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第72話:出し物

第七十二話

「えー……非常に信じられない結果になりましたが、俺達のクラスは文化祭で紙芝居をすることになりました」

 白のチョークを持ちながら困惑している友人。

「紙芝居かぁ」

 そんなことを呟きながら話をしているクラスメートを見て有楽斎は頬を掻いた。

「まさか本当に紙芝居をやるなんてねぇ」

 友人からの視線が痛い。これはどういうことだと言う視線だ……もちろん、わからないと返しておいた。

「どうせ喫茶店とかは他がやるだろうからな」

「俺たちは学校一、いや、日本一…違うな、世界一の紙芝居を目指そう」

「馬鹿野郎、やるならもっと大きな宇宙一だっ」

「ははっ、題材は何がいいだろうな」

 高校生が紙芝居で暑くなっているものだから違和感がある。男子だけではなく、女子の方も『簡単そうだし、休み時間も多そうだから』と話していた。

 改めて黒板をみるとどれもこれも変なのばかりが候補だったりするから紙芝居と言う結果も納得できるかもしれない。

「……『水着だらけのクイズ大会』なんて絶対にあり得ないよ……」

「斬新だろ」

 手を振る友人に有楽斎はため息しか出なかった。

「よーし、お前ら。やることが決定して楽しいのはわかるがあんまり騒ぐなよ。職員室じゃ一番うるさいクラスって言われているんだからな」

 そりゃあ先生がうるさいから必然的にクラスもうるさくなりますよ、とは誰も云わなかった。

「やる内容とかは適当に決めて、何回やるのかもちゃんと決めておくように。残りの時間はいつものように自習だ」

 そういって先生が出ていく。もちろん、教師が居なくなったわけだからまた生徒たちは騒ぎ始めていた。

「さーて、紙芝居なんてなっちまったから音読得意な奴を抜擢しないといけねぇなぁ」

「で、紙芝居のほうはどうするのさ」

 友人に尋ねるとすぐさま答えが帰ってくる。

「そうだなぁ、適当に考えてみたんだが……一時間に一回のペースでやればいいだろ。五回は出来るだろうからとりあえず五つ話を考えておかないとなぁ……有楽斎、お前が『紙芝居』なんて言ったから責任とってくれよ」

「えー……まぁ、しょうがないかぁ」

 紙芝居と言ったら何があるだろうか……隣のクラスの教師が怒鳴りこんでくるまで有楽斎は一生懸命考えるのであった。



―――――――



「僕達のクラスは紙芝居やるんですよ」

 放課後の部活…夏休みが明けてすぐに運動会準備に取り掛かっていた為に結構久しぶりであった。

「そうなの」

「はい。御手洗先輩のところは何をするんですか」

 パイプ椅子に腰かけている花月はいつもとなんらか変わりなかった。まぁ、夏休み前と変わっているところがあるとすれば部室内に物が増えていると言ったところだろうか……加湿器やら本棚、誰かのサインボールなどが置かれていた。

「休憩室だけど教室の前と後ろで仕切りを作って異なる音楽を流すそうよ。何でも、音楽が人間に与える効果を調べるとか何とか」

「よくわからないけどすごそうですね」

 どうかしらねぇと花月は呟いて首をかしげた。

「で、紙芝居の題目は何するの」

「五つぐらいやるそうなんですけどまだ決まってないです。ひとつは決めてきてほしいって言われてるんですよ」

「桃太郎とか一寸法師とかは……ありきたりよねぇ。かといって自分で物語を作ったとしてもグダグダになりそうだし辞めたほうがいいわね」

「何かいい話がありますか」

 ふと、花月は有楽斎を見てから手を叩いた。

「……雪女の話なんてどうかしら」

「雪女ですか」

「ええ、知っているでしょう」

 どういった話だっただろうかと脳内を探ってみるが答えは出なかった。

「あれですか、えーっと、ほら……雪の日の村に雪女が出てくる奴ですか」

「違うわ。きこりが二人、山小屋に泊まっていると雪女が入ってきて片方だけを殺すんだけどもう一人の方は殺さない……しかし、この事を話したら殺すと言って去っていく話よ。後に男は妻をもらう。ある日、男は妻に雪女の事を話して実はその妻が過去に会った雪女だったって落ちよ……男と雪女の間には子供がいたからなのか知らないけど、男は雪女に殺されなかったわ。これが概略ね」

「雪女の話ですかぁ……」

「そうね、後は鬼の話かしら。野々村君は鬼って知っているでしょう」

 心なしか足元を見られている気がしたが…有楽斎は気にしないようにした。

「そりゃまぁ、大体知っていると思いますよ」

「桃太郎とか、一寸法師……いろいろな話に出てくるわね。もっとも、大体の話には人間が出てきて人は被害者、鬼は加害者みたいな関係ってところかしら」

「まぁ、それはそうだと思います」

 鬼だけしかでてこない話があるのかどうか有楽斎は知らないのだが、今は関係が無いだろう。

「般若の面って知ってるでしょ」

「はい。あの目がぎらぎらしている奴のことですよね」

 くわっと口が耳まで裂けたお面が頭の中で手を振っていた。

「あれって元は女だからね。何が女を鬼に変えたのかしら」

「………さぁ」

「我を頼めて来ぬ男、角三つ生ひたる鬼になれ…さて人に疎まれよ…霜雪霰降る水田の鳥となれ、さて足詰め冷たかれ、池の浮草となりねかし…と揺りかう揺り揺られ歩け……か」

 突然花月にそう言われても有楽斎にはピンとこなかった。

「なんですか、それ」

「…梁塵秘抄って古文で習ったのよ。それの一つの詩ね。嘘をついた男は鬼になってあちらこちらで嫌われればいいってそんな感じの訳だったかしら」

「はぁ……」

 花月は立ちあがって有楽斎の前に立つ。

「ちょっと立って」

「何ですか」

 言われた通りに立つと花月に抱きしめられる。

「何の冗談ですか」

「だからね、野々村君もあんまりふらふらしていると誰かに呪われちゃうかもしれないわよ」

「ははは……そんな馬鹿な。恨みを買うようなことはしてないですよ」

「してなくても相手は恨んじゃうことがあるのよ……紙芝居、頑張りなさい」

 それだけ言うと花月は有楽斎から離れて部室から出て行ってしまった。鞄を置いて出て行ったのだから戻ってくるだろう。

「………なんだったんだろ」

 何故抱きしめられたのかはさっぱりわからなかったが、とりあえず紙芝居の題材が決まったのでよしとしよう……有楽斎は再び椅子に座ってノートに書き記すのであった。


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