第68話:落とし玉
第六十八話
運動会に向けての練習を倉庫から眺めながら有楽斎はため息をついた。
「なんで僕たちはこんな陰気なところで待たされているんだろうね」
「あんた何か参加したい競技あったりするの」
「うーん………先生が一つでいいって言ってたから適当にお願いしますって言っておいたよ」
何でもいいです、適当でもいいですよと言っておくとかなり面倒な協議をする羽目になったりする。有楽斎の場合は二人三脚だったりするのでまだマシだろう………ひょろっとした人が騎馬戦なんて出てしまったら想像するだけで恐ろしい話である。
「でもさぁ、運営委員会が第三のチームなんて変わってるわよねぇ」
「そうだよね。人数少なくて勝てないと思うけどなぁ」
赤、白、そして運営委員会チーム。色ですらないし、先生も混じっていたりするので三十人前後というところである。
「しっかし、私たちを呼びつけておいて人気もないし……こんなところで有楽斎に襲われたら……」
ちらりと有楽斎を見た理沙だったが、本人は驚いているようだった。
「え、僕に襲われる理由でもあるのっ」
「………ないわよ」
「じゃあ襲わないよ」
「なんだかなぁ……」
運動会の練習があっているし、競技の練習で使うための道具を出すために待機しているのだが暇である。
「うーん、何かしようにもなにもないしなぁ」
競技用の道具は大体出せるようにしているのだが肝心の要請が来ないのではないなら意味が無い。
ふと、有楽斎は相方の方に目をやった。
「うん、似合ってるよ」
「はぁ」
そう言って用具の置かれている三段の棚に背を預けようとしたのだが柱は不安定で支えていたらしい。
「ぬおっ………」
「あぶないっ」
言葉よりも行動を…すでに理沙は有楽斎を突き飛ばしており、落ちてきた道具が当たったりしているが一番上に置かれていた重たいものが理沙に落ちそうになって今度は有楽斎が理沙を押し倒したのだった。
「いたっ」
「……う、有楽斎……大丈夫よね」
「な、なんとか……」
有楽斎の上に落ちてきたものは鉄球である。どう考えても気絶しそうなものだ。マットにのめり込んでいる重さから見て尋常ではないはずだが……有楽斎は頭を撫でている程度である。
「あのさ、鉄球が後頭部に直撃したのよ」
「え、あ……そうなんだ……あれ、手に力が……頭もぼーっとなってきたし、やっぱり大丈夫じゃないかも」
有楽斎はそういって理沙に身体を預けるような形になった。
「ちょ、ちょっとぉっ」
「………」
男友達の後頭部に鉄球が直撃して、大変なことになっているのは頭ではわかっているのだが、なんだか別の意味で大変なことになってそうである。
どこを触っているんだと言いたくなるような場所に手を置いているし、こんな状況誰かに見られたらどうなってしまうのだろうかと改めて考える。
「う、う……」
有楽斎のうめき声を聞いて我に返った。
「とりあえず保健室に連れて行かないと……」
押し倒された状態でなんとか有楽斎を背中に乗せる。重いだろうと思っていたのだが、恐ろしいほど軽かった。
「………これ、どうなってるのよ」
さらに体温がかなり低いようだ。夏の日差しは確かに強いが、有楽斎を背負っているだけで冷房なんて必要ない。
低体温症なんだろうかと考えるがそうだとしても低すぎるように思えた。
――――――――
「うーん、鉄球が当たったって言っていたけど頭に外傷はなさそうね」
当たり所がよかったのかどうかは知らないが、どこも怪我をしていないように見える。
「よかったぁ……」
「安心するのはまだ早いわよ。とりあえず病院に送るけど……あなたも来るかしら」
「は、はいっ」
「あら、冗談で言ったつもりだったんだけど……それだけ心配しているのね」
「………そういうわけじゃ…」
「さ、こないと置いて行くわよ」
理沙は納得しなかったのだが有楽斎を担ぎあげた先生の後に続くのであった。




