第87話:席替え
第八十七話
朝のホームルームが始まるまでの時間は各々好きなことをして過ごしている。
「ジョニー、大五郎……我々は連日負け越している」
「ああ、わかっている。ヘルベルトの言うとおりだな」
「だが、俺たちは信じる道を進むしかないんだ」
「そうだ、大五郎よく言った。放課後、フォーメーションで繁華街に展開、作戦を開始する」
「ラジャー」
有楽斎は共にやってきた野々村雪と話をしている。
「へぇ、あっちの高校じゃそんなことがあったんだね」
「二学期始まってすぐに転校してきたわけでもないから転校生って扱いは受けないよ。おかげで教室とか覚えるのが大変だったよ」
「あはは、この高校は大きいからね」
いたって普通の会話をしていたのだが、唐突に学生服を引っ張られる。
「どうしたのさ」
「おい、ちょっと……」
引っ張ったのは源友人。何やらおかしな顔………いや、おかしな表情をしていた。
「何か本なんて借りてたっけ」
「違う違う」
「何かDVDとか借りてたっけ………昨日返したじゃん」
友達になってすぐさまこう言った物の貸し借りをするのもどうかと思うがそれだけ波長の合う相手だったと言う事だろう。
「俺が言いたいのは雪ちゃんと仲良く話している事だよ」
「仲良く………別に仲良くってわけじゃないよ」
「お前…一度ふられた相手には告白しないんじゃないのか」
そういって視線は野々村雪へと向けられる。
雪は他の女友達と話しているようであった。どうも有楽斎の話をしているようでこちらのほうをちらちらと女友達のほうが見てきている。
「女に節操無いろくでもない男だよって今頃言われてるぜ」
「まぁ、確かに会ったその日の放課後に告白しているからね……しかも、今のところ三人ほど」
「野々村雪さんに榊理沙さん……あれ、もう一人告白していたのか」
「うん、新聞部の部長に」
「物好きだな」
「儚く散ったけどね………雪さんとは普通に話していただけだよ。彼女が勝手に勘違いして今に至るってことかな」
「ふーん………」
友人と話をしているとチャイムが鳴り響く。
「あらら……」
「あー、そうだ。最後に言いたかったんだがお前の噂は女子中に広まったそうだぞ。殺気みたいに女に節操無い軽い男だと思われてるそうだ」
「うわぁ、ひどい」
「お前がな」
「えーと、つまり僕が女の子なら誰かれ構わず告白するって思われているんだから……今後、僕的にいい子を見つけても事前情報だけで振られる可能性があるってことかぁ」
「そうだな。噂がやむまで辞めておいた方がいいだろうな」
まさかこんな弊害が出ようとは思いもしなかった……といったわけではなく、前にいた高校でも似たようなことが起こっているので今さらである。
「じゃ、今日から潜伏期間にしておくよ………幸い、美少女を遠くから眺めるぐらいなら何も言われないでしょ」
「さぁなぁ」
先生が来た為に仕方なく席に座る。
「えー、まだ四月だが席替えを行いたいと思う。原因は授業中の私語だ」
担任教師が話している間も生徒たちは好き勝手騒いでいた。一度だけため息をついた先生は黒板を思い切りたたく。
「静かにしろっ」
効果はあったようで一斉に静かになった……というよりも青ざめていた。
黒板に穴が開いたからである。
「せ、せんせー……黒板に穴が……」
「ん、ああ、すまんすまん。やりすぎた」
やりすぎて穴なんて開くんだろうかと生徒たちは考えたが答えはノーだった。出来るはずが無い。
「ともかく、席替えだ。くじで行うから不正はしないように…不正したら黒板みたいになるぞ」
冗談ですよね、誰かがそう聞いたが先生は答えてくれなかった。
「席替えかぁ……」
隣の席に座っている友人は何やら拝んでいるようである。
「何してるのさ」
「見ての通り、このクラスの美人に当たるようお願いしているんだよ」
「なるほど…」
くだらない話をしていたところで有楽斎の順番となる。適当な紙を掴んで次に回す。
「どうだった」
「おー……『一番』だったよ。地味にうれしいね」
全員にくじが行きわたり、先生が穴のあいた黒板に番号を割り振り始める。
「僕は……廊下側の一番前かぁ」
「俺は廊下側の一番後ろだな。場所的にはなかなかいい席が………俺ってついてるっ」
有楽斎の隣は野々村雪。喜んでいた友人の気になる席周りだが……なんと、前、左前、左全てが女子だった。
「ちくしょーっ、有楽斎っ場所変わってくれっ」
「え、嫌だよ」
後日、源友人の席は『穴熊』と呼ばれる事となる。友人いわく、魅力的じゃない女子に囲まれてしまったそうだ。