契約!
みなさん、ただいま。フィロットです。
お仕事が始まっているので投稿ペース落ちてます。
今回は説明が多いので読みづらい部分があると思います。
多めに見てやってください。
「まずは諸君、入学おめでとう!」
自己紹介の後、校舎から離れた場所にあるドーム状の多目的ホールに移動し、学年集会が行われていた。
「見ての通り、この学校には様々な種族の者がおる。じゃが、儂の学び舎の中では皆等しく学生じゃ。共に学び、共に競い合い、共に助け合う仲間であることを忘れてはならぬ」
周りを見回してみると一学年だけにも拘らず、数え切れないほどの種族が集まっているのがわかる。
これだけの種族が集まることが許されるのは、どこを探してもこの王都くらいだろう。
「かつて、魔王がいた暗黒の時代。あらゆる種族と力を合わせ、勇者イルザルムと共に戦った大魔法使いウィルエスが建てたのがこの学校じゃ。どうかその名に恥じぬように励んで欲しい」
そして、アルトラ校長はこう締めくくった。
「あまねくものに栄光と繁栄があらん事を」
それはかつて、あらゆる種族を愛したウィルエスが遺した最後の言葉だった。
「うにゅぅ~・・・!!」
「ぐるる!ぐるぅ!」
「大丈夫かの?せれにゃー」
「おもい~・・・!!にゃ~・・・!!グーさん降りて~・・・!!」
「ぐる!?ぐるぅ・・・」
滞りなく終わった学年集会の後に教室へ戻り、一月分の予定表が書かれた紙と大量の教材、そして、部屋の鍵とその割り振り表が配られた。
今は重くなった荷物を持って自室へと向かっている途中である。
「やっぱり手伝うじゃ!」
「うにゃ、それはわるいよ・・・。私が強化系の魔法を使えないのがいけないんだし・・・うにゃっ!?」
そう答えたが、アピがしびれを切らしてセレンの教材を一部奪い取った。
「せれにゃーは元々荷物が多いじゃろ?それにじぃじも言ってたじゃ!私達は共に助け合う仲間じゃって!」
「うにゃ・・・!うん!ありがと、あぴちゃん!」
自分もアピが困っていたら全力で助けようと心に誓いつつ、自室がある三階へと向かう。
「それにしてもじゃ。複合魔法が使えるのに強化系の魔法が使えないとは珍しいのぉ?」
「あはは・・・」
複合魔法とは、身体に内包しているマナで、火、水、風、土、光、そして闇属性といった、六種あるうちの二種以上のマナを生成して混ぜ合わせ、一つの魔法にして放出する技術を言う。
属性を持たせないまま扱える強化系や変化形等の魔法よりも圧倒的に高度な技術であり、本来であればこれを扱えるほど熟達した魔法使いは身体強化など軽く扱えて当然であるはずなのだ。
「なんでかわからないんだけど、体に直接魔法を使っても効果が凄く薄くなっちゃうの・・・。かかってもすぐ解けちゃうし・・・」
「ほぉ、使えないというよりは体質で効果が出にくいということかのぉ?」
「うにゃ・・・リリねぇも諦めなさいって言うし・・・仕方ないから放出系の魔法を沢山練習してたの」
「なるほどのぉ・・・だから複合魔法が扱えるようにまでなったのかもしれないのぉ!」
「とっ、ここだにゃ!」
話している内に自室の前に着き、セレンが鍵を開けながらアピに質問する。
「アピちゃんは実家から通うんだよね?」
この学校は、とりあえず二人に一部屋ずつ割り振られるが、そこに住むか実家から通うかは自由なのだ。
アピの実家はここからかなり近い為、そこから通うのだろうとセレンは思っていた。
「ムムムッ!せれにゃーは一人の方が良いのかの?」
「うにゃっ!!もしかして、一緒に住んでくれるの!?」
「ふぉっふぉっふぉっ、せっかく一緒の部屋になったのだから当たり前だのぉ!」
セレンとアピには偶然同じ部屋が割り振られていた。
もしかしたら、二人同時に受け付けを済ませたからかもしれない。
「うにゃ!やったにゃー!」
「にゃー!」
「なかよしね・・・」
二人でバンザイをしていた手を下げて声の方を見やると、そこにはユアが教材を抱えて立っていた。
「うにゃっ!?ユアちゃんもこの階なの?」
「おとなりさん・・・」
そう言って指差したのはセレン達の部屋から一つ奥の部屋だった。
「うにゃ!よろしくね、ユアちゃん!」
「ん・・・」
「よろしくのぉ!それにしても、荷物はどうしたじゃ?」
「ひつようないから・・・」
「「?」」
ユアは教材以外の荷物を一切持っていなかった。
本人曰く、"必要がない"とのことだが、着替えとかはどうするのかなとセレンとアピの頭に大量の疑問符が浮かぶ。
「またね・・・」
そんな二人の様子に気付いているのかいないのか、話は終わりとばかりにユアはそそくさと自室へと消えて行った。
「・・・わしらも入るかのぉ」
「うにゃ・・・」
浮かんだ疑問を頭の片隅に押し込み、二人は自室に入った。
装飾のない真っ白な壁、ダブルベッドが二つとテーブルが置かれた広い部屋、大きめの湯船が置かれたタイル張りの浴室、様々な調理器具が揃ったキッチンなど、充実した部屋となっていた。
「うにゃ~!すごい!」
「思ったよりも充実しているのぉ!」
「ぐるぅ!」
グーがベッドに跳び乗ると、真っ白なシーツと共に深く沈み、小さくバウンドする。
「ぐるぅ!?」
「うにゃ!?ふかふか!」
「ほぉ!これはよいのぉ~」
グーが飛び込んだのを見て、二人も荷物を置いてベッドへ飛び込んだ。
「うにゃぁ~・・・離れたくないにゃぁ~・・・」
「ぐるぅ~・・・」
「このベッドは人・・・生き物をダメにするのぉ~・・・」
二人と一匹がふかふかふわふわなベッドでダラダラとしていると、玄関の方からノックする音が聞こえた。
「むむ?」
「ぐる?」
「うにゃ?誰だろ~?はーい!」
セレンは名残惜しそうにベッドから降り、客を迎える為に玄関へと向かい扉を開けると、そこにはユアが筒状に丸めた紙を持って立っていた。
「こんにちは・・・」
「うにゃ!ユアちゃんいらっしゃい!」
「あがっても・・・いい・・・?」
「もちろん!」
セレンは迷いなく、ユアを部屋に通す。
アピはベッドの上から長いうさ耳で玄関でのやり取りを聞いていたので、おもてなしの為に寝転がりながら自分のバッグの中に入っているお菓子を漁っていた。
「お帰りじゃ~!ゆあちゃんさっきぶりだの~!お菓子食べるかの?」
「おかまいなく・・・」
やんわりと断られたアピは紙袋に入ったビスケットをカケラをこぼさず器用に食べ始めた。
「せれん・・・あなたにわたしたいものがあるの・・・」
「うにゃ?渡したいもの?」
ユアは手に持っていた紙を広げてセレンに見せる。
そこに描かれたものにセレンは見覚えがあった。
「うにゃ!?これって・・・"白金契約陣"!?」
「むおっ!?」
「ぐるぅ?」
「これを・・・あなたに・・・」
「受け取れないにゃ!?」
「よく手に入ったのぉ・・・そんなもの」
セレン達が驚くのも無理はないだろう。
セレンは本で得た知識だが、契約陣は一般的にかなり高価な代物なのだ。
銀、金、白金とランクが上がる毎に契約出来る魔獣の範囲は広がるが、魔法陣はかなり複雑且つ難解なものになっていく。
白金ランクに至っては、王都でも作成できる人間は三人しかいないと言われており、買おうと思ってもフルーレ邸一軒分では雀の涙にもならない可能性がある。
もっとも、とある理由によって作られる事もかなり稀ではあるが。
「これはおそな・・・」
「「?」」
「・・・ひとからもらったの・・・。わたしにはひつようのないものだし・・・あつかいにこまってた・・・」
「こんなものをタダで渡せるような人間って一体何者じゃ・・・それに、聖獣なんてどこにいるじゃ?」
実は、金ランクと白金ランクの違いは聖獣と契約できるかできないかの差しかない。
聖獣などそうそう見つかるものでもないし、そもそも高難度の契約になるうえに一度使えば陣が焼き切れてしまう為、実質チャンスは一度きりだ。
この特性上、白金契約陣が作成されるのは武道大会等の催事に優勝賞品にしたり、各国の王族が伝統的に聖獣と契約する時くらいである。
「にゃ、グーさんがそうだよ。森の聖獣でもあり、守護獣でもあるの」
「ほぉ!?聞いてないのぉ!?」
「にゃはは・・・ごめん」
「すごいのぉ!ぐーさん!」
「すごい・・・すごい・・・」
「ぐるぅ?」
二人がそれぞれのテンポでパチパチと拍手しながら賞賛するが、当の本人はわかっていないらしく小首を傾げていた。
「そういえば、どうして私とグーさんが契約してないってわかったの?」
本来、人と魔獣の契約は他人にはわからないようになっている為、知る術は無い筈なのだ。
「それは・・・わたしもあなたとおなじ"みるもの"だから・・・」
「?・・・"みるもの"?」
「・・・」
どうやらこれ以上は答えてくれないらしいと判断したセレンは、気になりつつも脱線した話を戻すことにした。
「うにゃ・・・けど、本当にいいの?失敗しちゃうかもしれないよ?」
「あなたならせいこうする・・・。それに、つかってあげないと・・・どうぐがかわいそう・・・」
「うにゅ・・・グーさんはどうしたい?」
「ぐる・・・」
グーは三秒ほどセレンと見つめ合ったかと思うと、ころんと転がっておなかを見せ、来るなら来いとでも言うかのように勇ましく鳴いた。
「ぐる!!」
「グーさん・・・ふふっ、久しぶりに見たなぁ、それ」
セレンが今よりもずっと小さい頃、本気で悩んでいる時や泣いている時にグーはいつもこの仕草をしていた。
それが"許容"を意味している事をセレンはよく理解していた。
好き放題に伸ばされても、ぽかぽかと叩かれても、セレンが落ち着くまで決して抵抗せず、元気が出るまで側に寄り添ってくれるのだ。
「ぐるるっ!!」
「・・・わかったにゃ!ありがとユアちゃん。これ、使わせて貰うね!」
「ん・・・とてもしんらいしあってる・・・しんぱいはいらない・・・」
「うむ!妬いてしまうのぉ!」
セレンはこくりと頷いて覚悟を決めると、ベッドに白金契約陣を敷き、そこにグーを座らせて少しでも目線を合わせる為に床に座った。
アピとユアは邪魔にならないようセレンの後ろに少し距離をとって立ち、見守る。
祝詞はいつか必要になるからと定期的にリリエルから教わっている為、準備は万全に整っていた。
「それじゃ・・・いくよ!」
「ぐるぅ!」
セレンが契約陣にマナを流し込むと、部屋に淡い光が溢れ始めた。
契約陣にマナが十分に浸透した時、セレンが祝詞を謳う。
「我、祖の盟約をここに顕現し、契約の礎として楔を打つ者なり」
マナで書かれた幾重もの文字の羅列が二人の身体から溢れ出し、無数の鎖となってセレンとグーを囲んでいく。
「汝、祖の盟約をここに承認し、契約の印を刻みて楔を結ぶ者なり」
無数の鎖が二人の間に収束し、眩く光を放つ二つの小さな環となる。
「さすれば、祖は我らの悠久なる絆に祝福を与えられん!」
二つの光の環が重なり合った時、部屋が強い光に包まれた―
少し遡って、男子寮二階。
シャケとバスティが教材を持ったまま部屋の前にいた。
「シャケ殿、これからよろしく頼む!」
「お、おう・・・」
「余が鍵を開けよう!」
(こいつと同じ部屋とは・・・工房の炉の前よりも暑苦しそうだ・・・)
バスティの体格と声の大きさに辟易としながらこれからの寮生活への不安を抱かざるを得られなかったシャケに、鍵を開け終えたバスティがドアノブを回しながら問う。
「そういえば、君は魔技師志望と言っていたが、実家に工房があるのであれば実家通いの方が良いのではないのか?」
「いや、実家の工房は妹に譲ってこの学校の設備を使わせてもらうつもりだ。あいつは俺が来るといつも遠慮するからな・・・。気にせずに腕を磨いて欲しいんだ」
「うむ、実に良い兄妹愛だ!」
「・・・」
「?」
「・・・いつまでノブを掴んでいるつもりだ?この廊下にお前はデカいんだから早く入るぞ」
「む!そうであるな!」
バスティは一瞬、シャケの顔に影が差したように見えたが、いつまでも部屋に入らない自分に呆れていただけだろうと思い直した。
男子寮と女子寮は同じ造りの部屋となっており、中に入った二人も設備が充実していることに感心していた。
「うむ!悪くない!しかし、砂袋があればなおよかったのだが・・・」
「一般的な部屋に砂袋なんか置かれてたまるか!?てか、何に使うんだよ!?」
「無論、この筋肉を鍛えるためだ!!」
そう言って袖を捲りあげると、これでもかとばかりに力コブを見せつけてきた。
ギチギチと音を立てるバスティの腕からげっそりとしながら目線を逸らすと、長大な袋が目に入る。
「それ、あんたの武器だろ?随分とデカいな・・・」
「このくらいの大きさと重さでなければしっくりこないのだ。見てみるか?」
「・・・いいのか?」
「なぁに、どうせそのうち見せることになるのだ。それが少し早くなるだけ・・・」
「・・・?どうした?」
バスティが悩んで見せたのは一瞬で、すぐに目線をシャケに合わせて提案する。
「ふむ・・・どうだろう?一度手合わせしてはみぬか?」
「・・・はぁ?」
「その方がこいつの特性も理解しやすかろう。それに、余も君が腰に差しているその武器が気になるのだ!」
「い、いや、俺はそれを一目見られればそれでかまわ・・・」
「うむ!!善は急げだ!!今すぐ向かおうぞぉ!!」
「おいまて、この筋肉バカやめろ!?担ぎ上げるな!?降ろせぇ!!!」
今は玄関を出て扉を閉めた辺りで、そろそろ説得できなければ自分を担いだまま走り出していきそうな雰囲気が漂っていた。
シャケは頭を回転させ、荷解きが済んでいないことを思い出す。
「おい!まだ俺達にはやるべきことが残ってるだろうが!?」
「・・・っ!!おぉ!!そうだったな!!」
「そうか、わかってくれたか!じゃあ、早速・・・」
降ろしてくれと言おうとした次の瞬間に、シャケは唖然とすることになる。
「腹ごしらえだな!?」
「・・・は?」
「腹が減っては戦はできぬ・・・さすがはシャケだ!!まずは食堂へ向かうぞぉ!!シャケェッ!!」
「違うだろうがあああああああああ!?」
抵抗むなしく、バスティの地鳴りのような駆ける足音と共に、シャケの叫び声は虚空へと消えていった―
(うにゃ・・・?ここは、どこ?えと・・・ユアちゃんがお部屋にきて、それから・・・)
セレンが気付くと、周りの景色が真っ白に染まっており、なぜだか声もうまく出せない。
ぼうっとする頭で記憶を辿っていると、少しずつ光が収まり、景色に薄く色がついていった。
(ここって・・・エルフの・・・村?)
そこは紛れもなく自分が生まれ育った村であり、見間違えるはずがない。
(どうして・・・?あぴちゃんとユアちゃんは?グーさんは・・・どこ?)
周りを見渡しても誰もおらず、通行人もいない。
胸中の不安を押し込めながら、セレンはとりあえず実家へと向かうことにした。
(なんだろう?同じに見えて、どこか・・・少しずつ違うような・・・あれ?あのお店、家主のおばあちゃんが亡くなって取り壊したんじゃ・・・?)
セレンは、7年前に閉店して取り壊された筈の店が存在していることにひどく困惑していた。
気になって中を覗いてみると、黒い人型のもやが店の奥の方に立っていた。
(なにあれ・・・なんだか、嫌な感じがする・・・)
セレンは謎の恐怖に突き動かされ、速やかに店から離れて実家へと急ぎ足で向かった。
ようやく実家の前まで来たところで、中から人の声が聞こえてきた。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
(誕生日?)
誰の誕生日だろうかとドア開けようとするが。
(!?・・・触れない?)
手がドアノブをすり抜けて掴めないのだ。
恐る恐るドアに触れると、するりとすり抜けてそのまま家の中に入れてしまった。
(一体どうなって・・・うにゃ!?)
ドアをすり抜けてしまうことに混乱していたセレンだが、目の前の光景にそれどころではなくなってしまった。
(私とリリねぇと同じ銀髪・・・?それに、なんだか他人とは思えないような・・・。というか、誰も私に気付いてない・・・?)
世界に二人しかいない筈の銀髪のエルフの女の子がそこにいるし、時折目線がこちらに来るのに、誰も話しかけてこなかった。
いまだにぼうっとする頭でしばらく観察していると、銀髪の女の子に子供達が近づいてきた。
「今日で7歳だよね?おめでとう!」
「ありがと!」
「・・・しっかし、お前の髪本当に白いよなー。ほんとうにエルフかよ?」
「え?」
「やめなよ!」
「いや、だっておかしいだろ?皆金色なのにこいつら姉妹だけ白いんだぜ?ぜってー別の何か混ざってるわ」
「確かになー。周りの大人達もこいつには優しくしろだの守ってやれだの贔屓目に見てる気がするしよー」
「私達も・・・エルフだもん・・・」
「あんた達やめなさいよ!」
「てか、"親がいない"んだから厳密には姉妹とは言わなくね?」
「・・・っ!!」
(・・・)
このやり取りを見ていたセレンは、ここがどこなのか、なぜここにいるのか、何をするべきなのか、全てを理解していた。
「私は・・・私達はッ・・・!!」
(何も言えなかったんだ・・・)
「だって・・・私達は・・・だって・・・ッ!!」
(親がいないことを指摘されて・・・姉妹であることを否定されて・・・すごく悔しかったのに・・・)
「うわああああああああああ!!!!」
「待って!!」
銀髪の少女は言葉を吐きだそうとしては飲み込むのを繰り返し、やがて泣き叫びながらセレンをすり抜けて家の外へと飛び出して行ってしまった。
近くにいた大人達は、子供達の会話を聞いていなかった為、一体何が起こったのか理解できずにいた。
リリエルはきっと台所にいる事だろう。
(追わなきゃ・・・)
「あんた達!!」
(・・・!)
銀髪の少女を追おうとしたところで、先ほどまで庇っていた子が肩を戦慄かせながら男子達を睨みつけて叱責していた。
「サイッテー!!村長とリリエルさんにこっぴどく叱って貰うからっ!」
「ちょ、それは勘弁!?」
「あの二人はやばいって!?」
「問答無用よ!!」
「悪かったって!確かに言い過ぎた!」
「この通りだ、許してくれ!」
「謝る相手が違うでしょーがああああああ!?」
「「ギャー!ごめんなさーい!!」」
女の子が男子達を蹴り飛ばすのを見て、クスリと笑いながら外へと向かう。
家を出るとセレンは迷いなく道を選び、速足で歩いた。
銀髪の少女がどこへ向かったのかをセレンは知っていた。
目的地に近づくほど、世界が暖かくなり、濃く色づいていくのがわかる。
(大丈夫、近づいてる・・・)
辿り着いたのは、生命の樹の麓だった。
生命の樹の麓には一つだけ大きな天然の空洞部があり、木造の壁と扉で塞げられている。
セレンは、その扉に"触れた"。
(私達が生まれた場所・・・間違いない)
ゆっくりと扉を開けて中に入ると、樹の壁に生えた苔が淡く光って狭い道を照らしていた。
曲がりくねった道の奥へと進むと、そこには広い部屋があり、天井一面に張り巡らされた"魔石"が空間を優しく照らしていた。
「グス・・・ズズ・・・」
部屋の中心にある台座の前で、銀髪の少女が鼻をすすって泣いていた。
それを、セレンは静かに微笑んで見守っている。
「私だっで、お父ざんどお母ざん欲じいもん・・・!」
(懐かしいな・・・)
「お姉ぢゃんも私のごど妹だっで言っでぐれるもん・・・!お耳だっでぢゃんど尖っでるもん・・・!」
(悲しいことがある度にここにきて、言いたいこと吐き出して・・・)
「・・・帰る・・・」
(寂しくなっておうちに帰る・・・ここまではいつものことだった・・・)
「・・・?卵から音がする・・・?」
部屋の中心の台座には、握りこぶし二つ分の大きさの卵が置かれている。
生まれてから五年以上経っても孵化しなかった為、それ以降この部屋に安置したのだ。
その卵がパキパキと音をたてているのを銀髪の少女が見つめていると・・・。
「くるぅっ!」
「うわぁっ!」
中から小さな生き物が大きな産声を上げながら勢いよく卵の殻を突き破った。
「なに、これ・・・か」
「くるぅ?」
その生き物を見た銀髪の少女は、両手に乗せて優しく持ち上げると大きな声で叫んだ。
「か、かわいい~!!」
「くるぅ!?」
「あ、ごめんね。びっくりさせちゃった」
「くるっ!」
「私とお誕生日一緒だね!ねぇ、あなたのお名前は?」
返ってくるはずもない質問をしていることは承知の上らしく、何と呼ぼうかと思案していた。
「う~ん、なにがいいかな~?」
ぐぅ~!
「うぅ・・・」
思案していると、銀髪の少女と小さな生き物のお腹から大きな音が響いた。
「あなたもお腹すいてるんだね・・・あっ!そうだ!」
「くぅ?」
「あなたのお名前!」
そう言うと、小さな生き物を天高く持ち上げてこう名付けた。
「あなたは、"グー"さん!」
「くる!」
「わたしは"セレン"!よろしくね!」
(・・・!!)
世界が崩れていき、再び白く染まっていく。
しかし、小さなセレンと小さなグーはいまだ鮮明に映っており、"こちらを見つめていた"。
小さなセレンが微笑みながら、グーをこちらに向けると、グーが鳴く。
「ぐるぅ!」
「うん、わかってる。帰ろっか、私達の世界に!」
グーを受け取った瞬間に視界が完全に白く染まった―
「ほぉ!?どうなっとるじゃ~!?見えぬ~!?」
「あのこたちはいま・・・かたりあっているだけ・・・しんぱいいらない・・・」
「ほぉ、せれにゃーは動物さんの言葉がわかるのかのぉ!?うらやましいのぉ・・・」
「いまのは・・・ことばのあや・・・」
そんな会話をしているうちに、光が収束していき、二人の姿が見えてくる。
「せいこう・・・したみたい・・・おめでとう・・・」
「ほぉ!おめでとうじゃ!せれにゃー!ぐーさん!」
「・・・うにゃ!あぴちゃん、ゆあちゃん!ただいま!」
「ぐるー!」
「おかえり・・・」
「・・・?お帰りじゃ・・・?」
アピとユアにとっては少しの間の出来事だったのだろう。
仕組みを知っていたユアはともかく、アピはただいまという言葉に小首を傾げていた。
「これからもよろしくね、グーさん!」
「ぐるぅ!」
全て終わったのだと一息ついて、セレンがグーを抱き上げようとして異変に気付く
「・・・?あれ?まだ解けない・・・」
「ぐるぅ?」
「まだ終わってないのかのぉ?」
「そんなはずは・・・ない・・・」
しかし、契約陣はいまだに発光しており、グーにマナが大量に注ぎ込まれているのだ。
「あれ・・・?なんだかグーさん、大きくなってってない?」
「ほぉ・・・むくむくと・・・って、ペースが速くなってるじゃ!?」
「ぐりふぉんは・・・かなりじょういのせいじゅう・・・せんようのかみでも・・・ふぐあいがはっせいすることがある・・・」
「「それを早く行ってえええええええ!?」」
「ぐるぅっ!?」
徐々に大きくなっていくにつれて、グーが乗っているベッドのミシミシという音が聞こえてきた。
「グーさん止まってぇ!?」
「ぐる!?ぐるぅ!?」
「あわあわ・・・あわあわ・・・」
「ユアさん、落ち着いてるのか慌ててるのかわかりづらいのぉ!?とにかく、紙を破るじゃ!せれにゃー!」
「うにゃ!」
「あ・・・それは・・・やめたほうが・・・」
言い切る前に、セレンがビリリと紙を破ると、大量のマナが一気に放出されてグーめがけて殺到した。
「グーさん!?」
マナが全てグーに吸収されると、グーが光に包まれて急激に肥大化していく。
「うにゃあああ!?」
「まっずいのぉ・・・」
「やばい・・・」
肥大化が止まると、光が収まっていき―
ベキッ!!
「「「・・・」」」
「グルゥ・・・」
ベッドがひしゃげた。
「にゃああああああああああああああああああああああああああああ!?」
グーはセレンが悲痛に叫ぶのを見ると、大きくなった図体でゴロンと転がりお腹を見せて勇ましく鳴いた。
「グルゥッ!!」
この後、セレンがグーのお腹をぽかぽかと叩いたのは言うまでもないだろう。
はい、お疲れ様です。
実は今回、本文が9480文字あります。バカですね。
さて、祝詞の内容にちょっと違和感を感じた人が少なからずいると思います。
最後の「与えられん」これですね。
「これだと否定の文になるから与えてくれないことになるんじゃね?」と思った方、
「これが正しいのはわかるけど、なんだか違和感が拭えないわ」と思った方、
説明します。
まず、「与えられん」を昔の言葉使いで書くと、「与へられ『む』」となります。
この『む』は未来推量(~だろう)の意味であり、否定の意味はありません。
つまり、「与えられん」は「与えられるであろう」という意味になるのですん。
ね?違和感ないでそ?
はい、説明下手なの晒したので、旅に出ます。探さないで下さい。




