第78話;襲撃
第七十八話
野々村貫太郎が指揮官である野々村第三基地。
主として野々村家の情報系統を一手に引き受けている場所であり、スパイやら宅配ピザやらと連日忙しい日々を送っている場所でもある。
当然、情報系統をひきうけている為に護りは強固で『不落』という異名がある。
「………野々村司令官、先日の第二基地襲撃についてですが…」
「なんだ」
この基地に配属されたばかりの新人は調書を見て言っていいものかどうか悩んでいた。
「その、非常に信じられない話なのですが……異形の者とのことです。人ではないと…」
「ほぅ」
「何でも……腕が六本あったとか……対立している東家の仕業とはあまり考えられないそうです」
「そうか……お前はどう思う」
とても偉い人に聞かれて新人は少し緊張しているようだった。
「この目で見ない限りは……信じられないものがあります」
「私もそうだ……」
彼がそう言ったからなのかはわからないが、サイレンが鳴り響く。
『第四ブロックより侵入者。数は一、負傷者あり、武装しているものと思われる……繰り返す………』
「し、司令官……」
「まさかな……」
顎の髭を撫でて頭を切り替える。
「配置につけ、被害の確認、モニターに侵入者を映せっ」
それなりに和やかだった『今夜の晩御飯なんだろなぁ』空気が一変して『こりゃ、晩御飯に間に合わんかもしれん』緊迫した空気が漂っている。
「第四ブロックのカメラ全壊した模様です……第三ブロックへと続く通路のカメラも壊されていくようです」
「コンディションレッド。敵一、第三ブロックへと向かっています」
第三ブロックへの入口あたりで隊員達が何者かと戦っている。
「野々村だ。どうなってる」
『司令官、ば、化け物です……化け物が……う、うわぁああああ……』
そこで通信が途絶える。
「カメラも壊されたようです」
「第二、第一ブロックから隊員を動かせ。標的を挟み打ちだ」
「それが……第一ブロックからの通路がふさがれてしまっているようで動けません」
『こちら第一ブロック守備兵。氷の壁が道をふさいでいる』
「氷の壁だと……」
『実弾も通用しませんっ』
銃撃音が聞こえているが、弾の無駄遣いだろう。
「司令官っ、侵入者は第三ブロックも制圧した模様です」
「………なんだと」
「第二ブロックに侵入しています」
「防護壁を下せ」
「了解しました」
いまだカメラが無事な場所では耐火性の高い鉄の板が下され、通路を塞ぐ。サイレンが鳴り響いているが、その場所だけみると何ともない倉庫のようなものだった。
「駄目ですっ、突破されてますっ」
「何……」
「モニター、映りますっ」
鉄の壁にへこみを付けることなく一撃で貫通させる。それは確かに腕のようだったが一直線にカメラを破壊した。
「に、人間の腕ってあんなに伸びませんよね」
「腕に見えただけだ」
これはどういうことだろうかと野々村貫太郎はモニターを見る。生き残っているカメラは四分の一になりつつある。
「第二ブロック、制圧されました…」
「残りは此処だけか……」
「敵一、第一ブロックに侵入しました。どうみても残りでは撃退できないと思われます」
「………」
何が目的なのかさっぱりわからない相手ほど怖いものはない。しかも、それがたった一人で此処までやったと言うのだから尚の事、恐ろしい話である。
「し、司令官……残り残存兵力零です。こちらに向かっていますっ」
オペレーターはそう叫んで司令官の方を見るが実に落ち着きはらっていた。
「みんなは逃げろ。私はこの基地を任されているから逃げることなど出来ない」
「……ですが……」
「見ろ、相手は逃げる時間をわざわざ与えてくれているようだぞ」
既に全モニターは砂嵐状態。耐火性の鉄の壁を一発で穿つほどの力なのにわざわざ傷を付けて指令室へと続く扉を壊していく。
「さ、逃げろ」
「し、しかし……」
オペレーターたちはすぐに逃げ出したが新人だけは逃げなかった。護衛用の銃を取り出す。
「こ、この目で確認するまでは逃げません」
「そうか……馬鹿ものだな」
しっかりと武装した連中があっさりやられてしまったのだからどう考えても太刀打ちできないのに扉の方を見据える。
後一撃で扉が壊される……と言うところで音がしなくなった。
「どう、したんでしょうか」
「……撤退でもしたのか」
ゆっくりと扉の方に近づくが、そこで貫太郎の方が気が付く。
「上だっ」
「え……うわぁっ」
新人が気が付いた時に遅かった。排気口を突き破って黒い手が新人を捕まえたのだ。
「くっ」
新人を掴んだ腕に銃弾を撃ち込むが全く効果はないようだった。
宙ぶらりんとなった新人は叫び続けている。
「またかっ」
今度は扉が完全に壊されて腕が伸びてくる。何かを持っているようだったがそれが何だったのかまでは確認できない。
黒い腕はたやすく人を貫通出来そうな速度で新人へと襲いかかり………
「ひえっ」
何かを頭にかぶせてあっさりと手を放した。司令官は壊された扉の方を見るがもはや何もなかった。
「い、一体何だったんでしょうか」
頭にあるものを乗っけたままで司令官へと尋ねる新人。
「……さぁな。目的は不明だが、襲撃を受けたのは事実だ………」
司令官は新人の頭に乗っけられた淡いピンクの女性用下着を手にとってため息をついた。
「………理解に苦しむ」
「え…」
まじまじと下着を眺めながらそう言う司令官に『別の色がよかったんでしょうか』と聞こうとしてやめるのであった。
後日、襲撃を受けた隊員たち全てが『頭に女性用下着をつけていた』と答えている。興味深いのは『頭に角が生えていた』ということぐらいだろう。
前回と今回以降では少々違うところがあります。