付けた店内の電灯のおかげではっきりと見える。

そうです、ようやく店の明かりを付けてきました。天井も中食の棚もリーチインも全部いつも通りの明るさを放っている。後は店内ラジオさえ付けてしまえば、まんまいつもの『カインマート鈴浦店』になるね。

これで『ホラーダンジョン カインマート鈴浦店』はお終いです。


「大丈夫です、気にしてないので。それに、これの使い方も教えて貰えたので助かりましたし。」

私の手に堂々と鎮座しているのは、やたらと大きなゴキ〇リホイ〇イだった。市販の三倍くらい大きいそれの中には、何故か蚊取り線香が収納されている。Gを退治したいのか蚊を退治したいのか、どっちなんだか。

普通に薬局とかで売ってそうだけど、これもれっきとした魔術具らしい。確かにとても役立ってはいるけれど。


というのも、今までは店外に来るかもしれない獣や魔物を恐れて、敢えて店内の電気を付けていなかったんだけど、この魔術具のおかげで安心して煌々と明かりを付けていられるようになったのだ。

退治できるのはGでも蚊でもなく、猪や熊らしい。なんて有能な。

やっぱりコンビニ店舗は、二十四時間しっかりと電気を付けて営業していないとダメだよね。


「早速アリ様のお役に立てて、長老も喜ぶことでしょう。」

「ちょーろーさま、まじゅつぐバカなのです。」

「酷い言い方…まぁでも、この袋の中身からして、魔術具バカもあながち間違っていないのかもですね…」

長老さんから貰った四〇元ポケッ〇を手に、思わず同意してしまう。こんなに多彩且つ便利なレア物の魔術具を集めるのは、魔術具オタクの長老さんにしか出来ないことだろうな。

三人揃って複雑な笑みを浮かべてお互いの顔を見比べた。




時はちょっと戻って、アンジェちゃんがくっころりエルフと化してからすぐのこと。

泣きに泣いて目を真っ赤に腫らした幼女は、それでも尚、私への敵対心が解けていない様子だった。

私を見る目線だけが厳しいし、ちょこんとと体育座りをしながらもごもごと口が動いている。


「ねーさまをせんのーして……」

誰にも聞こえないように、声は出さずに唇だけが動いている。気づかれないと思っているんだろうなぁ…

しかし残念ながら、コンビニで働くと、相手の唇の動きで言いたいことが大体分かるようになるんだよ。絶対に声を出さずにたばこやフライヤーを注文するお客様って一定数いるから、自然と読唇術が身についてくるんだよね。

これ、接客業あるあるだと思う。

よって彼女の声にはしない不平不満が私にはしっかりと分かってしまうのだ。


「ねぇアンジェちゃん。」

しゃがんでアンジェちゃんの目を真っすぐ見る。相手と目を合わせるのは接客の基本だからね。

「すぐには理解して貰えなくても仕方ないけれど、私は本当に皆に悪い事しようとか全然思ってないんだよ?長老さんにもリーリャさんにも、とっても感謝してるの。」

私を囲んで崇め奉っていたその他大勢のエルフの皆さんのことは一旦置いといておく。嫌いじゃないんだけどね…

「助けて貰った分お返ししたいし、出来ればもっと仲良くなりたいの。勿論、アンジェちゃんとも仲良くなりたい。いつか、分かってくれるかな?」

正直、悪者だ何だと罵られ続けるのは精神的に辛いものがある。和解できるなら願ったり叶ったりなんです。

「………」こくり。

無言のアンジェちゃんだけど、少し遅れて小さく頷いてくれた。


「アリ様ーーー!!!なんとお心の広いんでしょう!!!」

「え、なんでリーリャさん泣いてるんですか!?」

「ねーさま……?」

幼女とのほっこりな雰囲気になったと思ったら、なんか横にいたリーリャさんが号泣してた。

え、そんな大泣きする所あったっけ?

私も訳分からないし、アンジェちゃんに至ってはオロオロと目に見えて動揺している。

私は今動揺していますよと言わんばかりに、手をバタバタさせて体をふらふら揺らして、なんならつられてまた涙が浮かんでいた。


「さすが!女神様でございますね!!こんなにも不躾な者を叱りつけもせず…なんとお優しい!!!」

「え、いやそんな大袈裟な…そもそも叱るのならリーリャさんがさっきやってたじゃないですか…」

「そんなことは関係ありません!!!」

「こんなねーさま…ねーさまじゃないのです……」

それから暫くの間、号泣するリーリャさんと再び泣き出したアンジェちゃんに挟まれて、苦笑いを浮かべるしかなかったのでした。



「アリ様、度々申し訳ございませんでした。」

「いえ、大丈夫です…」

どれだけ経っただろうか。かなり長い間泣き続けた二人は、ようやく落ち着いたようだ。

依然として薄暗い店内の、当店が誇る広々としたイートインコーナーの真ん中で、三人並んで腰掛ける。三本の光があるとは言え心もとないし、そろそろ店内の電気付けたいなぁ…

「どうぞ、淹れ立ての珈琲です。温まって落ち着いて下さい。アンジェちゃんはホットミルクでいい?」


姉妹仲良く真っ赤な兎目をしている二人に、レジ横の珈琲マシンでドリンクを淹れて渡した。

当ブランド自慢の、店内挽きたて珈琲は、喫茶店にも負けない香りと味をご提供致します!珈琲の他にもラテやフラッペなんかも取り揃えております!

珈琲マシンは今やどのコンビニチェーンにもあるし、飲んだことある人も多いんじゃないかな。手軽に買えるし、当店ならイートインでゆっくり休めるし、おススメですよー。


「ありがとうございます。」「ありがと…」

「どういたしまして。それにしても、本当にそっくりですねぇ…」

この二人、お礼を言ったりドリンクを受け取ったりするタイミングも仕草も、何もかも全部が同じなのだ。

姉妹って流石だね。…あれ、姉妹じゃないって言ってたっけ?どうだったっけ。

そしてこれまた同じ動きでカップを傾ける。うん、本当の姉妹かどうかとか、なんかどうでもよくなってくるよ。ここまで挙動が似ているんだから、姉妹って認識でもいいよね。


「あ、おいしいのです!」

コクンと一口飲んで表情が明るくなったアンジェちゃん。どうやらホットミルクにして正解だったみたいだ。

幼女の笑顔ってこんなにも可愛いのか……

「………」

対して苦虫を嚙み潰したような暗い顔になったリーリャさん。あれれ、珈琲にしたのは失敗だったかな。

なんか悲哀に満ちた顔してるんだけど……

先程までとは打って変わって対極の反応を見せた姉妹だった。


「すみません、お口に合いませんでしたか?なんなら他のと交換しましょうか?」

「いえ!せっかくアリ様が用意して下さった神の恵みを、おいそれと手放す訳には参りません!お気になさらず!!」


余りにも悲壮感漂う表情を見ていられなくて提案したものの、即座に却下されてしまった。いや、どんな理由やねん。

なんだかリーリャさんが、どんどんカルト宗教の信者みたいになってきてるんだけど…

そして再び口を付けるものの、無理をしているのが丸わかりすぎて可哀想にすらなってくる。


「仕方ないのです。ねーさまは頭がかたいのです。がんこものなのです。」

あっという間にホットミルクを飲み切ったアンジェちゃんが、一番冷静で的を射た呟きを残していた。

外見上の年齢は、リーリャが二十歳前後、アンジェが四・五歳くらいになります。

見た目と中身の年齢は比例しないものなんですかね。

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