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中二病発言だと思っていた内容が、どうやら普通に存在していたらしい。

ルビが使えないのでこちらで名前等の読み方を…


兄は下弦(ゆずる)弟は菜吾(さいあ)


呪いは「まじない」と読んでください。

小さい頃から読書が好きで、気付いたらライトノベルにはまってて、小学生で「チート持ちになりたい」だの「異世界に行きたい」だの、所謂『厨二病発言』をしていたオレ伊井家の長男の弦。


この6月で14歳になったばかりの本物の中2男子だ。


中2なら厨二病発言してもいいじゃん♪と、痛い発言も許されるよね〜ってユルーイ感じで過ごしていたんだけど…



「はぁ?なんでそんな厨二病的な話を真顔でするわけ!?」


これ、オレの台詞ね。



向かいにいるのはオレの母親。


看護師でオレの厨二病発言をいっつもスルーして会話するって特技を持つ40歳。

若い頃はオタクの聖地にも足を運んだことがあるっていう元腐女子…本人曰く「そんなジャンルは初級ね。そこを越えてる私は発酵女子ね」とのこと。

その発酵発言よろしく大概の事には寛容で肝っ玉の座った人だ。



その母親と弟の会話が、さっきのオレの叫びに繋がる。



「だから、お婆様の跡を継ぐかも…って言ったの」


母親の言葉は、世代交代する仕事を引き継ぐってくらいの軽い言い方だったけど、問題は『引き継ぐ内容とその手段』なのだ。


「あのね…オレも大概、いやかなり痛い発言してるけどさ。

その跡を継ぐって方法は完全に厨二病発言なんだけど…」



「どこが?」


とは弟の発言だ。



「どこが…って、婆ちゃんから母さんに継いだら婆ちゃんはもう使えない『一子相伝』とか…まずは『呪い』って何だよ!!うちがそんな家系だなんてオレ聞いてないし!!」


興奮したオレの言葉に母親と弟のハモリが返ってきた。



「「え?知らなかったの?」」



知ってたらこんなに驚かないっての!!



まてオレ。


考えてみろ。

呪い使うやつなんて異世界にしか居そうにないぞ。

これって、いつも妄想に浸っているオレへのドッキリとかじゃないだろうか…。


オレは疑いつつ母親と弟の顔を交互に見つめるが、二人はそんな俺を気にすることなく、また会話を始める。


不自然さは無いと思われる。


てことは、二人が言ってる事は本当なのか…


本当なら、凄いことにならないか!?



「ぜひ、その話を詳しく!!」


いきなり身を乗り出してお願いするオレに、会話を中断した二人は呆れた表情を返してきた。



「それ、本気で訊いてる?」


「もちろん」



このキラキラした目を見てくれ!!

オレの頭の中にはリアルではあり得ないチートを持っている自分の姿が…

あーんな事やこーんな事も出来ちゃうんじゃ…

うちの家系って凄いかもしれない!


「今さ、もしかするとうちの家系って特別だとか思ってない?」


母親に溜め息をつかれてしまった。


なぜバレた。


「いやぁ、あまりに衝撃的過ぎて…そんなの一言も話してくれないしさ」


興奮しているオレを弟の冷たい視線が刺す。



「妄想止まらないところ悪いけど、婆ちゃんの呪いの話は普段から何度も話してるんだけど?」


なに?

そんな話聞いたことないぞ。


「聞いてないって思ってるでしょ」


なに?

何でオレの気持ちが分かるんだ弟よ。


いつもはオレが懸命に言葉で気持ちを伝えても、分からないって顔してスルーするだろう?



まさか…


これも何かのチートなのか?


「菜吾…まさかお前だけお婆様から能力を受け継いでいるとか?」


オレの脳内で発展した妄想が言わせた発言に、母が困った顔をした。


やば…なんか変な雰囲気になってしまった。


「あ、いや…

「そうなのよねぇ。私じゃなくって、菜吾に継がせたいって言い出してるのよね」


ちょっと待て、そんなベタな展開になっちゃうの!?



ベタ過ぎる。


兄弟でも下の方が上を凌ぐ能力の持ち主って、ライトノベルじゃよくある設定だけど…



「ホントはね。お婆様から千恵ちゃんが継ぐはずだったんだけど、千恵ちゃん本業が忙しいでしょ。それで千恵ちゃんが私ならどうかって、お婆様に言ったみたいなの」


千恵ちゃんってのは、母親の母親だったりする。


オレら兄弟が婆ちゃんと呼んでる人物は、母親からみての祖母、つまりオレらの曾祖母なのだ。


はい、ややこしくてすみません。


周りにも誤解されてます。


それもこれも「婆ちゃん」って呼ばれるのを嫌がって、幼いオレらに名前呼びを刷り込んだ千恵ちゃんがわるいんだ!!



あ…いや、それは今関係ない話だ。


それより母親の話を…


「でも、私より菜吾の方が素質あるみたいなのよね」


続けられる母親の言葉にオレは落ち込んだ。


まさか、オレら兄弟もそうだと!!


所詮、兄は弟に屍を踏まれ超えられる為の踏み台なのか…



「この間あんたも一緒にお婆様の家に行ったでしょ。あの時お婆様が呪いしてる時に菜吾が傍で見ていたらしいの」


やはり、チートであれやこれや出来るのは弟だけであって、オレは…


オレの存在はまるで脇役じゃないか。


「その時に菜吾ってば、お婆様の呪いの言葉を一緒にに呟いていたそうなのよ。」


あの時すぐ傍でそんなことが行われてるなんて思いもせずに、オレは…


「兄さんも近くにいたけど、本読むのに集中してたからね」


オレって、ダメじゃん。


ライトノベルでチートについて沢山学んだはずなのに、周囲でチート持ちが活躍していることに気付けないなんて…


もしかして、オレって名前すら出てこないモブなのか!?


「オレだとダメなの?」


思わず漏れてしまったオレの心の声に、二人はまた呆れたような表情でオレを見た。


「だって、何を継ぐのか分かってないでしょ?」


え?

だから、我が家の秘密の呪い師のチートを受け継ぐんだよね。


違うの!?




だって、婆ちゃんの呪いの仕事を継ぐって話をしてたよな。



「あのね弦、呪いの仕事ってのはこの地域に伝わる民間療法の1つなのよ」


民間療法?


それって、西洋医学の様に効果に裏付けがない怪しい治療を行う…って、あれ?


「その…婆ちゃんのする呪いって何?」


そういや、言葉の衝撃に惑わされてて大事な中身を聞いてなかったよ。


オレは改めて母親に質問する。



「どんな事が出来るわけ?」


答えは弟がくれた。



「自家中毒とかアレルギー反応とはちょっと違うんだけど、そんな風に自分の免疫が自分の体を攻める反応を落ち着かせるのが呪いの力なんだって…」



それって…


「うーん。兄さんに解りやすくゲーム内の能力で言えば、ヒーラーかな。


外傷を直接治すんじゃなくて、本人の持ってる治癒能力を高めた結果で病気や傷が治るってやつ」



治癒能力を高める?


呪いで治癒能力を高めるってだけで、凄いことだよな…


ドキドキと気持ちが浮上してくる。



「それ凄くないか?その症状だけでも治せるんだよな」



「だから、あくまで民間療法なんだってば。

ご近所さんの口コミで呪いを希望する人に無料で施術するだけだから…

必ず効果があるとは限らないみたいだしね。

まぁ、お金取ってないし、効果があればラッキーみたいな感じだよね」


なぬ。


聞き捨てならぬ言葉が聞こえたような…



もしかして、それはプラセボ効果を狙ったただのオマジナイってやつなんじゃなかろうか…


「それは呪いって言うか…信じる人は救われるかもしれない『痛い痛いの飛んでいけー』で痛みが消えるってレベルの話だよな」


「まぁ、人に寄っちゃそんなもんだよね」




なぁんだ。


もっと高度な呪いかと思っていたのにな…



興奮したのにオマジナイだったのか。


やっぱり厨二病的な話はリアルにはないってことだよ。



オレってば恥ずかしいやつ…




「ところで兄さん…一体何を想像してたの?」


顔が赤くなったであろうオレを見て、弟が逃げは許さないと言うような表情で訊いてくる。


「あ、えーと…」




「ねぇ、聞かせてよ」



にっこり微笑んでるけど、お前絶対何を想像したか知っていてバカにしてるだろ!!




「兄さん、教えてくれないの?」


えーい!

なら聞かせてやろうじゃないか!



「いや、なんだ。

呪いなんてラノベにあるような言葉が出てきたからさ、なんか凄いことが出来るんじゃないかっておもったり…

あー…

飛躍して、うちの家系って異世界人の子孫だったとかありえたりするのかなぁ…


なんて頭に過ったり。


ははは…」


「…」




あれ?


一瞬、弟の表情が変わったように見えた…ような?


いや、いつもと一緒か。




笑顔の弟とひきつり笑いのオレの様子を見て、空気を読まない母親が言った。


「何を見つめあっちゃってんの?

相変わらず弦も菜吾も仲良し兄弟だわね♪」



ですよね〜。



もしも、オレが想像したような話がオレの家族に起こってたとしたら、流石の母親もこんなに能天気な態度なわけないよな。



オレだけがチート妄想に振り回された日常会話は、そんな感じで終了した。




だかオレは諦めないぞ!



いつかきっと…


自力での異世界トリップとチート獲得してやる!!





↑↑これにて本編終了↑↑



↓↓番外編♪↓↓



うちの兄さんはちょっと変わっている。



昔から絵本や物語が大好きで、文字を読めるようになる前から読み聞かせで覚えた物語について語りだし止まらない幼児だったらしい。


確か…兄さんがラノベにはまり出したのは小学3年の誕生日だったはず。

あれは…千恵ちゃんが本屋さんのお薦めで買ってきたプレゼントの本だった。


その頃から特に妄想に走る傾向が強くなった気がする。



とにかく何か困ることがある度に、溜め息をつきながらこう叫ぶのだ。




「あーあ、誰かオレを異世界に連れていってくれ!!」

とか


「オレがチート持ちだったら…」



って。




もはや物語というより妄想に浸った話を、僕や母親が呆れた顔をしているのにも気付かずに語り続けたりする。



まぁ、家族とか同じ趣味の仲間にしかそんな態度を見せないから、ご近所さんからは真面目な中学生って思われてるようだけどね。





それと、兄さんは現実で起こることにあまり興味がないらしい。



学校や周囲であった話より、本を読んだ感想や妄想を話したがる。


そして一緒に会話したいからと、僕にも読ませようとする。



まぁ一応、兄さんが持ってる本は全部読んでるけど…僕にはあそこまで語れる気持ちは正直分からない。




そんな兄さんが婆ちゃんの特殊な仕事に気付いた。



いつもは本に夢中になり、母親と僕の会話には興味を持たないのに…



「はぁ?なんでそんな厨二病的な話を真顔でするわけ!?」



と訊いてきた兄さんは、完全に脳内にラノベの世界が広がっているとみた。



それから色々と話したのだが、兄さんの反応はとにかく浮かれ過ぎだった。


そんな兄さんだからこそ、言えない事がある。




うちの家系ってホントはね、兄さんが想像したとおりなんだよ。



僕らの御先祖に異世界からの転生者が居て、記憶にある異世界チートを使えるようにしたのが呪いなんだ。



呪いで治癒能力を高めるのは本当で…、ただそれが周りの精霊の力を借りて行う儀式だったり、実は精霊の力で相手の気持ちや未来を視ることも出来たりする。


一子相伝なのは、精霊と一対一で契約をしている為だし。



そんなチート家系だって知ったら、兄さんはどうなるかな?



隠し事が出来ない人だから、誰かに喋っちゃって話が流れて…

おかしな人間だと思われるかもしれないね。



実を言うと、この事は母さんも知らないことなんだ。


代々力を引き継ぐ者…つまり婆ちゃんと、次の後継者となる僕だけの秘密だからさ。




異世界とかチート持ちとかに一番憧れているのは兄さんなのに…

教えてあげられなくてごめんね、兄さん。




拙い文を読んでいただきありがとうございました(^^)



兄弟の名前は「いい加減」で「良かなぁ」からの適当な当て字です。


兄弟の御先祖か、弟が主人公(当然兄はモブ…)の作品が書けたら良いなぁと思っています。

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