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第90話:単なる噂

第九十話

 衣替えが行われるまでの冬用制服は当然ながら暑い。近年の温暖化の影響と言う事で衣替えの期間が大幅に前倒しとなった。

「お前の肌って白いなー」

「ああ、まぁ、あれだよ。紫外線対策はこれでもしっかりしているほうなんだ。いやいや、ナルシストってわけじゃないよ。普通に肌が弱いんだよ」

「ふーん、まるで雪女みたいだな」

「男だよ」

 窓の外を眺めながら有楽斎はため息をついた。

「それによ、お前が近くにいると涼しいんだよなぁ」

「ああ、それもあれだよ、あれ。きっと身体からマイナスイオンが出ているからだと思うよ」

「それはないな」

 くだらない話をしていた二人だったが、野々村雪が視界に映るときりっとした表情になった。

「やぁ、おはよう野々村雪さん」

「身だしなみもしっかりしているぜ」

「え、お、おはよう……突然どうしたの」

 数日前、雪とその他の友人が廊下を歩きながら話をしているのを偶然有楽斎、友人の二人が聞いたのである。相手にばれないように廊下に貼りついて二人は聞いていたのだ。

『野々村さんとよく話をしているあの人ってかっこいいよね』

 相手がどんな女子生徒だったか確認しようとも思ったのだが、教師に不審な行動を問いただされていた為に不可能だった。

 有楽斎と友人は話し合った結果、いずれその女の子がメインヒロインに昇格されるのではないかと踏んでいつ現れてもいいようにきりっとした表情をしているのである。

 高嶺の花より少なからず現実的な正体不明の美少女(仮)の方がいいと二人とも考えたのである。

「有楽斎、言っておくが……一日目から呼び出して告白するのはやめておけよ。お前はこの前のうわさがまだ拡散しているからな」

「ははっ、何を馬鹿なことを……大体、友人が一日目に告白なんてしたら大変じゃないか」

 表ではにこにこと仲よさそうな感じで接しているのだが、裏ではこんなやり取りが行われていたりする。

 まぁ、現実的な見解と言うか……第三者からは『まだあの二人野々村さん狙ってるんだぁ』『絶対に無理なのに諦め悪いね。ストーカーとかになったらマジで気持ち悪っ』といった意見が出てくるだろう。

「頭がいい、優しい、顔がいい、運動神経……ちょめちょめが素晴らしい……友人、君にこの内容は荷が重いから僕に任せておいてね」

「何言ってるんだ。野々村さんが俺にわざわざ紹介してくれる美少女だ。今なら夏服も拝めるって事で絶対にチャンスは逃さんぜ」

 ひそひそと話していたところだったので雪はちょっと引いていたりする。

「な、何の話をしているのかな」

「いやいや何も」

「有楽斎は独り言なんて呟くやつなんですよ。朝来る時もぶつぶつ言ってました」

 雪は友人の言葉で何かを思い出したようで両手をパンと叩く。

「あ、有楽斎君…明日も遅くなるから早く行っていていいよ」

「うん、大丈夫だよ」

 二人がそろってあほなことをしていると朝のホームルームを告げるチャイムが鳴るのであった。

「おらー、お前ら席につけー」

 この教室を担当している教師の鬼塚霧生が入ってくる。

「出席を取るからなー」

 そういって出席を取って行く。いつものように野々村雪の時だけは『雪お嬢様』と呼んでいた。

「…はい」

 恥ずかしそうに返事をしている雪を見て有楽斎はいつものように首をかしげる。話には聞いていたのだが、あの体躯のよろしい教師は信じられないことに雪の執事だそうだ。

 有楽斎の視線に気が付いたのか雪は苦笑いをしていた。

「いつも呼び捨てでいいって言ってるんだけどね、呼び捨てじゃ絶対に呼んでくれなくてさ」

「え、あ、そうなんだ」

 正直、どうでもいい事だったのだがちゃんと返事をしておくことにする。まだ見ぬ美少女の為でもある。

「お嬢様って言うのもは大変なんだねぇ」

「うん、結構大変なんだ」

「そうだよねぇ、よくよく考えてみたら全然住む場所違うし話すこと自体ない存在だなぁと改めて考えさせられたよ」

「うーん、でも自然体で接してくれると嬉しいけどな」

「貴族ってうまー棒を袋から取り出して皿にのせてからフォークとナイフで切り分けて食べるって聞いたけど……本当かな」

「いや、そんなことしないよ」

「あ、なるほど。そっか、そうだよねぇ…まずうまー棒なんて食べないか」

 有楽斎がそこまで言ったところで白い棒が頭に刺さった。断じてうまー棒が頭に刺さったわけではない。

「私語をするな」

「すみません」

 頭からチョークを引っこ抜いて机に置く。

「ご、ごめんね有楽斎君」

「気にしなくていいよ」

 たとえ痛みを受けても恨み事は言わない有楽斎であった。

 さわやかな美少年を演じる為、彼は日夜努力してきたのだ。

だが、残念なことに次の日には雪に対しての対応は普通に戻っていたりする。

「あ、おはよう。友人、雪さんが来たよ」

「ふーん」

「えーと、なんだか二人とも昨日と対応が違う気がするんだけど…」

「高校二年生なんてこんなものだよ」

「俺もそう思う。中だるみだからなー」

 何の事はない、雪の友人がかっこいいとか言っていた相手がクラスの担任の鬼塚霧生だったと言うオチだったのだ。


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