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第56話:彼は目を覚ました

第五十六話

 夏にしてはおかしい冷気、それを感じて雪は有楽斎の部屋に忍び込んだ。

「………何これ」

 寝ている有楽斎に聞いたところでわかるまい。有楽斎の髪の毛は真っ白に染まり、皮膚も白く変色していたのだ。冷気を発し、枕が凍っている。

「そんな……やっぱり私の力を吸って鬼に………でも、これどうみても雪女の血の影響としか……」

 さっぱりわからなかったので実際に有楽斎を触ってみた。なるほど、人間の体温とは比べられないほど低いようである。

 吹雪が有楽斎に何かをしたのかもしれない。明日まで待てなかった雪は有楽斎の肩を揺する。

「有楽斎君、有楽斎君ってば」

「ん、ん………どうしたの雪」

 眠たそうに眼をこすりながら身体を起こした有楽斎を見てこれまた絶句した。

「え、嘘………」

 有楽斎の髪の毛は黒に戻り、皮膚の色も元に戻っている。ただ、枕は凍ったままなので先ほどの事が本当にあったことだと理解できた。

 一人驚いている雪を見て有楽斎は首をかしげた。

「どうしたの」

「え、あ、ご、ごめんね。ちょっと物音がして怖くなっただけだから。起こして悪かったよ」

「ん………物音……」

「私の勘違いみたい」

「そっか………おやすみ」

「おやすみ」

 有楽斎は凍った枕をものともせず、眠りに落ちたようだった。徐々に髪の毛は根元から白に染まっていき、彼の肌もまた白く染まっていった。

 吐く息は部屋を冷たくし、天井の一部が既に凍っていたようだった。

「なんだかものすごく悪い予感しかしないんだけど………」

 一人呟いたところで事態は好転しなかった。

 その後、一生懸命有楽斎に起こっている事を考えてたのだが頭がついていかなかった。眠気が襲ってきて横になって考えたが、当然答えは出なかった。



―――――――



「ん」

 有楽斎は目を覚まして驚いた。

「また凍ってるよ…」

 部屋のいたる所が凍っており、有楽斎はため息をついた。凍っていないものと言えば自分が身にまとっているパジャマぐらいだ。

「………あれ」

 隣に雪が寝ている事を発見して驚く。

「ゆ、雪……」

「ん………」

 どうやら雪は凍っていないようだとほっと一息ついた。

「あれ……あ、そうか。あれから寝ちゃったんだ」

「ほら、雪見てよ。部屋が凍ってるんだ」

 有楽斎にそう言われてあたりを見渡すと確かに、凍っていた。

「…………本当だね」

 触って分かったがこれは普通の氷ではないようだ。吹雪がやってきたときの雪と同じようなものだ。

 自分の力を制御できないほど強力な力を使う雪女が稀に居るが、その者の末路は力の使いすぎて消滅するしかない。

「何なんだろうね、これ」

「………とりあえず、氷って言うのはわかるけどね」

「うん、そうだよね」

 凍った壁やら本棚に触っている有楽斎とは別に雪はタオルケットに視線が釘付けになった。

「人の形してる」

「え」

 雪の言葉に反応して有楽斎は雪の隣に座ってタオルケットを見た。

「本当だ」

「濡れてるし」

「………」

 人の形をしたシミは濡れており、そこから徐々に氷が溶けていた。溶けたとしても濡れるようなものだが、不思議なことに氷が溶けた部分が濡れている事はなかった。

「本当、変な話だね」

「………うん、そうだね」

 明日には鬼塚霧生が帰ってくるだろう。もしかしたら何か知っているかもしれないから尋ねたほうがよさそうだと雪は思うのだった。

「ともかく、朝食にしようか」

「うん」

 その人型の大きさが吹雪に似ているような気がしないでもなかった。

「吹雪さんか………ちょっと里に手紙出したほうがいいかな」

 結局吹雪が来た理由がわからない。本当に有楽斎を始末しに来たのか、ただたんにビビらせるために来たのか………探りを入れることぐらいは出来るだろう。


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