第81話:襲撃される場所
第八十一話
野々村克己が一番偉い人としてまとめ上げられている野々村第四基地。ここでは各基地を守るための隊員達が日夜鍛えられている場所でもある。
基地と言うよりどちらかと言うと訓練所と言ったほうがいいかもしれない。表向きは野々村家所有のスポーツショップと言う事になっているが、その地下には広大な施設が広がっているのだ。
ちなみに、秘密の特訓などもあったりするので波を割るようなシュートを練習したり、ボタン連打で某名人越えを目指す猛者などもいたりする。
「お前らっ、野々村基地を襲撃した奴とやりたいかっ」
右頬に鋭い傷が付けられている……脱いだらさらに傷が見えるのだが、背中に付けられた傷が一番すごい人である。
「おーっ」
ここにウサギが放り込まれた………どうなるか想像もしたくなかったが、ウサギではなく別のものがやってきた。
「司令、基地入り口正面から逃走本のむき出しの何かがやってきますっ」
「おう、お前ら………ついに来たぞっ。手段は問わん、お前らの力を試す時がやってきたっ」
「おーっ」
「早いもん順だっ、派手に暴れてこいっ」
「イエスサー」
上から見たらきれいな四角形の人たちがあっという間に部屋から出ていく。残ったのは克己とオペレータ二人の三人だけだ。
「司令……守備兵を付けなくてよろしかったのですか」
「構わん。あの大人数で行って敵わぬものなら守りに徹したところで意味などないっ。ああ、わかっているとは思うがカメラに映像を映し出すのはやめておけ……壊されるからな」
「了解しました」
「これは検定だ。噂となりつつある襲撃者とやらが私の相手にふさわしいか………」
「なるほど………」
「司令、先遣隊からの連絡が途絶えました」
「ふむ、噂どおりやりおるな………」
懐から短刀を取り出して鞘を抜き放つ。背筋がぞくりと来るような光を放つ刃をしている。
「あの……ここに銃がございますが」
「俺の勘だが奴は丸腰だろう………それに飛び道具なぞ気休め程度だ。油断したところを突かれたら終わりだ」
そういって刀を鞘に戻した。
「司令、半数が壊滅ですっ……この場所に侵入者が来るのも時間の問題ですよっ」
「ほー、やるな………奴は此処まで来るぞ。お前らの仕事はもう終わりだ。定時じゃねぇが帰ってよし」
「ですが……」
「ぐだぐだしてねぇで帰れっ。上が下を間違って傷つけちまったら大変だろうがっ」
怒鳴ってオペレーターの二人を帰らせる。残ったのは当然、一人だけ。
モニターは赤い点が指令室に向かっているのを示していた。
「………来たか」
警戒音が指令室に鳴り響き、赤い点は指令室入口までやってきた。克己の眼には吹雪いた山中で遭難したような感覚が襲いかかる……前も後ろも見えないくらいに真っ白なのだ。
「眼つぶし……いや、姿を隠しているのか」
対象が居ると思われる場所に素早く切り込む。相手は驚いたようで守りに徹した……奇襲をかけたのはよかったようだが、驚くことに一撃で短刀は折れていたのだ。
「なんと……ぐっ」
折れてすぐさま敵が攻勢に転じる。正面から腕が二本付き出されてきたのでそれをがっちりと両の手で受け止める。
「力比べか………負けんぞ」
両者の力が拮抗したかと思えば今度は足元をすくわれ、克己の体勢が崩れ、あっさりと壁に押し付けられたのだった。
「此処までか……だが、悔いはない」
せめてとどめを刺した相手の顔だけは拝んでやろうと吹雪を睨みつけるが瞬きを一度だけした後に残っているのは何もなかった。
ただ、少し開け放たれた通路につながる扉だけがあった。
「こいつはどういうことだ」
短刀も折れておらず、床に転がっている。モニターに映っている隊員達も気絶しているだけのようだ。
「リベンジ……は出来ないか。ともかく状況を報告しておかないとな」
克己は携帯を取り出して本家に連絡を入れるのであった。