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第54話:”敵意の限界値”

第五十四話

「あーひゃっひゃっひゃっ」

 顔を真っ赤にしながら酒をたらふく飲んでいる雪と、それをみている有楽斎、そして吹雪。

「未成年にお酒をすすめないで下さいよ」

「間違って飲んで恐ろしい状態になったってのが真実なんだけどねぇ………ま、あたしは進めてないから関係ないけどねぇ。いずれ酔いつぶれて寝ちゃうだろうに」

 吹雪の言うとおり、雪はそこらに倒れていびきをかき始める。

 本日初めて会いましたと言う人と一緒にいるのはそれなりに緊張する。

「ほー、色男はやっぱりもてるのか」

「もてるっていうか、どれも成り行きみたいなものなんですよ。人づきあいが悪いって方でもないんですけど、家事が忙しい時が多いですから友達と遊べないんです。やっぱり、遊べないと友達の輪から外れちゃって、気が付いたら一人になっているんですね」

「苦労人だねぇ」

「もう慣れました………ところで、吹雪さんのお仕事って何ですか」

 見た目から想像するに、何かの会社に勤めているんだろう、そんなことを考えるが答えは違った。

「………強いて言うなら、葬儀屋………かねぇ」

「葬儀屋ですか」

「ああ、そうだよ。無理やり生き返った爺さんやばあさんをころっとあっちの世界に送ってあげるのがあたしの仕事さぁ」

 実に怖い表情である。

「ほ、本当ですか」

「冗談だけどねぇ。本気にしてもらってあたしゃ嬉しいよ」

「…………」

 置いてあった最後のビールの缶を開けて半分ほど飲む。

「……色男、あたしにはそんなことはないんだが………人には聞かれたくないことって言うのがあるもんだ。気を付けておいた方がいいぞ」

「す、すみません」

「何、あたしには関係のないことだが………ところで」

 にやっとして吹雪は有楽斎に顔を近づける。酒臭い顔が近づいてきたのだから離れたいのが本音だが、初対面の人にそれは失礼だろう。

「あたし、どうだい」

「えーっと………」

 それがどういう意味だったのかしばらく考えてじっと吹雪の事を見つめる。

「綺麗です」

「おお、いうねぇ………隣に一緒に住んでいる女の子が寝ているっていうのにさ」

「まぁ、聞かれたから答えただけなんですけど………」

 頬を掻きながら有楽斎はため息をついたが、吹雪はどこ吹く風でビール缶を掴んで止まった。

「酒もなくなったし今日はお開きにさせてもらうかねぇ………じゃ、ありがたく雪の部屋を借りて寝させてもらうわ」

「はい、おやすみなさい」



―――――――――



「ぬがーっ………ぬがーっ」

「ちっ、うるせぇ………」

 隣で横になっている雪の口をふさぐ。そして手早くロープで絞めて転がす。

「ん…」

「お、起きたかい」

 少々、乱暴に転がしすぎたせいか雪の瞳が開かれる。素早くガムテープを口につけた。

「むぐ………」

「悪いねぇ、ばばあからのお願いって事で色男の始末が決まったんだわ」

「む………むぐぐぐぐぐぐぐ………」

 元気な芋虫が身体全体を使って抗議するも縄がほどけることは一切なかった。

「無駄無駄、その縄はわざわざ職人さんが作ってくれたそうだからねぇ。なんでも、女郎蜘蛛を縛り上げたかったそうだとさ」

 今度は転がり始めた。どこかにぶつけてほどけることを狙っているのだろう。

「ま、そこであがいているといいさ。五分内には仕事を終えるからねぇ………安心しな、苦しまずに色男の事は送ってやるさ」

「むーっ」

「あんたもいい男に巡り合えたねぇ。願わくば、今度は心の傷を癒してくれる男を探してくれるとありがたいよ」

 首をすくめる吹雪は雪のほうを見て歪に口元を歪めた。

「………おっと、その前に仇打ちするためあたしを目指すかな………ま、何にせよ半年間世話になった色男にお礼ぐらい言っておくべきだったねぇ」

 それだけ言い残して吹雪は雪の部屋を後にする。

「しっかし、部屋の中にあんなあからさまなレーダーやらなんやら置いているのを見て不思議に思わないんだな。ん、もしかして部屋の扉に貼ってあった『入らないで』って言葉を律儀に守っていたのか………普通だったら興味を持って女の子の部屋ぐらい覗くだろうに………」

 これはとても変わった人間だったんじゃないかと吹雪は考えたが首を振った。

「………あたしにはかんけーないな。さっさと終わらせてやるか」

 静かに忍びこんであっさりと有楽斎に近づく。

「………すー………」

「よく寝てるなぁ………ん、待てよ……」

 どう考えても有楽斎と雪は彼氏と彼女という関係ではないらしい。有楽斎はどう思っているかわからないが、雪の方はばればれである。

「惚れた男を奪われたんだから追ってくるだろうな」

今度会いに来た時にとどめを刺してやろうと考えた。そっと有楽斎の身体の上にのっかって口づけをかわそうとする。

「……うぐっ」

 せめてもの礼儀だと目をつぶったのがいけなかったらしい。気配を感じたわけでもないのだが、何者かによって恐ろしい力で抱きしめられている。

「すー………」

「ん………これは………」

 有楽斎に抱きしめられたものだと思っていたのだが、そうではなかった。吹雪の目には信じられないものが映っていた。


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