第97話:雨(後半)
第九十七話
雨は止まるところを知らない。
「しっかし、降りやみそうもないからなぁ」
他の生徒たちは有楽斎の近くを通って帰宅を始めている。残っている者たちも意を決して走り出す者の方が多い。
そんな時、有楽斎の目の前に三年の腕章をつけた一人の女子生徒が現れた。
「あら、吉瀬君じゃない」
「御手洗先輩っ」
いや、待て。まだ喜ぶには早いぞ……有楽斎は御手洗花月を上から下までじっくりと見るのであった。
「人がいるところで何をじっくり見ているのかしら」
「御手洗先輩、傘持ってますか」
「傘……ええ、雨が降るって言っていたから持ってきているわよ」
折り畳み傘を鞄の中から取り出して有楽斎に見せる。それをみて有楽斎はガッツポーズをとるのであった。
「御手洗先輩…傘にいれてくれませ……」
「あ、おにーちゃーんっ」
もう少しで家に濡れずに帰ると言う事が出来たのだが、最後の方で運が無かった。もし、真帆子が傘を持っていたら助かったのかもしれないが……残念ながら真帆子が傘を持っていないのは朝に確認されている。
「真帆子……」
「傘忘れちゃったっ。だからお兄ちゃんの傘で相合傘して帰ろうよぉ」
さすがに妹を見捨てて帰ることなど出来ない。有楽斎はこれまで生きてきた中で一番頭を働かせた。
そして、頭の中で電灯が光輝いた。
「御手洗先輩、悪いんですけど僕の妹を近くのコンビニまで入れてやってくれませんか」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます……真帆子、真帆子はコンビニに行ったらビニール傘を買うんだよ」
「え、う、うん」
有楽斎の気迫に負けて真帆子は頷いている。
「じゃあお願いします」
有楽斎は二人を満足げに見送るのであった。どこか真帆子が不思議そうな顔をしていたのだが有楽斎には作戦の成功を信じていた。しかし、そこで伝えることが足りないのではないかと考えなおす。
「………近くのコンビニに傘を買って戻ってきてほしいって言わなくても……わかってるよねぇ……」
近くを通った女子生徒が有楽斎の方を一度だけみたが、首をかしげて後者を後にしたのだった。
「いつも真帆子は『お兄ちゃんと心は繋がっている』って言ってるもんね……はは、大丈夫だよ、僕」
真帆子が有楽斎のところに戻ってくることはなかった。
再び有楽斎は頭を回転させ始めた。右に傾けたり、左に傾けたりしていい案が浮かばないか粘ってみる。もはや妹に頼るなどと言う非現実的な事は考えないようにした。携帯を使えばいいのだが、こんな日に限って忘れてきている。
「………ああ、そうか」
ぽんと手を叩いて有楽斎は鞄を掴む。
「二本を足にして残り四本で天井を作るっ……これほど完璧な作戦はないな」
羽津高校の近隣で化け物が出たという噂がたった。二足歩行で民家の屋根をすごいスピードで駆け抜けて行ったそうだ。
噂のアマガエルかもしれないと騒がれたが、妖怪だと誰かが断言したそうである。