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魔王が駆け落ちしたので関連作

魔王が駆け落ちをしたので後始末を押し付けられた妹殿下の話 その後4

作者:

人間と魔人。


両者は同じ創造主から生まれよく似た姿をしていた。


だが、両者は色々と違う箇所があった。


先に生まれた魔人は巨大な力と長い寿命を持っていたが人間は魔人ほど力もなく寿命も百年ほどだった。

兄とも言える魔人は度々弟である人間をかまっていたが彼らの基準では遊んでいるだけでも人間からしてみればはた迷惑というか命に関わることが多々あった。


そして出来の悪い子ほど可愛いというか末っ子に弱いのが母親なのか女神は盛大に人間びいきであった。それこそ虐め過ぎた魔人をお仕置きする「勇者」を生み出すぐらいには人間を溺愛していた。


「勇者」のお仕置きに対してあるとき、一人の魔人が母である女神に問うた。


「女神よ。貴女にお聞きしたい。何故、殺すのではなくあのような………言葉には出来ない罰を選ばれたのか」


女神は笑顔で答えたという。


「あら、殺すだなんて物騒だわ。悪さをしたわが子を殺す親がいて?確かに人間は可愛いけど貴方たち魔人だった可愛い私の子供なのよ?」


「女神………」


「それに。二度と悪さをしないように躾けるには相手が泣いて嫌がることをして弱みを作って大人しくさせる方がいいでしょ?」


コロコロと鈴が転がるような声で怖いことを言う女神に魔人の顔が強張る。


それはわが子にする躾ではありません。


そんな突っ込みを質問をした魔人は飲み込んだとか飲み込まなかったとか。


冗談のような伝聞を残す「勇者」のお仕置き。それは現在、魔王領のとある国の魔王城で始まろうとしていた。



死屍累々。そんな言葉が妹君の頭に浮かぶ。王の間、その玉座を挟んで妹君は勇者と対峙していた。

動くものは勇者と妹君以外いない。倒れ伏した部下達の周囲には赤い血が飛び散っておりその禍々しい色を目に捉えながら妹君はお仕置きがなぜあそこまで歴代の魔王たちに恐れられていたのか実感していた。


こんなの耐えられるわけがない。今にも発狂しそうなほどだ。


「………こんなことをなぜ、実行できるのよ!!」


苦痛が滲む声で呟く妹君を見下ろしながら勇者が嗤う。その手に握られた聖剣によってところどころ露出させられた肌。屈辱からか切っ先を突きつけられた妹君の白く細い喉は真っ赤に染まっていた。

しかし王族としての矜持からか決して俯かず、暗さをたたえた紅の瞳が涙に濡れながらも勇者を映し、鋭く細められた。


「恥を知りなさい!」


地に足を着かされようとも部下が全て倒れても決して屈しない妹君の姿に勇者が楽しげにクツクツと喉の奥であざ笑う。

何も出来ない、完全に無力化させられた挙句の屈辱。

泣いて許しを請うてもいい状況でありながら尚も屈しない妹君に勇者は嗤いながらも興味を覚えていた。


さて、何がどうなっているのかを知るためには時を少しばかり遡る必要がある。



様式美を無視した勇者の襲来に大慌てになった妹君達は取り合えずは勇者をどうにかしなければと、一計を案じた。


それが妹君が作り出した魔王様の幻影(実体有り、ちゃんと触れます)を勇者と戦わせ、取り合えずお仕置きはその幻影にしてもらおうというものであった。


侵略やら革命やらお姫さまの奪還やら問題は当面、見ない振りである。最低限のことはしているが今は勇者の相手の方が急務であると判断したのだ。


「勇者の情報来ました!」


幻術を掛け終えた妹君は部下の持ってきた勇者に関する情報に目を通す。


勇者 ササライ。驚いたことに魔王が(無理やり)駆け落ちした相手の弟、つまりは一国の王子らしい。第三王子であるために王位継承権こそ低いが能力は高く評価され、魔術の才も高く………。


と、読み進めていた妹君はとある一文ではたりと固まった。


「シリル様?どうかされましたか?」


ごしごしと目を擦り、何度も書類を見返す妹君に近くにいた部下が不思議そうに首をかしげた。


「え、記載間違い?ゆ、勇者の………年が………」


わなわなと震える指でその箇所を部下に示そうとしたその時。


『勇者!魔王城到ちゃ………うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


飛び込んできた伝令と悲鳴と城を揺るがす振動と爆音はほぼ同時。


伝令用の声伝えの玉から伝わってくる爆音にその場にいた魔人全員が厳戒態勢に入り、部屋の中央に置かれた監視用の遠見の鏡に視線が釘着けになった。


鏡に映し出されたのは城門付近。門をぶっ飛ばしたせいか立ち上る土煙の向こうに見える人影が一つ。

その人影がふっと手を上げるような仕草を見せると同時に風が土煙を吹き飛ばし視界を鮮明にする。


「なっ!」

「え?」

「うそだろ………!!」


堂々と城門から入ってくる勇者の姿に魔人たちは呆気に取られる。


日の光を反射させ、キラキラと輝くのは姫と同じ美しい金髪。湖水の底を思わせる深い青の瞳。そして腰に下げられた剣からは強大な神気が感じされられる。

間違いない。彼が、当代の勇者。


だが、しかし………!


「当代勇者、御年十三歳って………記載間違いじゃ、なかったんだ………」


「「「「十三!!!!」」」」


驚愕の事実に魔人の声が揃って突っ込みを入れる。


当代勇者 ササライ。御年十三歳。史上最年少で勇者に選ばれた少年は遠見の鏡の中で微かに笑っていた。

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