15 曖昧な希望と確固たる目標。
私はどうしても帰らなければならない。
今が十月だから、タイムリミットは後半年。
半年以内に、店と共に、無事に帰らなくちゃいけない。
私だけが帰っても意味がない。
そうしないと我が家は、物理的でも契約上でも、大事な店を永久に失うことになるのだから。
「いやいやすみません、先走りすぎました。どうもこの歳になると、お喋りが過ぎてしまいましていけませんな。」
「はぁ…」
照れくさそうに笑いながら再び席に着いた長老さんには、もうさっきまでの詐欺師なセールスマンっぽさは無くなっていた。
それにしてもこの歳って言う割に、長老さんはまだまだ若いはずなのになぁ。話し方は人生経験豊富な老人みたいだけど、外見は身長二メートルの超マッチョさんだからね。
「順を追って話しましょう。まず、魔術具がとても便利な物で、デュッセニーにおいて絶大な力を持っていることはご理解頂けましたか?」
「はい、大丈夫です。」
それはもう、ほんとに、充分すぎるほど講義を聞いたからね。正直、魔術具の話はけっこうお腹いっぱいです。
「そして、《オンファイラー》という魔術具を応用して使えば、アリ様が元の世界に帰ることが出来るかもしれないのです。」
「え?本当ですか!?お店も全部?」
「あくまでも、可能性があるという程度ですが…それでも、アリ様の願いを叶えるにはこれしかないのです。」
「それでもいいですっ!帰れる方法があるなら、どんなことでもやります!!」
思わず私まで、机を叩いておもいっきり立ち上がってしまった。それくらい、長老さんの言葉は魅力的だった。魔術具はお腹いっぱいとか言ってすみませんでした!
しかし、帰れるかもしれないという希望に包まれた私を見上げた長老さんは、何故か暗い顔をして俯いた。
「ただ…私から提案したことなのですが、実は問題がありまして…それを手に入れるのは簡単なことではないのです。」
「大丈夫です!冒険でも採集でもレベル上げでも何でもやります!毎日こつこつと同じ業務をこなすのは得意なんです!どんな大変な仕事でもやり遂げてみせます!」
今の私に出来ないことなどない!JKコンビニ店長を甘く見るなよ!
「いやぁ…そういう事ではなくてですね。実は《オンファイラー》は、この世で誰も実物を見たことはないと言われる、幻の存在なのです。そもそも存在するかも定かではない、伝説の魔術具です。」
「え…じゃあ、あるかも分からないし、あったとしても確実に帰れるとは限らない幻の魔術具を手にいれなきゃならないって事ですか?」
「…そうなります。」
………。
うえええええ、なにそれ、酷くない!?
帰れるかもって希望をちらつかせておいて、実は存在すらも確かじゃありませんとか、酷くない、ねえ!?
ついさっきまであんなに明るかった目の前が急に暗く陰ってしまったようで、私は静かに椅子に座り直した。
「大丈夫です!魔術具の在処や使いこなす方法は、私が必ず突き止めますので!私はこれでも数百年、魔術具の研究をしてきたのですから、どうかご安心ください。私や里のエルフ共々、協力致します。」
「長老さん…ありがとうございます。」
テーブルの向こうからそっと私の手を取って、優しく微笑んでくれた長老さんの顔を見て、私は思わず泣き出しそうになっていた。
部外者の長老さんがこんなにも優しく協力してくれると言うのに、当事者の私が簡単に諦めていいはずがなかった。
あと半年以内に、店も商品も全部持って日本に帰らなきゃいけないんだ。泣き言を言っている余裕なんてない。
「長老さん、私、《オンファイラー》に託してみます。」
「分かりました。では、私が《オンファイラー》について調べている間、アリ様には魔術具を手に入れる為の最初の仕事を行って頂きます。」
「…あ、それがもしかして、お金を稼ぐ事ですか?」
「その通りです。魔術具は、各々決められた額のお金を払う事で自らの道具として得られるのです。」
「異世界人の私でも、魔術具を使えるんですか?」
「デュッセニーにいれば、種族を問わず世界を問わず、魔術具を使うことができます。必要な物は多少の魔力とお金だけです。ご安心ください。」
なんだかやけに自信満々に断言するなぁ。曖昧よりかは助かるけども。
それにしても、お金を使う……まさか伝説の魔術具をお店で買うとかじゃないだろうし、どう使うのかな。
教会とか神殿みたいな神秘的な施設にお金を捧げて魔術具を授かるのかな。
もしくは魔術具の職人さんにお金を払ってオーダーメイドするのかな。
魔術具なんて特別な物を手に入れるんだから、その方法も特別な方法に違いない。なんたって、憧れの魔法だからね。
「《オンファイラー》に幾らお金が必要なのかがまだ不明なので、アリ様にはできるだけ多くお金を用意して頂きたいのです。主が自ら稼いだ金銭を使わないと、魔術具が機能しないので。」
「分かりました。本当に色々とありがとうございます。」
ようやく、やるべき事が判明した。
異世界でのクエストは、冒険でも採集でもレベル上げでもなくて、とにかくお金を稼ぐ事でした。
お金を稼ぐ方法かぁ…一つ、私にしか出来ない商売が思い浮かんだ。私には、自分の店があるんだよね。




