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02 JK店長の部屋とは。

『起きろ!起きろ!仕事の時間だ!起きろ!起きろ!仕事の時間だ!』

少しダミ声で鼓舞してくるアラームをとめて、私はのそりと起き上がった。

そのまま壁の時計を確認。午後9時半。納品が来るまでもう少しだけ時間がある。


「ねーちゃん、起きたか?デスクに紅茶置いといたからさっさと飲んで目さませよ」

アラームの音を聞き付けたのか、龍二がレジからひょこっと顔を出す。

「んー…ありがと」

のそのそと布団から出てデスクに向かう。寝ぼけていても出来るだけ背筋を伸ばして、龍二が淹れてくれたダージリンを啜る。

…あったかい。


ふとパソコンの横に設置されたモニターを見る。このモニターは画面分割することで、店内に設置された複数の監視カメラの映像を同時に確認することができる優れものだ。

モニターの隅の映像で、レジ内でノートを広げている龍二がちょこちょこ動いている以外に、店内で動く影はなし。

…紅茶で身体は温まったのに、何故か心は寒いぞ…。


「龍二、あれからお客様来た?」

私はデスクに向かったまま龍二に声をかける。

「あー…いつもどーり。常連のおっさんが、マル○ロのカートン買ってった位。あ、あとあんま来たことない若いのがアイ○スめっちゃ買ってった。」

「…タバコしか売れてないじゃん……」

頑張って伸ばしていた背筋の力が自然と緩んでしまったのも仕方ないと思う。



田舎のこの町には店や家が少ない為、当店の敷地は大分広い。

食品や日用品を並べる陳列棚は縦に4列も並び(普通は3列、狭い店だと2列しかない店もあるらしい)、ATMやコピー機の横にはイートインスペースも設けてある。

店の外の駐車場も広々としていて、車が30台くらい停められる。

その他、倉庫やゴミ置き場もしっかり完備している。


そのような有り余る敷地を持つ当店の事務所も、当然ながらに広い。

パソコンや監視モニターを置いたデスクに金庫、備品棚等、コンビニ営業に必要な物達を置いてもまだまだ余裕がある。

私はその余裕を利用して、事務所の一部を自室のようにしていた。

仮眠用の布団を敷いた横にはふかふかの座椅子。冷蔵庫や洗濯機も完備。

そして一番のお気に入りは、私厳選の紅茶を並べた白くてお洒落な戸棚だ。


別に、帰る家がないから事務所に住んでいる訳ではない。私たち家族が住む戸建は、ちゃんと近くにある。

ただ、学校終わりから朝まで働く私のシフト上、家に帰る時間がないだけだ。

帰れないなら職場に住めばいいじゃない!という安定のブラックぶりなのだ。

この生活にもそろそろ慣れたけどね。



ぼんやりしていたら、そろそろ夜10時になる。

「龍二、レジありがとね。代わるからもう上がりなさい。」

「うっ、わっ!」

よしー、はたらくぞーと一応気合いを入れてレジに出ると、龍二が何故か慌ててそれまで書いていたノートを自分の背中に隠した。

「なに、それ?宿題でもしていたの?」

「えっ…ああ、そう、宿題!数学!暇だったからな!!」

「ふーん…まぁ私もよくやるけど、暇だからって言うのはやめなさい。やること、探せばいくらでもあるのよ。」

「それもやったよ。品出しにカップ麺の棚清掃、フライヤーも洗ったしトイレも完璧。使う客いないからな。」

「お疲れ様。でも、いちいちお客様がいないこと強調しなくていいから…」

「いい加減慣れろよ…」

龍二が呆れた声を出すが、ブラック生活に慣れても、お客様がいない現実にはいつまでも慣れそうにないのだ。


「おはようございまーす、納品でーす」

ほぼ毎日会っている見慣れた業者さんが、食品の納品を運んできた。パンやおにぎり、チルドドリンク等の大量の食品を検品し、陳列することから私の夜勤は始まる。これがなかなか時間がかかる仕事だ。


「お、今日は納品早いな…少し手伝ってこうか?」

龍二がノートを胸に抱えたまま、気遣ってくれる。気持ちはありがたいのだけれど、お言葉に甘える訳にもいかない。

「大丈夫よ。未成年は夜10時以降は働いちゃ駄目なんだから。上がって宿題済ませちゃいなさい。」

「いや、自分だってまだ高一じゃんか…」

「私はいいの。夜勤やれるの、私しかいないんだから。」

「…わーったよ。ほんとに上がるからな?」

「はい、お疲れ様。」

結局最後まで大事そうにノートを抱き締めて事務所に下がる龍二を見送り、私は売り場に出る。

今日も長い夜勤の始まりだ。

現実には、いくら広くても、事務所に住むのは落ち着かないです。作者は何回やってもまともに眠れません。

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