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第69話:鬼の力

第六十九話

 八月は終わったのだがそれでも日が沈む時間は遅いし、暑い。

「……それで、有楽斎君の頭に鉄球が当たったと……」

「そうよ」

 野々村家にやってきていたのは理沙一人。有楽斎は気絶したまま意識が戻らないようだが……ただ単に眠っているようである。

「直撃したのは間違いなかったんだけど……」

「怪我をしなかった、と」

「そう…でも、無事でよかったから。私、帰るわ」

 理沙は鞄を持って立ちあがる。そんな彼女を雪はひきとめるのだった。

「ちょっと待って」

「何よ」

「何かおかしなこととか起きたりしてないよね」

「おかしなことって……たとえばどういうことよ」

 訝しげに見られて首を振る。

「ううん、何もないならいいよ」

「変なの」

 そういって理沙は玄関から出て言った。一応、友達という事で見送りも終えて有楽斎の部屋へと行くと上半身を起こしていた。

「あれ…」

「鉄球が頭に当たったそうだよ」

「……ああ、そっか」

 頭を摩っているようだが首をかしげていた。

「怪我とかしてないけど」

「当たったけど奇跡的に助かったんじゃないかな」

「そうかな」

「今、晩御飯の準備しているからちょっと待っててね」

「うん」

 恐ろしく頑丈な生物を雪は知っている。それが生物なのかはともかく、鬼が非常にタフだと言う事は嫌というほど知っていた。

「やっぱりそうなのかなぁ……」

 今度有楽斎の頭に豆腐でもぶつけてみれば石頭がどれほどのものかわかるんじゃないかなぁと考えてみたりする。

「………ドリアンの方がいいのかなぁ」

 事態は雪が考えているほど甘いものではなかったのだが、彼女の基準の為少し理解不能である。きっと、霧生が聞いていたら『真面目に考えろっ』と怒っていたに違いない。



―――――――――



 運動会もあと四日ほどというところで有楽斎の二人三脚の相手が決まったりする。

 相手は校長先生である。

「………これさ、こけた瞬間に退学とかなりそうなんだけど」

 有楽斎の顔は不安一色である。

「それはないでしょ」

「あり得ないわ」

 理沙は首を振って、手伝いにやってきた花月は競技の道具をさっさと片付けている。

「あの校長もよくやるわよ。年寄りの冷や水より危険な行為だわ」

「決して若くないわ」

「いや、老人だから」

 花月は人差し指を顎に添えて何か思い出しているようだった。

「………そういえば校長先生って二人三脚の前の騎馬戦に出るって聞いた気がするわ」

「………そういえばそうだったような…」

「本当、あの校長は元気ねぇ…」

 何か特別な訓練でも積んでいるのだろうかと各々考えてみたりするが、どうすれば校長先生みたいになれるか答えが出来なかった。

「さ、早く道具を片づけましょう」

「そうですね」

「無駄なことに時間をかけちゃった気がするわ」

 やれやれと理沙はため息をつきながら鉄球を見つけたのだった。

「これ…」

 持ち上げようとするが重くてびくともしない。

「こんなのが有楽斎の頭に当たったはずなのに…」

 ちらりと有楽斎の方を見るがいつもどおりに競技の道具を片づけているだけである。どこかに支障をきたしているわけでもなかった。

「どうしたの」

 有楽斎への視線が花月を招いたようで理沙の持っている鉄球に興味があるようだった。

「それが噂の有楽斎君を沈めようとした鉄球ね」

「これ、砲丸投げ用よね」

 先輩相手に敬語なんて使っていないのだが、花月は気にする風でもなかった。

「……違うわね。あまりそれに触らないほうがいいわよ」

「なんでよ」

 花月の目が一瞬だけ睨むような感じだったがすぐに何を考えているのかわからないいつもの瞳になった。

「重たいから」

「でも、これも片づけないといけないでしょ」

 どうにかして持てないものかと首をかしげてみるがいい案は浮かばない。

「有楽斎、これ片づけてよ。重たいのは男子の仕事でしょ」

「あー、うん。持てるかどうかわからないけど……よいしょ」

「え」

「見た目だけだったよ」

 軽々と持ち上げて棚の上に置いたのである。理解不能であった。

「……有楽斎、ちょっとボディービルダーみたいなポーズをしてよ」

「え…あのね、見ての通り僕は平均的な筋力しか持ち合わせてないからそんなことしても悲しくなるだけだよ」

「いいから」

「……しょうがないなぁ」

 とりあえず拳を丸めて両腕で力こぶを作ってみた。

「どうかな」

「……しょぼいわね……」

 近づいて触ってみるも有楽斎の言うとおりそんなに筋肉があるわけでもなかった。

「………だからないってば」

「まぁ、野々村君のその顔で脱いだらすごかったとか吐き気がするわ」

「えー……」

「気持ち悪い」

「………」

 まるで虫でも見るかのような視線を受けて有楽斎はうなだれる。

「………本当、なんで有楽斎はあんなに重たいものを軽々と持てたんだろ」

 一人悩んでいる理沙を花月はじっと見ていた。

「知らないっていけないことね」

「え、何の事ですか」

「筋骨隆々となった後に私から毛嫌いされなくてよかったわねって言ったのよ」

「………そうですかねぇ」

 いいじゃないですか、マッチョ。僕もマッチョになりたいんですよと有楽斎は言うのだが花月に無視されたのだった。


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