第9話:立ちはだかる双子
第九話
いつもの通りに学校までやってくると校門前に腕組みをした双子さんがたっていた。表情は険しいが、ポーズも決まっていたので絵になると言えば絵になる。
「………」
無論、その二人がどこの誰で、どんな性格をしているのかしっかりとわかっていた有楽斎は気がつかれる前に回り道をして学校へと入ったのだった。
「………誰かを待っているんだろうか」
ちなみに、この時点で自分を待っていたという事実を有楽斎は予想だにしていなかったりする。ああ、また朝から面倒なことになるなぁ、面倒だけど回り道したほうが精神的な面倒を回避できるからそっちのほうがいいや、そう考えていたのだ。ちょっと思考が他人よりずれ気味なのは仕方がない。
一時間目も終わって友人とだべって平和を満喫する有楽斎。
扉がものすごい音を立ててスライドタイプなのに有楽斎側へと倒れてくる。
「ひっ」
急いで逃げると、倒れた扉の向こうにはそれはそれは、恐ろしいお譲さま方が有楽斎に熱い視線を送っていたのです。
「あ、あ、あ、お、おはよう」
「………」
「………」
静かに近寄って、有楽斎の胸倉を二人でつかむ。そしてそのまま引きずられそうになったが有楽斎も頑張った。
「って、なんで俺を掴むんだよっ」
「ヒトリ、イヤダ、ヒトリ、サミシイ、ヒトリ、コワイ」
「何があったかは知らんが、お前が悪いと俺は思うっ………じゃあな、有楽斎っ」
「ぎゃあっ」
お股を蹴りあげられて手を離した有楽斎は再び引きずられ始める。白目をむいて泡を吹いているところをみるとまさに、急所に当たったとしか言いようがないだろう。
―――――――
「で、説明してくれるかしら」
「え、何の」
後者裏側まで連れてこられた有楽斎に二人の鋭い視線が飛ぶ。どのぐらい鋭いかと聞かれると返答に困ってしまうが鋭角を想像してくれるといいかもしれない。
「これの、説明よっ」
「いたっ………あ~これ、写真なんか撮ったっけ」
頬に張り付けられたのは霜村雪と一緒に買い物をしている時の一枚だった。幸せそうな表情をしているとこれを見た十人中九人が感想を漏らしてくれている。
「うらくんがまさか浮気をするだなんて………」
「ははぁ、浮気も何も僕と君たちの間には何もなかったじゃないか」
面倒、というよりもなんで僕はこんな目に会っているんだろうかと真剣に悩み始める有楽斎。しかし、そんな悩んで答えが出るなら全世界の人たちが悩み、苦しんで世界は平和になっているはずである。
「はぁ、あのね、私たちとあんたは許嫁でしょ」
「“元”だけどね。今じゃもう同じ学校に通っている生徒ぐらいでしょ。知り合いって言ったほうがいいかもしれないね」
じゃあねと帰る有楽斎を理沙は止める。
「あんたね、あんたにとって私たちはどんな存在だったのよ」
本格的に夏はまだ来ていないが、夏を感じる風が三人の間を通り抜けていく。
「………そっくりそのまま言葉を返すよ」
そう言われると里香、理沙の二人は見つめ合って順番に答えた。
「持っていると非常に他人から羨ましがられる一種のステータスって感じ」
「持っていると絶対にお金持ちになることが出来る金の成る木」
「君たちが変わらない君たちであることを僕は祈っているよ。じゃあね」
さっさと校舎裏から逃げ出す。もちろん、伸びてきた理沙の手もするりと逃げることが出来た。
―――――――
「あ~あ、なんで僕の周りの異性はああいった性格の人が多いんだろうか」
自分の知らないことを他人に聞くのはいいことなのかもしれないが、それはそれ、これはこれである。こんな質問をされても『知るか、というかお前は女の知り合いがいない俺に対してのあてつけでもしている気なんだろう、え、ほら、違うんなら何か言ってみろよ』と言われるのが落ちであろう。
「どうかしたの、野々村君」
「あ、御手洗部長」
曲がり角から姿を現したのは御手洗花月であった。一角を占めている花月に先ほどのような質問は出来ないだろう。しかし、他に聞けるような相手もいなさそうだったので話を変えて質問することにした。
「実はですね、僕の知り合いに悩みを持っている人がいるんですよ」
「へぇ、それで相談に乗ってあげたということね」
よし、掴みはオーケーだ。
「はい、そうなんですけど難しくて。御手洗部長の意見を聞かせてもらえると嬉しいんですけど」
「いいわ、暇だから」
「じゃあ、いいますね。その人の周りには性格的に面倒な子が三名いるんですよ」
当然、性格が普通だと思っている霜村雪の事はカウントされていない。一番非現実的な存在なのだがまぁ、いいだろう。
「ふむふむ、どういった感じなの」
「え、えーとですね」
これはまずったな、性格を言ったらばれそうだけど、気がつかないことを祈ろう………有楽斎はついでにばれたときの言い訳も考えることにする。
「………やることなすこと、破天荒な感じの人にその人物を金づるとしか思っていない人、そして自分の魅力をあげるためだけにその人物を欲している人ですかね」
「ああ、最初の一人は知らないけど残り二人だったら野々村君の周りにもいるな」
「そ、そうですね。最初の一人はいませんよね」
あなただよとは口が裂けても言えなかった。
「まぁ、可愛い後輩のためだから答えるけど、それはちょっと一方的すぎるかなぁ」
「え、そうですか」
「悪いところだけしか見てないって可能性があるもの。野々村君、私のいい所を言ってみて」
「えっと、最低一つで勘弁してもらえますか」
「いや、最低十個はあるでしょ」
そこまで自信があるんですか………有楽斎は悩みつつ、いい所を考える。
「ええとですね、スタイルがいい」
「ふんふん」
「頭がいい」
筆頭であると他の先輩から聞いたことがある。
「運動神経もいい」
「ほーほー、他はどうなの」
「白旗を振ります」
大体こんな人のいい所をあげろなんてそれぐらいしかないんだよなんて口が裂けても言えなかったりする。
「野々村君がこれまであげ連ねたのは他の人でもわかるいい所ね」
「………まぁ、そうですね。目に見えてわかるってやつですか」
「ええ、そうね。だからその人はまだしっかりと人を見ていないのよ。相手のうわべだけを見て判断している節がある。その人に会ったらそう伝えておいてくれるといいわ」
「……わかりました、ありがとうございます」
「いいのよ、可愛い後輩のためだから」
初めて先輩に見えたと後に有楽斎は語っているが、その日の放課後、二時間ずっと愚痴を聞かされ続けた有楽斎は撤回しようかと考えたりもするのだった。