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第84話:想いを届ける言葉

第八十四話

 放課後になってすぐにゴリラを直接人間にしたような担任教師に入部届けを出したものの、眉根をひそめられる。そして、代わりに渡された紙には『旧家庭科室』と書かれていたのだ。

「そこに行くように」

「はぁ、わかりました」

 帰宅部と言えど最初の一回目は何かしらの説明でもあるのかなと思って有楽斎は鞄をつかみ、教室を後にする。

「お兄ちゃんっ」

「真帆子……どうしたの」

 旧校舎へと向かう途中、一回の廊下で真帆子に声をかけられる。

「お兄ちゃんって何部に入ったの」

「何部って言うか……帰宅部かな」

「えー」

「ま、ほら、色々とあるから帰宅部の方がいいし僕って不器用で運動向いてないからね。文化部系、運動部系のどっちにも向かないよ」

「真帆子と一緒に生物部に入ろうよっ」

 何故生物部に入りたかったのかわからなかったが、それなりの理由があるのだろう。一般的に考えて兄妹がいると活動しづらいと言うか気まずいものがあるかもしれない。

「……ありがとう、考えておくよ」

「うんっ。じゃあ真帆子はもう行くね」

 走り去った真帆子に有楽斎は下を出した。

「ごめんね、真帆子。お兄ちゃんは部活に入って汗を流すより放課後、天文学的な確率で美少女とお知り合いになれる可能性を信じるよ……だから、帰宅部に入るんだっ」

 決意新たに、有楽斎は下足箱で靴を履き替えるのであった。

 旧校舎に入り、階段を上る。三階の廊下から運動場の方を見るとさっそく部活動に勤しんでいる生徒達が見える。

「青春だなー…お、まだこの高校ブルマなのか……」

 旧家庭科室の扉を開けるとたった一人しかいなかった。

「あら、いらっしゃい」

「失礼します」

 きれいな人だなー、そう思いながら有楽斎は少し離れた場所へと座ろうとするが、声をかけられる。どこかで見たような気がするがどこだったかまでは覚えていない。

「こっちに来なさい」

「え、はぁ……」

「んー、残念だけどこの時間帯でも一人だけしか集まっていないから募集は締め切りのようね」

 まさか今年の帰宅部がたった二人だけとは想像しなかった。以前いた高校では結構な数の帰宅部員たちが軒を連ねていたはずなのだが、こっちの高校はそれを許さないのだろうかと考える。

 実際、有楽斎は知らないだけで帰宅部は一人もいない。幽霊部員だろうとなんだろうと、部活に所属していなければいけないのだ。

 改めてもう一人の帰宅部員…と思っている相手をみると、腕章を見ると三年生のようだ。腰まで伸ばした髪はさらさらで、端正な顔立ち。瞳の奥には自分の道を突き進みそうな光が見えたがそれもまた魅力の一つだろう。

「惚れました、付き合ってください」

「あら、付き合う前にはサインが必要なのよ」

「そうなんですか」

「ええ、結婚するのにだって婚姻届、離婚するのにも離婚届が必要でしょう」

「それもそうですね」

 そういって取り出された紙にほいほいとサインをする。美人のお姉さんを差し向けられたら一発で尻の毛も抜き去られそうな少年である。

「ん」

「はい、おめでとう。今日から新聞部として付き合ってもらうからそのつもりでね」

「え…」

「ああ、男女としての仲で付き合って…それなら却下よ。だってあなたに魅力も何も感じないもの」

「う、うわぁぁぁあああんっ」

 旧家庭科室を飛び出して有楽斎は廊下を駆け抜けた。ここが校舎なら教師につかまって嫌と言うほど説教を受けるのだがここにいるのはあいにく、部員五人以下の弱小部だけである。まぁ、たとえ弱小部だったとしてもしっかり部室は割り当てられている為に上位ランクと中位ランクの狭間に位置しているサッカー部よりはマシかもしれない。

 人数が多いので何人かは部室には入れないのである……今の有楽斎にはどうでもいい話だが。

「活動するのは明日だから欠席しないようにちゃんと来るのよ」

 後ろから新聞部部長の声が追いかけてくるのであった。


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