第66話:与えられた仕事
第六十六話
初めて入る会議室だったが、何か罠があるわけでもない。
まぁ、罠なんかより数倍怖い視線が有楽斎たちを睨みつけていただけだ。
「し、失礼します」
二年生、三年生の椅子は全部埋まっている。一年の席も二つを残して全てが埋まっていたのだ。
つまり、最後にやってきたというわけである。
「………ほぅ、これはまた……女づれで来るとはなぁ」
「我々に対しての挑戦として受け取っていいのか」
お前らどう見ても高校生じゃないだろうと言う二年生二人組が有楽斎たちの事をいまだ睨んでいた。
しかし、さらにそれより巨躯を誇る三年生の人が制するのだった。
「お前ら静かにしろ………これより第一回運動会クラス委員会を始めます」
その後、役割分担は恙無く進み、有楽斎と理沙が余るような形となってしまった。
「あの、僕たちは何をすればいいんですか」
「……そうだな、君たち二人には言い方が悪いが雑用をやってもらおうかな」
そういって二枚紙を渡される。どちらも同じものが書かれており、理沙に渡すとどこの地図だか気が付いたらしい。
「これ、体育館第二倉庫のやつね。どこに何が置いてあるのか書いてあるわ」
「基本的にはその場所でクラス委員の指示する道具を渡してほしい。中には重たいものもあるから持てないときは先生や先輩達にお願いするように」
「わかりました」
「活動は明日からだから今日は解散だ」
会議室を後にする時も、他のクラス委員たちの視線が痛かった。
「何なんだろうね」
「さぁ、私に聞かれてもわからないわよ…ところで、あんたこれから部活だったりするわよね」
「うーん、どうだろ。今日は来るようにって言われてないからなぁ」
「じゃあ行かなくてもいいのね」
それはそれで極端な話だが確かに行かなくてもいいだろう。花月は今頃部室で何かをしているだろうし、急ぎの用事なんかがあるわけでもない。
「多分大丈夫だけど……それがどうかしたの」
「は、恥ずかしい話だけどさ」
「うん」
「この前雪が降った時にパーカー借りたじゃない」
「ああ、そういえば貸してたね」
それなりにお気に入りだったのだが忘れていたりする。人間とはそんなものなのだろう。
「それがどうかしたの」
「手違いで破けちゃったのよ。あ、言っておくけどわざとやぶったわけじゃないからねっ」
「そうなんだ」
「そうなのよっ。だからこれから時間あるなら私が代わりの物を買ってあげてもいいって言いたかったのっ」
目をつぶってそう言われる。
「え、いや…別に買ってもらわなくてもいいよ」
「こういうときは大人しく買ってもらいなさいよっ」
「う、うん……」
「さ、行くわよっ」
片腕をつかまれて引きずられていく。
「あ、ちょ、ちょっと……鞄持ってきてないよ」
手に持っているのは体育館第二倉庫の紙だけである。
「わかってるわよっ」
「でも、向かっているのは下足箱………」
理沙は回れ右して相変わらず有楽斎を引きずっている。
「素直じゃないなぁ」
「うるさいわねっ」
首をすくめようと思ったのだがあいにく片手が使えなかったので心の中でため息をつくことにしたのだった。
―――――――
「で、どこで買うのさ……あそこかな」
指差した先にあるのは庶民の味方のあのチェーン店だった。理沙に貸して天寿を全うしたパーカーは小学生のころに買ってもらったものがあまりにも大きかったからここまで着続けることが出来たという代物だ。
「あそこのわけないでしょ。こっちよ」
引っ張られて行った店はおしゃれさんが行くような店だった。
「僕、こんなところ入ったことないよ」
「いちいちうるさいわね」
明るい感じの店内で奥の方までよく見える。冗談なのか本気なのかはわからないが『流行を先取りっ』と壁に描かれていて冬物のコートが置かれている。
「さてっ、パーカーはどこだったかしら………ああ、紳士用はあっちか」
「僕、紳士じゃないよ」
「わかってるわよっ」
最初から最後まで引っ張られてきて、有楽斎は旅の終着点である男性用上着の場所へとやってきたのだった。
「さ、好きなの選びなさいよ」
「………うーん……」
出来るだけ以前のものに似たようなものを探してみるがなかった。
「これがいいや」
いつまでも過去の事を引っ張って生きるのはやめようと新しいパーカーを手にしてみる。無地の蒼いパーカーだった。
「それでいいのね」
「うん」
「ふーん、まぁ、無難なところよね」
「そうかな」
「私も買っておこうっと………無地なら別にペアルックってわけじゃないし、里香にばれて引っ張り合いになって破けるなんて……」
「え……」
「え、あ、あ~……今のは独り言よ」
「………そうなの」
「そうよっ」
破られた後、有楽斎のパーカーは理沙によって復活を遂げていたりする。里香にばれないようにお気に入りのひとつに入ったのは理沙のトップシークレットである。