閑話1 季節行事は楽しんだ者勝ち。
本編が全然進んでいないけど閑話です。
一月経っちゃったけど七夕です。
これは私がまだ異世界の森の中でさ迷う前、私が店長になってから約三ヶ月が経った、七夕のお話。
コンビニと季節行事は、切っても切れない関係にある。
店内ではどの季節でも、大体何かしらの季節行事の予約は扱っているし、行事に肖ったデザートやお菓子も多く置いてある。
おせちに恵方巻き、うなぎにお中元、ハロウィーングッズ、クリスマスケーキ等、例を挙げればキリがない程たくさんの予約や限定グッズで溢れている。
それなのに。
「なんで七夕だけ、特に予約も限定商品もないのかなぁ?今店に並んでるのって、夏のお中元とうなぎの予約だよ?七夕はどこにいったの?」
七夕まであと二週間程という頃の金曜日の夜。私は事務所で発注業務をしながら、レジに立ってくれている龍二に話しかけた。
雑談なんて不真面目に見えるかもしれないけれど、悲しいことに今日もまともにお客様がいないから許してほしい所だ。
「さぁな…てか七夕なんて、特に取り上げる必要もなくないか?イベントとしても盛り上がらないし、精々短冊書く位だろ、する事なんてさ。」
「そうでもないよ。七夕は短冊以外にも、笹飾りを飾ったり、素麺やちらし寿司食べたり、星を見たり、織姫みたいな素敵な恋愛をしたりって、やることいっぱいあるんだよ?」
「いやそれコンビニでできねーし…それにねーちゃん、それ全部ネットで今調べて言ってるだけだろ。」
「そ、そんなことないよ!?」
「いや、あるね!店で働くだけのねーちゃんが星だの素敵な恋だの、したことあるはずがない!!」
「言い切るのは酷くない!?……まぁその通りなんだけどさぁ……でも憧れる位はいいじゃん」
正直、私はホワイトクリスマスやバレンタインよりも、七夕の織姫と彦星の方がロマンチックに感じるから好きなのだ。
テロリロテロリロ。
「いらっしゃーませー!」
「あら、りゅーちゃん。今日も精が出るねぇ」
「清川様、りゅーちゃんは止めてください。」
常連のおばさんの声に、私も手を止めてレジに出た。
「清川様、こんばんは。珍しいですね、こんな遅くに。」
「あら亜里ちゃんもこんばんは。二人して毎日偉いわねぇ。ごめんなさいね、今日はお買い物じゃないのよ。」
清川様は店内を見渡して他のお客様がいないのを確認してから、本題を切り出した。
「実はね、うちにもう飾ってない笹飾りがあるのよ。良かったらここで使ってもらえないかと思って聞きに来たんだけど、どうかしら?」
「え?嬉しいですけど、お客様の私物を使わせて頂くのも申し訳ないですよ」
「いいのよ、使わないでしまい込んでおくよりも、ここで使ってもらう方がいいと思うの。私もご近所の皆さんもこのお店が大好きだから、是非お役に立てればって。」
「…そこまで仰って頂けるのなら、お願いします。ちょうど今二人で、七夕に向けて何か出来ないか話していたところなんです。」
「え?そんな真面目な話だったっけか、あれ。ただのねーちゃんの願望だろ。」
「龍二、そういう事をお客様の前で言わないで、恥ずかしいから」
「ふふ、相変わらず仲が良いわねぇ。じゃあ明日にでも笹を持ってくるわ」
「ありがとうございます!」
清川様がにこにこと素敵な笑顔で帰られた後、私は嬉しくて思わず龍二の肩を揺さぶった。
「龍二、聞いた?うちで七夕っぽい事出来るのよ!それに、お客様がうちのお店を大好きだって!!」
「わかった、わかったから。俺も横で全部聞いてたから!揺らすなよ、ねーちゃん!」
「あ、ごめんね。つい嬉しくて。」
「まぁ、ねーちゃんが喜ぶのも分かるけどよ。良かったな。」
龍二の肩から離した手をそのまま自分の顎に当てて、真面目に考えることにする。
「さて、笹飾りは外に飾るとして…のぼりを外して、その土台を使えば意外と楽に飾れそうだし。あと店内の窓とかに七夕っぽいイラスト書いて貼るでしょ、それから……」
「イートインの隅に、短冊書くスペース作ればいいんじゃね?そしたらお客さんも書いてくれそうじゃん。」
「龍二、天才!お客様の願いがお店を飾るなんて、素敵…!早速準備しなきゃ!」
頭の中で準備する物をあれこれと考えるだけで、とても楽しくなった。やっぱりイベントはこうでなくちゃ。
「あ、忘れてた。短冊が用意できたら、ちゃんと龍二もお願い書いて飾るのよ。」
「…え」
「じゃあ、ねーちゃん、先に帰るからな。働きすぎて倒れんなよ。」
「はい、お疲れさま。夜遅いから、気を付けて帰るのよ。」
「家すぐそこだっての。」
七夕当日の深夜。俺、龍二は仕事を終えて、一人きりで夜勤のねーちゃんを置いて店を出た。
出てすぐの所にある笹飾りが視界に入る。
あれからねーちゃんは忙しく店を飾り付け、あっという間に店内を七夕一色に染め上げてしまった。こういう事になると仕事早いんだよなぁ。
イートインに作った短冊スペースも意外と好評で、一週間もしない内に笹飾りは短冊でいっぱいになった。
『今度の試験でいい点が取れますように。』
『隣のクラスの○○君と上手くいきますように。』
『家族でいつまでも幸せに暮らせますように。』
エトセトラ、エトセトラ…
普段客数が少ない割には、かなりの数の願い事が集まっている。こんなに色々とお願いされても、織姫と彦星も対処しきれないだろうに。
『当店にいらっしゃるお客様方が、幸せで有意義な時間を過ごせますように。』
短冊の群れの奥の方に、見覚えのある丸っこい字が見えた。誰が書いたかすぐ分かるな…
一枚の短冊をポケットから取り出した。
二週間ずっと書け書けと急かされて、書いたもののとうとう当日まで飾らなかった短冊を、俺はそっとポケットにしまい直す。
こんな願い事聞かされても、あの星達だって困るだろう。
雲の向こうの遠くの星達と、俺の真後ろの明るい店内と。
交互に見てから、俺は帰宅した。




