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ニートとか言ったって所詮ただの無職のプー

この小説はフィクションであり、実在の人物および団体には一切関係ありません。

 転職活動っていうのは、きっともっと切羽詰まっているか、気力が充実している人がやるもんなんだと思う。

 洗濯物を干しながら、空を流れる雲を眺めて黄昏ている私は、晴れてお局改めニートになりました。家事はやってるし、引きこもってないけど、主婦でも家事手伝いでもなく、完全にニートだ。

 退職願を出したのが7月の終わり、完全に退職したのは9月の末。辞めた時期も悪かったのか、夏が過ぎ秋が過ぎようとしているのに未だにどこからも良い話が来ない。

 空は高く染み渡り、雲の薄くたなびく空は去りゆく秋を惜しむかのように色を失っている。

 精神的に死亡中で真っ白な灰状態で叩いてもホコリひとつ出て来ないぐらい空っぽな私でも、生きている以上仕事は必要だ。

 試しに就活サイトに登録したら、無駄な経験値のせいで保険の外交ばかりお呼びが掛かる。損保なら扱ったことあるけど、生保の取り扱いなんて知らんし。

 窓口営業だって考えただけで吐きそうなのに、外勤の営業なんて絶対嫌だ。枕営業するぐらいなら、あのまま死亡フラグ回収しに原嶋係長に着いて行った方がマシだ。多分相手は紳士だから、お茶かお酒一杯で解放してもらえただろう。イケメンだし人当たりもいいから、女に不自由はしていなさそうだと思うし。

 化石のようなお局にだって人権はあるべきだと思う。

 無駄に毛並みの良い猫を被っているから騙せているが、基本今の私にとって他人は等しく車内広告以下の興味しか引かないただの景色でしかない。

 話し掛けられれば反射的に微笑むし、穏やかに応対することなど造作もない。踏み込ませない空間を作って、そこに感情の全てを押し込んでしまえば、そこにどんな感情が転がっていようと表面上だけは取り繕えるものだ。

 人間なんて、皆多かれ少なかれそうやって生きているんだろう。

 あの時誰か1人でも信じられていたら、あるいはあそこに至る前に何処かで別の選択肢を選んでいたら、それだけで私は今ここにいないのだろうと思う。

 でもそれは、全部結果論で過去はどんなに足掻いても過去でしかない。

 都合の良い〝もしも〟なんて、いつだって存在しない。

 現実ってヤツはいつでも苦くて酸っぱくて、決して口にしたくないような悪夢的な味がする。

 もしも私が幸せそうに満ち足りたように今でも微笑めるのだとしたら、私はあなたにそういう私だけを覚えていてもらいたいから。私は存外見栄っ張りだ。そして、救いようのない馬鹿だ。本当に、馬鹿だ。


「願わくば」


 それ以上声に出せず、口に出来ない言葉を心の中で続ける。

 あなたが、幸せにあなたの人生を生きていけるように。

 そして、私のことを思い出すことがないぐらい、あなたの世界が豊かであれば良いと思う。

 私は、一番助けが欲しい時に助けを乞えなかった。

 手を伸ばすことを躊躇ったままその手を握りしめて隠してしまったから、今更どうやって手を伸ばせば良いのかもわからない。

 全ては縺れて複雑に絡まり合った糸のようで、私はもうそれを解きほぐしたいとさえ思えずにいる。


「私って馬鹿だな、本当に大馬鹿だ」


 何度と考えても、言葉にならないグチャグチャの感情を表現出来る言葉がどこにもない。

 間違いだらけで、どこから正せば望む道を行けるのかもわからない。

 立ち竦んだ私は、差し伸べられた手を全て拒んだから、自分で歩き出さなければ前に進めないのに、どこに向かえば良いのかさえ途方に暮れている人生の迷子状態だ。

 情けなさ過ぎて逆に笑える。


「あーあ。ニートとか言ったって、所詮はただの無職のプーじゃん。プー太郎じゃん、だっせー」


 自分に自分でツッコミを入れても、元気なんて当然出ようはずもなく、ブーメラン状態で言葉がグッサリ刺さる。


「あーあ、ホントにダサいな、私」


 肌触りの良いブランケットに包まれて、無性に眠りたかった。

 ブランケットは人間のように、言葉で人を傷つけたりせず、静かにそこに存在して私を癒してくれる。

 ペットのように世話も要らず、責任も発生しない。最高だ。


「今度就職したらブランケット買おう」


 夢の中まで、現実は追い掛けて来られないから、せめて私は眠る間ぐらいは甘くて優しい夢を食べていたい。

 それぐらいは、許されても良いだろうか。

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