第76話:あっけない幕引き
第七十六話
有楽斎たちが通う高校の文化祭当日。元気のない状態で帰宅した有楽斎はおにぎり一つを自分で作って食べてそのままおぼつかない足取りで自室へと入って行った。
雪はこれを見て不安に思ったのだが、文化祭前日だから準備に追われたのだろうと解釈。当日の朝食は自分が作っておくと伝えて一夜を過ごしたのだ。
「やっぱり久しぶりに早く寝ると体調が違うねー」
伸びをしてから部屋を出る。そこで異変に気が付いた。
「あ……れ、え、天井に氷柱が出来てないし…床にも霜が降りてない……なんでだろ」
安定期にでも入ったのだろうかと考えながら廊下を歩いて有楽斎の部屋の前で立ち止まった。
「………やめとこ。まだ起こすには早い時間だし、疲れてたみたいだし………疲れてたら力が使えなくなるのかなぁ………」
そういって有楽斎の部屋から離れる。いつもは冷気も漂っているのだがそんなものなんて漂ってはいない。
まだ過ごしやすい感じがするが昼前には気温が上昇している事だろう。
「今日はベーコンをいためて目玉焼きでいいかな。ご飯じゃなくて久しぶりにトーストにしよう」
独り言で朝食メニューを決めて準備に取り掛かる。どの料理もあまり手間をかける必要が無いが、定番と言ったところだろう。
「そういえば今日ぐらいに霧生さんが帰ってきたっけ……ま、急いでいる用事もないし、話し合うのは有楽斎君と一緒に文化祭回った後でいいかな」
エプロンを付けて鼻歌混じりに調理を開始するのであった。有楽斎が照れながら誘ってくれた文化祭だ。どうせ高校なのだから里香や理沙、花月だっているだろう。
有楽斎だけと楽しむわけにはいかないし、あの三人が付いてくるに違いない……それでも楽しい文化祭になるだろうと雪は思っていた。
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有楽斎の部屋は氷漬けになんてなっていない。後に雪は気づくことになるのだが、有楽斎の寝床には直径一メートル程のかき氷のような雪が置いてあるだけだった。
不思議なことに、その雪の塊は布団を濡らしていないし、熔ける様子もない。
自分で動き、何かをするというわけでもなく誰かに発見されるまでそこにそうしているだけであった。
何かしらの力を感じると感じる人は言うかもしれないが、一般人から見たら単なる氷である。
多分、シロップをかけた後に食べられて……それで終わりだろう。